土工事、コンクリート工事、基礎工事の事例
土工事
3)地盤改良
2022/02/25
阪神大震災よりも前に構築された土留め擁壁を用いた盛土の耐震補強工事において、高圧噴射撹拌工法による地盤改良の施工を始めたところ、擁壁が前面側に変位するというトラブルが起きた。
図-1に盛土の構造と地盤概要及び地盤改良断面を示す。
擁壁は杭基礎で支持されているが、盛土下の地盤の深さ約3.5m~7.5mに緩い砂層がある。大地震時にはこの砂層が液状化して擁壁の外側方向に流動する懸念があるため、耐震補強として柱列式の地盤改良(Φ3m、改良長5m)が計画された(図-1、図-2)。用地の制約等もあり、地盤改良は盛土の上から高圧噴射撹拌工法を用いて擁壁の内側に施工した。
しかし、工事を開始して5本目の地盤改良柱体を造成中に、擁壁の天端が前面に最大50mm変位していることが確認されたため、工事を中断し対処方法を検討した。
擁壁が変位した原因は、地盤改良の高圧噴射の圧力(35MPa、セメント系硬化材+空気)が擁壁の基礎杭に対して側方圧として作用したためと考えられた。地盤改良する砂層の上下には粘土層があり高圧噴射の圧力が抜けにくく(図-1)、改良体を片押しで連続してラップ施工していたこともあり(図-2)、圧力が徐々に地中に残留して、擁壁基礎杭に大きな側方圧が作用したものと考えられた。また、施工担当者へのヒアリングから、地上への排泥が必ずしも順調ではなかったということが分かった。
対処方法として、高圧噴射撹拌工法の施工手順等を以下のように変更した。
①排泥促進のために、地表付近に挿入していた口元管の直径をφ140mmからφ200mmにした(図-3)。
②施工順序は、1本ずつ間隔をあけて施工するように工夫した(図-4)。
③擁壁の計測管理を実施し、5mmを超える変位が観測された場合には、次の改良体の施工開始を翌日まで延期する。
これらの対策を実施してからは、擁壁の変位をほぼゼロに抑えることができ、無事に工事を終了することができた。
高圧噴射撹拌工法は、コンパクトな機械によって小さな削孔径(φ100〜150mm程度)で施工できるため、狭い場所や高さ制限のあるところでも適用可能である。大深度にも適応でき、本事例のように任意の深さで必要な区間だけを施工することもできる。
しかし、20~40MPa程度の高圧のセメント系硬化材を地中に噴出するため、適切な施工管理を行わないと思わぬトラブルが発生することがある。特に排泥の排出不良には注意が必要で、逃げ場を失った圧力によって周辺地盤に変状が発生することや、掘削孔から離れた場所からセメント系硬化材が地上に噴出することもある。
今回は前述の対処策でトラブルを解消できたが、より厳しい施工条件では、いわゆるプレジェットと呼ばれる工程を加えることで、排泥を促進し周辺影響をさらに抑制することも可能なので、事前に検討しておくとよい。
プレジェットとは、セメント系硬化材による噴射撹拌の前に、高圧水を噴射して地盤を切削しておく施工方法で(図-5)、セメント系硬化材に比べて排泥の比重や粘性が低いために排泥促進に効果がある。また、プレジェットとセメント系硬化材の噴射の2回施工となることから、高圧噴射の圧力を通常より10MPa程度低くすることができ、周辺影響が抑えられる。ただし、プレジェットを用いる場合には、試験施工を事前に実施して要求品質(改良径、改良強度等)が満足できることを確認する必要がある。
なお、高圧噴射撹拌工法には、二重管工法(図-6、二重管ロッドを使用して空気を伴ったセメント系硬化材を高圧で噴出する工法)や三重管工法(図-7、三重管ロッドを使用して上の吐出口から空気を伴った高圧水を噴射して地盤を切削するとともに下の吐出口からセメント系硬化材を充填する工法)等1)があるが、近年、耐震補強等でのニーズに対応して新しい施工技術や活用方法の開発も進んでいる。工法選定や施工手順等の検討では、施工会社や工法協会のホームページ等で最新情報を確認されたい。
1) 例えば、日本ジェットグラウト協会:https://www.jetgrout.jp/index.html(2022/1/20閲覧)
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