土工事、コンクリート工事、基礎工事の事例
コンクリート工事
3)打設後(養生・修繕等)
2024/07/01
ひび割れの原因は、発生時の施工状況が不明のため特定できないが、ひび割れがトンネルの軸方向に走っていること、セグメントの端部に集中していること(図-3のA)、また、直線区間より曲線区間に多く発生していたことからも、シールドジャッキの偏圧による損傷であることが推察される。同様に数は少ないが圧潰(図-3のB)もジャッキ推力の偏芯によるものであろう。
図4および図5は組立精度の悪さに起因する損傷モードとして、多くの文献に示されている1)ものである。これらも今回のひび割れの原因の一つとして考えられるが、それだけでは説明できないくらいパターンAのひび割れの数が多い
そこで、この現場の特徴として①幅広のセグメント(1350mm)の使用と②リング間の継手に軸挿入(ワンパス)式を採用していることに着目してみた。
従来、このクラスの標準的なシールド用セグメントの幅は1000mmであり、次いで1100mmと標準化されていったが、高速施工の観点からここでは1350mmで設計されていた。セグメントの幅が広くなるとシールドジャッキの力はまっすぐに伝わりにくくなる。図6に示すように、シールドジャッキがわずかに偏芯(θ)した場合、セグメントの幅が広くなるほどリング間でのずれ量(δ1.35>δ1.0)の差が大きくなる。
今回もそうであるが、近年、セグメントのリング間継手にワンパス式が多く採用されている。元来、RCセグメントの継手には、ボルトボックスが設置され、隣り合うセグメント同士をボルト・ナットで接合する(図7)。ボルトボックスのボルトを通す穴はリング継手板にボルトの直径より3mm大きくあけられていて、若干の余裕がある。このようにセグメントの組立て時にシールドジャッキの推力はセグメントの端面全体で押すことになる。
ところがワンパス式では、図2に示すようにすでに組み立てられたセグメントの端部(切羽側)にメス側の金物が設置され、これから組み立てようとするセグメントの端部(発進立坑側)にはオス側の突起が固定されている。ピッタリはまれば問題は無いが、少々ずれていた場合、シールドジャッキの推力はオスの突起を通してメス側の受け入れ部に大きな力を伝えることになる。これがひび割れの原因ではないかと考えられる。
もっとも大方のワンパス式継手ではメス側は数mmのずれなら吸収できる構造になっていることが多いが、ずれているのにむりやり挿入するとすでに組立てられたセグメントを傷めることになる。
残りの区間を施工するにあたり、作業員に対し、掘進に当たり図-4のようなモードにならないように慎重に組み立てること、シールドジャッキの押しはじめと押し終わりはリング全体に均等に力がかかるように全ジャッキを使用することを教育、徹底した。そのせいか、以降の施工におけるひび割れは減少した。
また、ひび割れ等の損傷個所は表-1に示す補修方法を施主に提出し、承認を受けた。
本報告は、セグメントの幅を広くすることやリング間継手のワンパス型の継手を否定するものではない。採用に当たっては実績等を充分に調査し選定すること、施工に際しては慎重に行う必要がある。
シールドトンネルに発生するひび割れの原因として、シールドジャッキの偏圧によるもの以外に
①裏込め注入の偏圧
②テールクリアランスが小さくなることに伴う、テールブラシ圧の増加
③シール材の反発力
④砂層によるシールドの胴締めと高い推力での掘進
等が挙げられる。
シールド掘進時の他、シールド設計時、セグメントの設計時において留意すべき点が参考文献2に書かれているので一読を勧める。
1)例えば(一社)日本トンネル技術協会:シールドトンネルを対象とした性能照査型設計法のガイドライン,pp95-98,2002
2)厚生労働省労働基準局安全衛生部安全課長:シールドトンネル施工に当たっての留意事項について,基安安発0806第1号,平成24年8月6日
編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。
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