土木学会が平成12年に設立した認定制度──『土木学会選奨土木遺産』。顕彰を通じて歴史的土木構造物の保存に資することを目的に、500件を超える構造物が認定されています。
コンコムでは、たくさんの土木遺産の中から、最寄り駅から歩いて行ける土木遺産をピックアップし、「土木遺産を訪ねて─歩いて学ぶ歴史的構造物─」を不定期連載します。駅から歴史的土木構造物までの道程、周辺の見どころ等、参考になれば幸いです。
みなさんも旅のついでに少しだけ足を延ばして、日本の土木技術の歴史にふれてみてはいかがでしょうか。
認定年 | 平成28年度(2016年度) |
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所在地 | 千葉県松戸市 |
竣工 | 明治31年(1898年) |
松戸駅西口から駅前大通りを直進すること約200m、左手に松戸市観光協会があります。まずはこちらで市内の資料をピックアップ。ここでは松戸市が初めて発行したマンホールカード「矢切の渡しマンホールカード」をもらうことができます。信号を渡ってすぐの松戸市民劇場前では実物のマンホールを見ることができました。
さらに直進して「坂川」を渡り、5分ほど歩くと江戸川に着きます。この辺りから上流部の松戸側は、明治8年(1875年)にオランダより招聘された技術者により利根川水系初の直轄工事が行われた場所だそうです。(建設省五十年史)江戸川の支流のようになっている場所があったので、この辺りかと思い確認したのですが、草木に覆われてよく見えず、残念ながら痕跡は見当たりませんでした。江戸川から引き返し、一つめの土木遺産をめざして坂川左岸を下流へ歩きます。
「小山樋門」から坂川沿いに歩き続けることも考えましたが、寄り道をすることにしました。県道松戸野田線を南下し、JR常磐線をまたぐ歩道橋を渡り、線路沿いの坂を上がると「戸定が丘(とじょうがおか)歴史公園」。ここは前述の徳川昭武が明治時代に後半生を過ごした場所で、ほぼ当時のまま残されている邸宅「戸定邸(とじょうてい)」や復元された庭園の他、歴史博物館を見学することができます(歴史博物館、戸定邸見学は有料)。現在放映されているNHKの大河ドラマ「青天を衝け」にも登場する徳川昭武は、もし明治維新がなければ16代将軍となっていた可能性もあるとか。旧大名家の生活空間であった戸定邸や江戸川を望む東屋など、歴史を感じながらゆったりとした気分になれます。
寄り道をしてしまったため一度松戸駅に戻り、JR常磐線・京成金町線・北総線を乗り継ぎ矢切駅に移動しました。ここから残る2つの土木遺産を巡ります。矢切駅からは2つめの土木遺産「栗山配水塔」が見えます。駅前を通る松戸街道(県道市川松戸線)を南へ200mほど進み右に曲がると住宅地の中に巨大な配水塔が現れます。「栗山浄水場」にある選奨土木遺産「栗山配水塔」です。敷地内に入ることはできませんが、門の近くに建っているため間近で見ることができます。
門には案内板が設置されており、銘板の写真もありました。昭和12年(1937年)に建設された「栗山配水塔」は、ほぼ建設当時の姿のまま現役で稼働しており、「再現することが容易でないもの」として平成29年(2017年)に国の登録有形文化財にも登録されています。
浄水場左手を回り、森の坂道を抜けると「ちば野菊の里浄水場」。こちらも左手を回ると再び坂川にたどり着きました。ここで江戸川に合流するようです。坂川にかかる橋の下が3つめの土木遺産「柳原水閘(やなぎはらすいこう)」でした。親水公園として周辺が整備された緑地に降りると、目の前に見ることができます。明治37年(1904年)に建設された4連アーチの煉瓦造り「柳原水閘」は、「小山樋門」と同様に江戸川の逆流防止のため造られました。
今回訪れた土木遺産の中心となる坂川は、昭和30年以降、生活排水の流入により悪臭がするほど水質が悪化し、流入する江戸川にも影響があったそうです。そこで地域住民と国、千葉県、流域の市などが一緒になって清流化の取り組み「清流ルネッサンス」を行い、現在では子供たちが遊べるほどのきれいな川となりました。
調べてみるとその取り組みの一つとして、浄化した坂川の水を江戸川河川敷に整備した【川の中にある川:ふれあい松戸川】(江戸川で見た支流のようになっていた場所)に流し、「小山樋門」下流で揚水して坂川に戻しているそうです。また、揚水の一部を「小山樋門」方面へ戻して人口の流れ(逆流)をつくることによって、水深が浅く清流感を感じるきれいな川となったそうです。江戸川と坂川の両方を見ましたが、坂川の水が逆流していることに気づきませんでした。「柳原水閘」や「小山樋門」で逆流を防いでいた坂川が、今は逆流をしているとはなんとも不思議な感じがします。
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