土工事、コンクリート工事、基礎工事の事例
基礎工事
3)既製杭
2023/05/08
既存建物およびその基礎杭を撤去した後の事務所ビル新築工事の現場において、構造物の基礎として、プレボーリング根固め工法によるPHC杭を施工した。杭の仕様は、φ800mm、L=27m(掘削長30m、3本継ぎ)である。
地盤の概要は、GL-2.5mまで埋土、GL-8.4mまでシルト、GL-17.7mまで細砂、GL-28.6mまで砂質シルト、その下に支持層となるN値50以上の細砂層が分布していた(図-1)。
掘削開始後、スパイラルオーガのビット先端深度がGL-12m付近より掘削孔の曲がりに伴い、ロッドの横移動が発生し始めた。その後、アースオーガの上下反復を繰り返しながらGL-20m付近まで削孔したが、ロッドが安定せず掘削孔の横移動がかなり大きくなったので掘削を中止した。この時点での地表面でのロッド中心位置の心ずれは、450mmに達していた。
当該の新設杭(φ800mm)と撤去した既存杭(φ450mm)の位置関係を図-2に、トラブルの発生状況を図-3に示す。
既存建物の杭の引抜き(ケーシング縁切り引抜き)後の処理は、流動化処理土の充填や貧配合セメントミルクの充填・撹拌が望ましいが、現地はシルト分の多い砂や粘性土を地上から投入して埋め戻しただけで、杭抜き孔の充填が十分とはいえない状態であった。さらに、スパイラルオーガの剛性が十分でなかったこともあり、プレボーリング孔が既存杭の撤去・埋戻し部に引き寄せられたため孔の傾斜が発生し、上下反復を繰り返したことにより大きな偏心が発生したものと考えられた。
当該杭については、そのまま施工を進めると所定の位置に杭を設置できないため、貧配合のセメントミルク(セメント量:300kg/m3)を注入し、現地盤の土砂と混合撹拌して改良体を造成し、0.5N/mm2程度の強度発現が期待できる3日後に再度施工した。この時のセメントミルクの注入量は想定した量をかなり上回るものであったことから、既存杭の撤去後の埋め戻し不良により土中に空洞があった可能性が高いと推測された。
以降の杭打設においては、既存杭を引抜き・撤去した箇所を削孔し、貧配合セメントミルクを注入して、現地土と混合撹拌した。3日後以降に、新設杭の所定の位置に削孔し、全ての杭を正規の位置に沈設することができた。
近年、既存建物の老朽化に伴い、建物撤去後に新設の建物を建築する事例が多くなってきている。この際、既存杭の撤去は実施されているものの、撤去後の孔処理が十分でない事例が数多く見受けられる。新設杭が撤去杭跡に近接している場合、撤去後の杭孔の方にスパイラルオーガや先端ビットが逃げようとする動きがみられ、杭の偏心や傾斜が引き起こされることがよくある。
杭撤去後の孔の処理は、流動化処理土による充填や貧配合セメントミルクの充填・撹拌により、現地盤の強度に比べて弱くならないようにすべきである。
ただ、工事の発注形態としては、撤去と新設が別発注の場合もあり、このような場合は、撤去後の孔処理について適切に実施されるように要望をしておく。あるいは工事着手前に十分に調査して、撤去後の孔処理が十分でない場合は対策工を事前に検討しておくことが望ましい。対策工としては、以下に示す対策①~③を単独あるいは組み合わせて用いることが考えられる。
①新設杭打設の2~3日前に、杭撤去後の孔に埋められた材料を貧配合のセメントミルクで攪拌混合し改良処理を行っておく。
②新設杭のプレボーリング機械は、通常のスパイラルオーガに比べて剛性の高いロッドやケーシングを装着した掘削機械を用いる。
③撤去杭長が新設杭長に比べて短い場合(2工程となってもコスト・工期の増加が少ない)や、先端部の掘削攪拌機構等の関係(手配可能な機械の都合)でケーシング装着の掘削攪拌機による施工が難しい場合は、2工程となるが、予め撤去杭の下端付近までケーシング掘削し適切に埋め戻しを行った後、プレボーリングする。
なお、対策②単独の場合、既設杭の撤去部近傍では、設計で考慮されている所定の周面摩擦力が得られないことがある。設計図書により周面摩擦力が小さくなっても杭の必要支持力として問題ないことをあらかじめ確認しておく必要がある。
また、既存杭の撤去・埋戻し方法や既存杭の埋戻し地盤に新設杭を設計・施工する方法および留意点については、「既存杭の撤去・埋戻し方法とその影響を受ける新設杭の設計施工1)」が参考になる。
1) 公益社団法人 地盤工学会関東支部 新設杭に干渉する既存杭の撤去・埋戻しに関する研究委員会:既存杭の撤去・埋戻し方法とその影響を受ける新設杭の設計施工, 2022年6月
編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。
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