土木遺産を訪ねて 最寄り駅から歩いて行ける土木学会選奨土木遺産を紹介。周辺の見どころ等、旅の参考にしてください。

木学会が平成12年に設立した認定制度──『土木学会選奨土木遺産』。顕彰を通じて歴史的土木構造物の保存に資することを目的に、500件を超える構造物が認定されています。
コンコムでは、たくさんの土木遺産の中から、最寄り駅から歩いて行ける土木遺産をピックアップし、「土木遺産を訪ねて─歩いて学ぶ歴史的構造物─」を不定期連載します。駅から歴史的土木構造物までの道程、周辺の見どころ等、参考になれば幸いです。
みなさんも旅のついでに少しだけ足を延ばして、日本の土木技術の歴史にふれてみてはいかがでしょうか。

File 04

【心斎橋駅舎・御堂筋・大川・中之島の橋梁群/大阪府大阪市】

心斎橋駅舎、御堂筋線の地下駅群
認定年 平成20年度(2008年度)
所在地 大阪府大阪市中央区
竣工 昭和8年(1933年)
  • Start

    柱の陰の銘板探し

    柱の陰の銘板探し

    今回の歩いて学ぶ土木遺産は大阪の中心、心斎橋から御堂筋、旧淀川(大川・中之島)の橋梁群を歩いてめぐる行程です。出発地点としたのは、土木遺産の中でも珍しい「駅舎」と地下駅群として選奨されている「大阪メトロ御堂筋線の心斎橋駅」。繁華街の地下鉄梅田駅から三つ目、約7分で到着します。「心斎橋駅」は、昭和8年(1933年)、大阪の地下鉄1号線(梅田~心斎橋間)の開通で竣工され、半楕円形の高い天井やレトロな照明が当時の姿を残しています。土木学会選奨土木遺産を示す銘板は、意外と見つけにくく、ホーム上の案内柱をひとつひとつ確認しながら探してみてください。

  • Point 1

    御堂筋完成五十周年記念碑御堂筋

    御堂筋完成五十周年記念碑御堂筋

    認定年:平成17年度(2005年度)

    所在地:大阪府大阪市

    竣工:昭和12年(1937年)

    心斎橋駅から地上に出ると、目の前にはいちょうの緑が鮮やかな「御堂筋」が通っています。梅田から難波までつづく大阪のメインストリートでもある御堂筋も平成17年(2005年)に土木遺産に選奨されました。残念ながら、銘板については大阪市が現在設置場所を検討中とのことですが、代わりに御堂筋完成五十周年記念碑を見ることができます。記念碑によると御堂筋の道路幅は44m、長さ4.05km。当時としては類をみない大規模な街路工事であり、工費は当時のお金で3,375万円にもおよんだそうです。

  • Point 2

    大川・中之島の橋梁群
    (桜宮橋、天満橋、天神橋、大江橋、淀屋橋)

    認定年:平成12年度(2000年度)

    所在地:大阪府

    竣工:桜宮橋/ 昭和5年(1930年)

    天神橋/昭和9年(1934年)

    天満橋、大江橋、淀屋橋/昭和10年(1935年)

    淀屋橋

    淀屋橋

    竣工:昭和10年(1935年)

    構造:鉄筋コンクリート・アーチ橋

    橋長:53.5m

    心斎橋駅から御堂筋を北に向かって歩くこと約30分。橋梁群の最初のポイントでもある「淀屋橋」が見えてきます。淀屋橋は橋長53.5mの鉄筋コンクリート・アーチ橋。御堂筋の整備に伴って建設されました。淀屋橋の周辺には、史跡も多く、江戸時代の豪商「淀屋」の屋敷跡が有名です(ちなみにこの淀屋が開催していた米市のために自費で架けた橋が淀屋橋の前身だそうです)。

  • Point 3

    淀屋橋を渡ると前方右手に大阪市役所、左手に日本銀行大阪支店が見えます。その先に二つ目の橋「大江橋」が架かっています。大江橋は橋長81.5mの鉄筋コンクリート・アーチ橋で、大正13年(1924年)に淀屋橋と併せて、全国からデザインを募集する設計コンペを実施しました。1等となった設計案をもとに実施計画を策定したそうです。ちなみにコンペの賞金は1,000円。破格の賞金で話題になりました。前述の淀屋橋とこの大江橋は、大阪市指定文化財を経て、平成20年(2008年)に国の重要文化財に指定されました。

    大江橋

    竣工:昭和10年(1935年)

    構造:鉄筋コンクリート・アーチ橋

    橋長:81.5m

  • Point 4

    桜宮橋

    桜宮橋

    竣工:昭和5年(1930年)

    構造:鋼アーチ(3ヒンジアーチ)橋

    橋長:188.8m

    大江橋を渡ったら次のポイント「桜宮橋」へ向かいます。国道1号(京阪国道)を東へ約2km、大通りをひたすら歩きます。東天満の交差点を過ぎたあたりから銀色に輝く橋が視界に入ってきます。桜宮橋は鋼製のアーチ橋で、橋長188.8m。設計者は武田五一。大阪市民には通称「銀橋」とも呼ばれているそうです。国道1号の拡幅工事に伴い、平成18年(2006年)には、桜宮橋に寄り添うように「新桜宮橋」(設計:安藤忠雄)が架けられ、西行きは桜宮橋、東行きは新桜宮橋をわたる各3車線の道路となっています。周辺には橋の名前の通り、桜が数多く植えられ、春には市内有数の花見スポットとして大阪市民に親しまれています。また観光スポットも多く、橋の西側には造幣博物館を併設した財務省造幣局、旧桜宮公会堂、東側には桜宮神社、藤田美術館等があります。

  • Point 5

    天満橋

    天満橋

    竣工:昭和10年(1935年)

    構造:ゲルバー式鋼桁橋

    橋長:151.0m

    天満橋にある橋梁群銘板

    天満橋にある橋梁群銘板

    桜宮橋を折り返した辺りで全行程の約3分の2が終了です。ここまで約4.5kmの道程に要した時間は約一時間。周辺をゆっくり散策しても2時間です。国道1号を西へ戻り、東天満の交差点を左折。天満橋筋を南下すること約500m、「天満橋」が見えてきます。
    天満橋を渡る手前に交番があります。この交番の裏手に回ると小さな公園があり、天満橋を示す大きな銘板が設置されています。この銘板の横にややひっそりと「土木学会選奨土木遺産」を示す銘板が置かれていますが、知らずに歩くと見つけることは難しいかもしれません。地下鉄心斎橋駅舎の銘板と同様、こうした隠れた銘板を見つけるのも、土木遺産を歩いてめぐる楽しみかもしれません。

  • Goal

    天満橋を渡り、川沿いを下流へ進むと、「川の駅はちけんや」があります。平安時代には、京都から熊野古道へ向かう際、この八軒家浜(当時は渡辺の津と呼ばれていました)で船を降りて熊野古道をめざしたそうです。現在は、水辺を望む開放的なレストラン等が整備され、多くの観光客でにぎわっています。また「水陸両用車」の発着所、ボートによる淀川水上散歩の拠点として、水の都大阪を満喫できるスポットとしても人気です。遊歩道を約400m進むと、今回の探訪のゴール地点、「天神橋」に到着です。天神橋は天満橋、難波橋と並び「浪華の三大橋」と呼ばれ、ライトアップされた様は「日本夜景遺産」にも指定されています。

    ライトアップされた天神橋

    竣工:昭和9年(1934年)

    構造:アーチ橋(2ヒンジアーチ)

    橋長:210.7m

    ※写真提供/大阪市建設局

Album

  • 心斎橋駅舎のレトロな照明

    心斎橋駅舎のレトロな照明

  • 緑鮮やかな御堂筋

    緑鮮やかな御堂筋

  • 淀屋の屋敷跡

    淀屋の屋敷跡

  • 日本銀行大阪支店

    日本銀行大阪支店

  • 新(右)旧の桜宮橋

    新(右)旧の桜宮橋

  • 財務省造幣局

    財務省造幣局

  • 造幣博物館

    造幣博物館

  • 旧桜宮公会堂

    旧桜宮公会堂

  • 川の駅はちけんや

    川の駅はちけんや

  • 渡辺の津

    渡辺の津

Topics

今回訪れたエリアは、大阪を代表する繁華街、梅田と難波の間にあるため、普段は地下鉄で移動してしまう地域かもしれません。しかし、旧淀川周辺には、土木遺産が点在しているだけでなく、歴史的建造物や美術館、記念碑など、見どころが数多くありました。土木遺産に選奨されている橋梁群以外にも、八百八橋と言われる大阪を代表する橋をたくさん渡ることができました。しかも、そうした橋の多くが大都会のビル群と共存している様は、国内でもなかなかないスポットだと思います。観光名所も多く、大阪旅行に行かれる方も多いと思いますが、地下鉄を乗り継ぐだけでなく、時にはこんなゆっくりとした散策も良いのではないでしょうか。

Map

地理院地図をもとにCONCOM事務局にて作成

詳細地図(出典:国土地理院)

心斎橋駅

御堂筋

淀屋橋

大江橋

桜宮橋

天満橋

天神橋

【今回歩いた距離:約6.8km(心斎橋駅~御堂筋~淀屋橋~大江橋~桜宮橋~天満橋~天神橋)】

協力/公益社団法人 土木学会関西支部
写真提供/大阪市建設局
参考/土木学会選奨土木遺産紹介ページ

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