土木学会が平成12年に設立した認定制度──『土木学会選奨土木遺産』。顕彰を通じて歴史的土木構造物の保存に資することを目的に、500件を超える構造物が認定されています。
コンコムでは、たくさんの土木遺産の中から、最寄り駅から歩いて行ける土木遺産をピックアップし、「土木遺産を訪ねて─歩いて学ぶ歴史的構造物─」を不定期連載します。駅から歴史的土木構造物までの道程、周辺の見どころ等、参考になれば幸いです。
みなさんも旅のついでに少しだけ足を延ばして、日本の土木技術の歴史にふれてみてはいかがでしょうか。
認定年 | 令和2年度(2020年度) |
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所在地 | 東京都千代田区~中央区 |
竣工 | 大正15年(1926年) |
延長 | 約41m |
幅員 | 27m |
八重洲口から最短ルートで進むため駅ビル沿いを北に進みます。丸の内トラストタワーを抜けていくとビルとビルの間に「北町奉行所跡」の案内板がありました。『北町奉行、遠山左衛門尉様、ご出座~』で有名な遠山の金さんが働いていた場所です。案内板を見ると平成12年(2000年)の発掘調査とあるので、周辺ビル建設工事の際は大変だったろうなと思いを馳せます。
永代通りに出ると6月末に完成したばかりの真新しいビル「常盤橋タワー」がそびえたっていました。「常盤橋タワー」は、再開発事業「東京駅前常盤橋プロジェクト」の第一弾で、今後も周辺の開発が進み、令和9年(2027年)には高さ390mの日本一高いビル「Torch Tower」が完成するそうです。整備中の広場を抜けると本日の目的である「常盤橋」が見えてきます。
「常盤橋」は、神田川から分かれ、隅田川に合流する日本橋川に架かる橋です。2連アーチの鉄筋コンクリート石張造で、大正15年(1926年)に関東大震災後の震災復興橋梁の一つとして建設されました。灯り付きの重厚な親柱は存在感があり、100年近い年月を経た橋は対岸に見える日本銀行ともマッチしています。関東大震災以前に架設された日本橋川のアーチ橋群と同様に2連アーチで建設され、日本近代橋梁史、特に東京中小河川におけるデザイン思想に重要な役割を果たしている橋梁として選奨土木遺産に選定されたそうです。「東京駅前常盤橋プロジェクト」で整備される広場「TOKYO TORCH Park」が完成し多くの人が訪れるようになれば、土木遺産が注目されるきっかけになるのではないでしょうか。
日本橋川の上流側にはもうひとつの「ときわばし」があります。都内で最も古い石橋「常磐橋(ときわばし)」で「盤」と「磐」の違いがあります。「常磐橋」は、明治10年(1877年)に木橋から架け替えられた2連アーチの石橋です。関東大震災により大きな被害にあい、震災復興橋梁として下流部に「常盤橋」がかけられたことにより廃橋となるところでしたが、現在放送中の大河ドラマ「青天を衝け」の主人公渋沢栄一氏の尽力により修復し残されたそうです。東日本大震災によっても被災したため、千代田区により修復工事が行われ、5月に完了したばかり。ほとんど手作業で石を一つひとつ積んで修復されたそうです。
なお、西側にある常盤橋公園内には、渋沢栄一氏の銅像が建てられており、2つの「ときわばし」を見守っています。
「常磐橋」を対岸に渡ると日本銀行本館が目の前です。日本近代建築の父とも呼ばれる辰野金吾氏設計により、明治29年(1896年)に建てられたもので、国の重要文化財に指定されています。周辺には「三井本館」「三越本店」などもあり、歴史的な建造物を楽しむことができます。周辺を散策していると、日本銀行本館南側の日本銀行分館入口に貨幣博物館を発見しました。大阪にあるレンガ造りの造幣博物館は有名ですが、貨幣博物館の存在は知りませんでした。入場無料とのことで見学したところ、古代のお金、小判や大判などの実物が展示されており、貨幣の歴史や役割、貨幣と文化・社会の関わりについて学ぶことができました。
ここまできたからには、日本で最も有名な橋であろう「日本橋」まで足を伸ばしてみましょう。「常盤橋」から日本橋川沿いを下流方向へ歩くこと約300m、国の重要文化財でもある「日本橋」に到着です。現在の「日本橋」は明治44年(1911年)に架けられた2連アーチの石橋で20代目とされています。「日本橋」は日本の道路網の起点となっており、日本国の道路元標が橋中央部に埋め込まれています。残念ながら間近に見ることはできませんでしたが、北西側の橋詰には日本国道路元標の複製展示されており、元々設置されていた東京市の道路元標とともに確認することができます。
東京に住んでいても、東京駅を利用する際は新幹線に乗り換えるばかりで、周辺を歩く機会はほとんどなく、1~2時間で歴史ある土木遺産や建築物を堪能することができたのは大きな発見でした。
東京駅は「歴史を象徴する丸の内駅舎エリア」と「未来を象徴する八重洲エリア」のコンセプトで開発されているそうです。再開発の進む各地区においても、歴史を感じる橋梁や建築物と、最新の建設技術が用いられた土木構造物や建築物が融合した新しい街に生まれ変わっていきます。今後も定期的にその変化を楽しみながら新しい発見をしたいと思いました。
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