現場の失敗と対策 このコンテンツは現場で働く皆さんの参考としていただきたく、実際の施工でよくある失敗事例と対策を記載したものです。土工事、コンクリート工事、基礎工事の3分野を対象として事例を順次掲載していきますので参考としてください。

現場の失敗と対策

土工事、コンクリート工事、基礎工事の事例

土工事

2)盛土・軟弱地盤

2022/09/01

追加盛土で地すべり発生の危険が迫る

工事の概要とトラブルの内容

10年前に供用された道路の谷埋め盛土区間において、斜面上部の用地を有効利用するために追加の盛土工事が実施された(図1、実例等を参考に簡略化)。原地盤は、表層約5mが風化泥岩(N値が10~40)で、その下は軟岩相当の泥岩(N値50以上)である。

盛土工事の施工が完了した直後に、この地域で比較的激しい雨が2日間降り続いた。雨がやんで現場点検を実施したところ、盛土下部の擁壁で最大15mmの変位(はらみ出し、微小な傾動)が観測され、法尻からの湧水も認められた。

そこで、状況を把握するためにGPSによる法面の変位観測を開始するとともに、関係者で対応を協議した。

図1 盛土工事の主測線断面形状とトラブル発生の概要図1 盛土工事の主測線断面形状とトラブル発生の概要

原因と対処方法

GPSによる変位観測では降雨と連動して変位が進行する傾向が認められた。

原因と対策工を検討するために、ボーリング地質調査を実施し、ボーリング孔にはパイプひずみ計と水位計を設置して動態観測を行った(図2)。調査の結果、地下水位が盛土内にあり、かつ降雨によって変動していた。盛土の法面排水施設(排水溝等)は適切に設置されていたが、集水地形であったため周囲からの浸透水で盛土内の地下水位が上昇したと考えられた。

盛土の安定解析では、現地盛土から採取した盛土材の土質試験等も行って土質定数の再設定を行った。安定計算(図3)では、安全率が常時で1.1、レベル1地震時で0.95となり、必要安全率(常時1.2、レベル1地震時1.00)が確保できていない結果となった。

また、パイプひずみ計による動態観測結果等から、変位の進行は非常に小さいが、風化泥岩層と泥岩層の境界付近での地すべりのリスクも懸念された。なお、既存の道路については特に変位等は観測されず、現時点では今回の盛土工事による影響はないと判断された。

図2 調査ボーリング等の概要図2 調査ボーリング等の概要

図3 安定解析の断面図図3 安定解析の断面図

対策工としては、盛土内の地下水位を下げるための横ボーリング工(放射線状に5本、削孔径66mm、VP40ストレーナ付保孔管を挿入)を施工した。さらに、近年多発する豪雨による地盤災害を鑑みて、安全・安心のために抑止杭(鋼管杭SKK490、Φ500mm×t12mm、L=15m、2mピッチ、10本)を施工することとした(図4)。

これらの対策工の実施後、地下水位は3m程度低下して安定性が確保され、変位の増加もないことが確認された。安定解析でも安全率が常時で1.25、レベル1地震時で1.1が得られた。今後は水位観測等(図2)を継続するとともに、道路土工構造物点検要領1)等に準じて定期的な法面点検を実施することが決められた。

図4 対策工の概要図4 対策工の概要

同様の失敗をしないための事前検討・準備、施工時の留意事項等

盛土の崩壊や地すべりは、台風や梅雨時の豪雨、あるいは融雪による地下水の増加、または地震によって発生する。したがって、集水地形における谷埋め盛土では、計画・設計段階で盛土内の地下水や周辺からの流入水について十分に配慮する必要がある。盛土崩壊のリスクを避けるためには、表面排水施設等によって盛土内に水を極力入れないことが重要であるが、盛土内に浸入した水をできるだけ速やかに排水するための地下排水施設2)も適切に設置することが望まれる(図5)。

また、地質・地盤に関しても、風化した岩盤等は、強度特性等のばらつきも大きく、数少ないボーリング調査だけでは地すべり等の重大なリスクを見落とす可能性もあるので、適切な調査を実施することが求められる。そして、地質・地盤に関するリスクに対しては、計画・設計・施工・維持管理といった様々な事業の段階において適切に対応することが必要である3)

なお、近年の盛土工事では経済性や資源活用の観点から建設発生土等が積極的に利用されているが、一方で不適切な盛土材料の使用に起因する土砂災害が大きな社会問題となった4)。建設発生土の利用に関しては、盛土による土砂災害リスクを避けるためにも、盛土の目的に応じた所定の品質を確保することが重要であり、発生土利用基準5)や各種指針類を適用するとともに関係法規の順守4)が求められる。

図5 排水の種類<sup>2)</sup>図5 排水の種類2)

参考資料

1) 国土交通省 道路局 国道・技術課:道路土工構造物点検要領,平成30年6月
https://www.mlit.go.jp/road/sisaku/yobohozen/tenken/tenken-yoryo_201806.pdf(2022.8.24 閲覧)

2) 日本道路協会:道路土工要綱,p.101,平成21年7月

3) 国土交通省大臣官房 技術調査課,国立研究開発法人 土木研究所,土木事業における地質・地盤リスクマネジメント検討委員会:土木事業における地質・地盤リスクマネジメントのガイドライン ―関係者が ONE-TEAM でリスクに対応するために― ,令和2年3月 ,
https://www.pwri.go.jp/jpn/research/saisentan/tishitsu-jiban/pdf/georisk-guideline2020.pdf(2022.8.24 閲覧)

4) 内閣府:盛土による災害の防止に関する検討会 提言,令和3年12月24日,
https://www.bousai.go.jp/kaigirep/kentokai/moridosaigai/pdf/teigen_honbun.pdf(2022.8.24 閲覧)

5) 国土交通省:発生土利用基準,平成18年8月10日,
https://www.mlit.go.jp/tec/kankyou/hasseido.html(2022.8.24 閲覧)

「現場の失敗と対策」編集委員会

編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。

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