土木学会が平成12年に設立した認定制度──『土木学会選奨土木遺産』。顕彰を通じて歴史的土木構造物の保存に資することを目的に、500件を超える構造物が認定されています。
コンコムでは、たくさんの土木遺産の中から、最寄り駅から歩いて行ける土木遺産をピックアップし、「土木遺産を訪ねて─歩いて学ぶ歴史的構造物─」を不定期連載します。駅から歴史的土木構造物までの道程、周辺の見どころ等、参考になれば幸いです。
みなさんも旅のついでに少しだけ足を延ばして、日本の土木技術の歴史にふれてみてはいかがでしょうか。
認定年 | 平成17年度(2005年度) |
---|---|
所在地 | 栃木県宇都宮市、今市市 |
竣工 | 大正5年(1909年) |
まずはペデストリアンデッキを降りて北に向かいます。道なりに5分ほど歩くと交差点の一角に黒塗りの壁が目を引く古い建物が現れます。国の重要文化財「旧篠原家住宅」です。篠原家は宇都宮を代表する旧家の一つで、江戸時代から奥州街道口の現在の場所で醤油醸造業等を営み、明治時代には県内有数の豪商となったそうです。この建物は明治28年(1895年)に建てられたもので、主屋の1階側面には大谷石が使われていることや、黒漆喰塗の壁が特徴的です。同じく大谷石貼りの蔵・大谷石の石塀とともに重要文化財に指定されている「旧篠原家住宅」は、宇都宮市管理のもと内部の見学も可能となっています。(見学有料:100円)
「旧篠原家住宅」を見学した後は上河原通りを大通り方面に進み、田川にかかる幸橋を渡ります。幸橋を渡った田川の左岸側は、「田川サイクリングロード」となっていますが、宇都宮市は自転車のまちとしても有名なことをご存知でしょうか。日本で初めての地域密着型サイクルロードレースチーム「ブリッツェン」があり、アジア最高峰のロードレース「ジャパンカップサイクルロードレース」も毎年開催されています。市内には14のサイクリングロードが設定されており、誰でも使える自転車用工具や空気入れを常備する「自転車の駅」を50カ所以上設置するなど、自転車利用者のためのインフラ整備も進められています。
大通りを右折し400m程西へ進むと、右手に巨大な鳥居が現れます。「二荒山(ふたあらやま)神社」です。同じ栃木県の日光にも「二荒山神社」がありますが、こちらは(ふたらさんじんじゃ)と読みます。区別するためにそれぞれ「宇都宮二荒山(ふたあらやま)神社」「日光二荒山(ふたらさん)神社」とも呼ばれています。社殿は標高135m程の明神山山頂にあり、95段の階段を上り参拝しました。
「栃木県庁昭和館」を出て、北へ500m程進むと、八幡山公園にたどり着きます。公園・展望台・日本庭園など、子供から年配の方まで楽しめる市民の憩いの場として親しまれています。園内中心部にある宇都宮のシンボル「宇都宮タワー」(高さ89m)に上ると、展望台から日本一の地平線を一望できるそうです。(入場料:190円)
八幡山公園を散策した後は、公園西側にある星が丘通りを西に進みます。300mほど進むと釜川にかかる西田橋に着きます。釜川は、日本で初めて2層構造河川に改修された川として有名です。宅地開発等の影響により洪水を繰り返していた釜川は流下能力向上のため、1992年(平成4年)に放水路整備などとともに2層構造に改修されました。釜川の2層構造はこの西田橋の下流からスタートしており、川の水が両サイドから下層部に流れ込む様子を見ることができます。記憶に新しい令和元年台風19号時の記録的豪雨にも整備効果を発揮し、洪水は発生しなかったそうです。
写真7)2層構造河川
ここからは釜川沿いを上流に歩きます。途中は遊歩道として整備されているので歩きやすいですが、目的地の「戸祭配水場」までは約1.5km。閑静な住宅街を歩き続けて西田橋から数えて13番目の橋、水道橋を右折し、急こう配の坂道を上ると「戸祭配水場」に到着です。残念ながら水道施設のため入場はできませんでしたが、正門右手の門柱に土木学会選奨土木遺産の銘板が設置されていました。
「戸祭配水場」は、「今市浄水場」「第六号接合井」とともに「宇都宮市水道施設群」として選奨土木遺産に登録されています。人口の増加した宇都宮市北部へ給水するため、今市市の浄水場から日光街道を通り「戸祭配水場」への通水が1909年(大正5年)に開始されました。「今市浄水場」「戸祭配水場」間の26.5kmには240mの高低差があり、水圧を弱めるために6つの接合井が造られましたが、現存するのは「第六号接合井」のみとなっています。
翌日、自転車のまち宇都宮を体感するため、宇都宮駅前でスポーツタイプのレンタルサイクルを借りました。目的地は宇都宮市水道施設群の一つ「第六号接合井」。運動不足の体を励ましながら、両側が杉並木となっている日光街道を直進すること約10km。東北自動車道の高架下を抜けてすぐ右手に、柵に囲まれた「第六号接合井」がありました。煉瓦積の上屋は100年以上この地にあるとは思えないほど、きれいに当時の姿を残していましたが、土木遺産であることを紹介する小さな案内があるのみ。「戸祭配水場」とともに国の登録有形文化財にも登録されている「第六号接合井」ですから、少し寂しく感じました。
土木遺産を訪ねて
2024/12/02
今回の歩いて学ぶ土木遺産前半は、JR土崎駅から土崎港にある選奨土木遺産「廣井波止場」をめざす行程です。土崎駅舎は比較的新しい建物で、...
建設ディレクター
2024/12/02
愛媛県松山市を拠点に道路舗装工事業や、管路工事などを営む株式会社愛亀(あいき)。同社も令和5年(2023年)度に、坪田元気(つぼた・げんき)さん...
現場の失敗と対策
今月の一冊
2024/12/02
日本の国づくりを担った総勢48人の〝土木偉人〟。その肖像と代表的な功績を絵札にしたのが『土木偉人かるた』だ。絵札に登場する48人をみると、農業用ため池・満濃池の改修を手掛けた空海や...
Copyright © 2013 一般財団法人 建設業技術者センター All rights reserved.