土木学会が平成12年に設立した認定制度──『土木学会選奨土木遺産』。顕彰を通じて歴史的土木構造物の保存に資することを目的に、500件を超える構造物が認定されています。
コンコムでは、たくさんの土木遺産の中から、最寄り駅から歩いて行ける土木遺産をピックアップし、「土木遺産を訪ねて─歩いて学ぶ歴史的構造物─」を不定期連載します。駅から歴史的土木構造物までの道程、周辺の見どころ等、参考になれば幸いです。
みなさんも旅のついでに少しだけ足を延ばして、日本の土木技術の歴史にふれてみてはいかがでしょうか。
認定年 | 平成29年度(2017年度) |
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所在地 | 静岡市葵区井宮町妙見下 |
竣工 | 1600(慶長年間)年頃 |
今回の歩いて学ぶ土木遺産は静岡県静岡市にある「駿府御囲堤(すんぷおかこいづつみ)」まで歩いてめぐる行程です。駿府は駿河国府中の略称であり、駿河国の政治的な中心地でした。戦国時代は今川家の所領であり、徳川家康が竹千代と呼ばれた幼少期に今川家の人質として過ごした地としても有名です。織田信長との桶狭間の戦いや武田信玄の駿河攻めによって今川家が滅びると、家康は駿府を本拠地として城下を整備しました。江戸幕府を開いた後に隠居した家康は再び駿府に居を構え、その際に行われた「天下普請」の一環で、西側を流れる安倍川の治水対策として駿府御囲堤が整備されたと言われています。薩摩藩が担当したとされていることから「薩摩土手」とも呼ばれています。
西側の清水御門から駿府城公園を後にし、中堀・外堀を渡って西側にある浅間通りを進むと正面に赤い鳥居が見えてきます。大歳御祖神社(おおとしみおやじんじゃ)の赤鳥居です。鳥居をくぐった先は「静岡浅間神社(しずおかせんげんじんじゃ)」、静岡という名称の元となったといわれる「賎機山(しずはたやま)」の麓に鎮座する神部神社(かんべじんじゃ)、浅間神社(あさまじんじゃ)・大歳御祖神社、三社の総称で、通称「おせんげんさま」、地元の方は親しみを込めて「おせんげんさん」と呼んでいます。三社のうち浅間神社は徳川家康が元服を行った場所として有名ですが、境内には三社の他に麓山神社(はやまじんじゃ)、八千戈神社(やちほこじんじゃ)、少彦名神社(すくなひこなじんじゃ)、玉鉾神社(たまほこじんじゃ)の四社も鎮座しており、七社参りをすると万願叶うと言われ、多くの参拝客が訪れていました。
浅間神社を出て西側の安倍街道を北に10分ほど歩くと、道路わきに突然堤防が現れます。今回の目的地である「駿府御囲堤(薩摩土手)」に到着です。「駿府御囲堤(薩摩土手)」は徳川家康の命により、安倍川の洪水から駿府城や街を守るために築かれた霞提の一部で、河口部に向かい約4.4kmにわたって築かれていました。薩摩藩主 島津忠恒が築堤したとされていることから「薩摩土手」とも呼ばれていますが、真偽のほどは定かではないようです。「薩摩土手」は築堤されてから周辺住民の安全を守ってきましたが、現在は河川堤防が強化されたこともあり約700mが残されているのみとなっています。しかしこの区間は控堤として国土交通省により管理されており、超過洪水時には防御機能が発揮できるように、道路開削によって寸断された箇所に陸閘が設置され、年に一回程度、夜間に通行止めをして開閉訓練が実施されているそうです。
子供の頃に初めて読んだ歴史の本が漫画偉人伝の徳川家康でした。人質となっていた竹千代時代、安倍川の石合戦の逸話、元服して今川義元の「元」の字をもらい受けた話など、30年以上前の記憶がよみがえる探訪でした。近隣の小学校では社会科の授業で「駿府御囲堤(薩摩土手)」を散策し、その歴史も学んでいるそうですが、日本人であれば誰もが知っている徳川家康が築かせた土木遺産を通じて、土木に興味を持つ子供が増えてくれることを願います。
また、今回新静岡駅から土木遺産までは普通に歩くと1時間ほどの行程でしたが、静岡浅間神社で七社参りをするために2時間ほど滞在し、目的地にたどり着くまで時間を要してしまいました。七社の一つ麓山神社は、賎機山の100段を超える石段を上る必要があり、疲れもしましたが、参拝後さらに山道を登った後に見た静岡の町と富士山は疲れを忘れさせてくれました。
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