〈建設ディレクター
  現場を支える新しい働き方〉

2024/08/01

社内外のコミュニケーションが活発に、
現場が明るく

鎌田建設(鹿児島県霧島市)

建設技術者の獲得競争は、鹿児島県内でも年々厳しさを増しているといいます。できるだけ多くの工事を受注したくとも、建設技術者は限られており、一人あたりの負担は大きくなってしまう。さらに今年度からは、いわゆる2024問題への対応も求められており、その負担を何とか緩和できないか。同社に限らず、地域の建設会社が共通に抱えるジレンマです。鹿児島県霧島市を拠点に建築・土木工事業を営む鎌田建設株式会社もこうした理由から、令和5年(2023年)4月、地元工業高校を卒業した久目苺花(くめ・いちか)さん、米永杏奈(よねなが・あんな)さんの2人を建設ディレクター(土木部)として迎えました。「的確な書類を作ってくれている。特に数字に間違いが少なく、本当に助かる」と技術者からの評判が広がり、建築部にも建設ディレクターを配置してほしいと声が上がるほど。鎌田安典副社長も、「入社2年目ですでに不可欠な存在になっている。これからの当社の働き方を大きく変えてくれるはず」と期待を寄せています。10代のフレッシュな建設ディレクター〝1期生〟の存在は、施工現場で近隣住民や協力会社とのコミュニケーションも活発にし、「現場が明るくなった」と想定以上の効果ももたらしはじめています。

今回は高校の同級生でもある建設ディレクターの久目さん、米永さん、鎌田副社長にお話をお聞きしました。

写真1:左から鎌田副社長、久目さん、米永さん 写真1:左から鎌田副社長、久目さん、米永さん

これまでのキャリアと、建設ディレクターを選んだきっかけを教えてください。

写真2:久目さん 写真2:久目さん

久目:建築科で3年間学ぶ中で、卒業後は就職を考えていました。もともとは建設業には進まず、製造業への就職を希望していましたが、現場代理人に憧れがなかったわけではありません。そんな時、進路指導の教諭から「建設ディレクター」という職種を紹介されました。カタカナの名前に「かっこいい」という第一印象を抱き、早速調べてみて建設ディレクターという仕事に興味がわきました。いまでも、名前の響きがとても気に入っています。

米永:高校の建築科に在籍していた当時、学校の企業説明会で建設ディレクターという職種があると聞きました。現場に出る勇気はありませんでしたが、建設業に何らかの形で携わりたいと思っていましたので、すぐに興味をもちました。同じ学校の先輩が建設ディレクターとして活躍していたこともあり、私も挑戦してみようと思いました。新しい職種で未知な部分もありましたが、家族は反対するどころか、快く送り出してくれました。

写真3:米永さん 写真3:米永さん

いま、どんな仕事をされていますか。

米永:基本的に、現場監督や現場代理人が指導係としてついてくれています。巡回に行った時の点検簿、施工計画書、安全管理書類、マニフェスト(産業廃棄物管理票)など、特に日常的な安全管理書類の取りまとめはほぼ私が担当しています。加えて、写真撮影にも携わります。発注者に提出するための工事写真を月に一度ドローンで撮影したり、現場から手伝いに呼ばれて立会い検査の写真を撮ったり、検査用のマーキングなど、現場の補助的な業務まで幅広く担当しています。

久目:私の業務もほぼ同じですが、最近では現場代理人の補助として一緒に丁張りを掛けたり、測量のお手伝いもしています。また、現場代理人がどうしても現場作業から手を離せない時に、代わりに市などの発注者に出向き、工事関係図書を提出することもあります。

写真4:現場代理人の指導のもと、写真撮影に励む久目さん 写真4:現場代理人の指導のもと、写真撮影に励む久目さん

仕事の楽しさは

久目:建設業のイメージはよく3K(きつい・汚い・危険)などといわれますが、気になったことはありません。泥だらけでもかっこいいと思っていますから。新しく知ること全部が本当に楽しいですね。例えば、土量管理は、ダンプの稼働状況を基準にするということを教わった時。想像していた管理の仕方とは異なっていましたが、新鮮ですぐに腑に落ちました。

米永:はじめは建築より土木の方が大変なイメージが大きく、率直に言うと不安もあったのですが、建築と似ている部分もあり、土木は奥が深いと感じています。とにかく、学校の教科書の中だけではわからなかったことを実際に見ることができます。そうした発見や感想を当社のSNSに投稿するのも、いまや業務の一環となり、楽しく勉強になっています。

写真5:安全管理書類の整理に励む米永さん 写真5:安全管理書類の整理に励む米永さん

困りごとや工夫は

久目:はじめは「丁張り」ひとつとっても、専門用語がわかりませんでした。まずは調べて、それが合っているのかを指導係の現場代理人に質問し、ノートにぎっしりと書いて覚えて、日々乗り越えています。楽しいことと苦労していることは表裏一体ですね。

鎌田:彼女らを指導する中で、技術者自身も、改めて学ぶことが多いようです。現状では、指導係が現場から事務所に戻った後に指導にあたるため、仕事の時間が奪われることもあるかもしれません。ただ、長い目で見れば彼女たちが成長し、建設ディレクター一人で複数現場を担当してもらうことで、技術者の負担削減、生産性向上に必ず結び付くと確信しています。直行直帰や現場常駐などもあり、実際の仕事ぶりは本社からは見えづらい。現場の条件は一律ではなく比較は難しいのですが、建設ディレクター導入から1年が経過したのを機に、技術者の残業時間がどの程度削減できているか、今後、データを詳細に分析する予定です。

写真6:現場で技術者から指導を受ける二人 写真6:現場で技術者から指導を受ける二人

技術者とのコミュニケーションを円滑にするための工夫は?

久目・米永:対面、電話でのコミュニケーションが主流ですが、ビジネスチャットツール「Teams」を活用し、副社長も含めて建設ディレクターの指導に関わる10名程度で、日報や資料を共有しています。「メール以上、電話未満」の内容を伝えたいときはTeamsやビジネスチャット「LINEWORKS」のチャット機能を使うこともあります。代理人によってはチャットをあまり見ない人もいますので、相手によって電話に切り替えたりと工夫しています。

建設ディレクターを選んでよかったこと

米永:指導係の技術者からは「とりあえず何でもやってみて」と挑戦させてもらっています。自分が作った書類に対して、「わかりやすい」と言葉をかけてもらえることが本当に嬉しいです。

久目:依頼されていないことでも自分で考えて先回りできた時、「ありがとう」と言われたら、「もっと考えて動こう」とやりがいにつながっています。とにかく、褒めてもらえることが一つでも増えるように頑張りたいです。

建設ディレクターはどのような効果をもたらしていますか

鎌田:現場管理においては地域の方々や協力会社にあいさつする機会も多く、彼女たちがいてくれることで、親しみやすく柔らかい雰囲気になるし、現場に笑顔も増えたと聞いています。例えば昨年、現場事務所前に植えていた花がうまく育たなかった時、自転車で通りかかった近隣の方が、手入れについて久目にアドバイスをしてくれて、それを機に近隣とのコミュニケーションが増えたそうです。彼女たちの対話スキル、人柄、頑張りがあってこそと感じています。本当にお陰様で、その現場は発注者からの評価がとても高い現場となりました。やはり、なんだかんだ言っても、発注者と受注者も結局は人対人ですから、コミュニケーションをしっかりとらなければなりません。「人間関係がよく、明るい」と評価されることは、ひいては当社全体のイメージアップ、人材採用にもつながるのではないでしょうか。
現在当社では、測量から設計、施工計画、施工、検査においてICTを活用していますが、ほぼ外注に頼っています。生産性向上やノウハウの蓄積という観点からいうと、デジタルが得意な若い世代の建設ディレクターがICTに関する一定のスキルを身に着け、ドローンで写真測量したデータの処理、3Dデータの作成などを任せられれば、内製化に取り組めるのではと期待しています。ただ、建設ディレクターとしてできることが増え、逆に業務負担が多くなってしまっては本末転倒です。建設ディレクターと技術者、それぞれの役割をどう明確化していくか。これが今後考えていくべき課題です。

写真7:技能労働者(向かって左)と談笑する久目さん。笑顔の絶えない現場。 写真7:技能労働者(向かって左)と談笑する久目さん。笑顔の絶えない現場。

今後の目標、夢は

久目:現場代理人に憧れはありますが、建設ディレクターとして、代理人が言ったことを全て理解できる知識を身につけるのが目標です。仕事の幅を広げて、自分なりの働き方を見つけていきたいと思います。当面は、発注者に提出する打合せ簿や、それに紐づけた図面などを作る際に、わかりやすい表現を身に着けたいですが、そのためには文章力を高めなければなりません。とにかく、「久目さんに頼めば大丈夫」と代理人に頼られ安心してもらえるような〝駆け込み寺〟になれればうれしいです。

米永:書類作成にとどまらず、出来形管理などもっと奥が深いところまで勉強したいです。「これはどうなってる?」と代理人に聞かれたことにすぐ答えられるような、例えるなら学校の保健室の先生のような建設ディレクターを目指しています。今は、建設業経理士検定の勉強中ですが、現場の基本的な流れを知るために土木施工管理技士の資格も取得したいと思っています。

鎌田:自分らしさを活かして、どんどんスキルを磨いていってほしい。それぞれの個性に合わせて、こちらもうまく仕事を依頼していきたいと思います。当社には現在、土木事業で約30名、建築事業で約10名の技術者がいますので、技術者との人数のバランスも大切にしながら、積極的に建設ディレクターの採用にも取り組むことを考えています。建設ディレクターとして入社しても、土木、建築の現場の魅力に気付き、将来的に「現場監督になりたい」という方がいても私はよいと思います。反対に、現場技術者が体力的に限界を感じた場合、建設ディレクターとして会社に残ってもらうこともあり得るとも思います。建設ディレクターという職種は多様な選択肢を選べるきっかけになり得るのではないでしょうか。

建設ディレクターにはどんな人が向きますか。興味のある人にアドバイスを。

久目:まずは現場の仕事を知ることからだと思うので、わからないことを何でも理解しようと思う心があればできる仕事だと思います。もちろん現場に出ることも大事ですが、基本的には事務的な職種です。体力などの制限がない分、知識欲、頑張れる心が大事なのだと思います。

米永:人とコミュニケーションを取りながら仕事を進めるため、対話が好きな人がいいですね。この先も長く働き続けたいと思っていますので、将来的にはリモートワークで継続できることも心強いです。

県内の建設会社が建設ディレクターを導入し、その評判を耳にしたことも、鎌田副社長の背中を押したそうです。「今こそ、やるべきと感じた」という、将来を見据えたその力強い言葉が印象的でした。久目さん、米永さんを含めた新入社員5名は、「女性、娘さん」という鹿児島弁を用いた「おごじょ5(ファイブ)」と呼ばれて愛されているそうです。取材後に人懐っこい鹿児島弁で話しかけてきてくれる、その姿は、単に技術者の負担を減らすというだけでなく、社内外のコミュニケーションを活発にし、現場が明るくなるという光景を容易に想像させてくれるものでした。
鎌田副社長は、ICTの内製化はもちろんですが、国土交通省直轄事業でBIM/CIMが原則適用になったことも踏まえ、「将来的にBIM/CIMを推進する際にも、デジタルに強い彼女たちのような若い世代の建設ディレクターが、それを支えて活躍してくれれば」と、建設ディレクターのさらなる活躍の場を見据えていました。

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