現場の失敗と対策 このコンテンツは現場で働く皆さんの参考としていただきたく、実際の施工でよくある失敗事例と対策を記載したものです。土工事、コンクリート工事、基礎工事の3分野を対象として事例を順次掲載していきますので参考としてください。

現場の失敗と対策

土工事、コンクリート工事、基礎工事の事例

コンクリート工事

1)打設中(コンクリートの特性とクラック)

2022/07/01

既設コンクリートの嵩上げ部にひび割れが発生!

工事の概要とトラブルの内容

波堤の災害復旧工事で、既設の上部コンクリートを嵩上げするためコンクリートを打ち込んだところ、打込みから5~7日後に幅0.1~0.5mm程度のひび割れが複数のスパンにおいて発生した。

防波堤は約300mの延長で、上部コンクリートの長さは1スパン10m(合計30スパン)であった。上部コンクリートはパラペットを有する構造であることから、嵩上げコンクリートは2段に分けて打ち上げた。防波堤の嵩上げの概要を図-1に示す。

コンクリートの打込み時期は4~5月であり、1スパンおきの3スパンを同日に打ち込むような施工であった。目地は瀝青質目地板(エラスタイト)が用いられている。今回発生したひび割れは1段目のコンクリートに発生したものである。1段目の嵩上げ部の寸法は天端幅2.8m、高さ0.9mであった。

図-1 防波堤の嵩上げの概要図-1 防波堤の嵩上げの概要

嵩上げ部(1段目)に発生したひび割れの状況を図-2に、発生したひび割れの一例を写真-1に示す。スパン中央付近に生じたひび割れの幅が0.5mmと最も大きく、その左右に幅0.1~0.15mmのひび割れがそれぞれ1~2本発生した。このような傾向は、複数のスパンで同様であった。
なお、2段目の嵩上げコンクリートにおいても、スパン中央付近に1段目と同様の規則的なひび割れが発生したが、それらはスパン中央付近に1本程度であり、ひび割れ幅も0.2mm以下であった。

図-2 嵩上げ部(1段目)に発生したひび割れの一例図-2 嵩上げ部(1段目)に発生したひび割れの一例

写真-1 嵩上げ部(1段目)に発生したひび割れの一例写真-1 嵩上げ部(1段目)に発生したひび割れの一例

打込み箇所までのコンクリートの運搬は、防波堤の基部からのポンプ圧送であった。このとき、最大圧送距離が330mと長かったため、コンクリートのポンパビリティを確保するために単位セメント量(C)の大きい配合を用いることとし、圧送距離に応じて2種類の配合(①24-15-20BB、C=292kg/m3と②27-18-20BB、C=328kg/m3)のコンクリートを使用した。

発生したひび割れの幅は、単位セメント量の大きい②のスパンで大きく(最大幅0.5mm)、単位セメント量の小さい①のスパンでは比較的小さい(最大幅0.3mm)という傾向が見受けられた。

原因と対処方法

ひび割れの発生原因は、嵩上げコンクリートの発熱後の収縮が既設コンクリートの拘束(外部拘束)を受けたことによる温度ひび割れと考えられる。また、ひび割れ幅が異なったのは嵩上げコンクリートの単位セメント量(発熱量)の違いが影響していると考えられた。

今回の嵩上げ部の施工に関しては、底面と側面(パラペット側)が既設コンクリートに拘束されていること、長距離圧送をするために単位セメント量が比較的多かったこと、またひび割れの発生状況も長手方向(伸縮が卓越する方向)に対してほぼ直角に規則的に発生したことなどから、典型的な外部拘束による温度ひび割れと考えられた。

単位セメント量の異なるスパンでひび割れ幅が異なる傾向を示したのは、単位セメント量が多いほど発熱量も大きくなり、温度が上昇するときの膨張量(発熱膨張量)や温度が低下するときの収縮量も大きくなることから、収縮量の大小がひび割れ幅の大小の差となって表れたものと推察できる。

発生したひび割れは、幅0.2mm以上のものはエポキシ樹脂系の注入材を注入し、幅0.2mm未満のものはひび割れ表面をポリマーセメントモルタルで被覆した。

同様の失敗をしないための事前検討・準備、施工時の留意事項等

温度ひび割れの発生を抑制するためには、一般には「コンクリートの体積変化を抑制すること」、または「引張応力を低減すること」が基本である。また、ひび割れ幅を制御して有害なひび割れの発生を抑制するという考え方もある。一般的な温度ひび割れ対策の例を以下に示す。

A:コンクリートの体積変化の抑制

①温度上昇の低減

・水和熱が小さいセメント(低熱セメントなど)の使用

・水和熱を抑制する混和材料(フライアッシュなど)の使用

・セメント量の減少(高性能AE減水剤の使用など)

・打込み温度の低下(プレクーリングなど)

・温度上昇量の低減(パイプクーリングなど)

②収縮量の低減

・収縮量を低減する混和材料(膨張材など)の使用

B:コンクリートの発生応力(引張応力)の低減

・打込み高さHと長さLの比(H/L)を大きくする。

・拘束体(下層リフト)との打込み間隔を短くする。

・ひび割れ誘発目地の設置

C:ひび割れ幅の制御(有害なひび割れの抑制)

・ひび割れ制御鉄筋の配置(ひび割れの分散)

これらを踏まえ、今回と同様の工事での再発防止策としては、嵩上げコンクリートに高性能AE減水剤や膨張材を使用する(体積変化の抑制)、ひび割れ制御鉄筋を追加する(ひび割れ幅の抑制)、ひび割れ誘発目地の設置(ひび割れ発生箇所の制御)などが、比較的容易に効果を評価でき、実施しやすい対策と思われる。

これら以外の対策は、材料の調達や打込み計画・準備などに時間と手間がかかる場合が多いが、現場条件によっては実施しやすい場合もあると思われるので、十分に検討するのがよい。

関連記事

(一財)建設業技術者センターHP,現場の失敗と対策,カルバートボックスの温度ひび割れ対策の比較事例(2019/09/26),https://concom.jp/contents/countermeasure/vol006/,2019年9月

「現場の失敗と対策」編集委員会

編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。

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