土木学会が平成12年に設立した認定制度──『土木学会選奨土木遺産』。顕彰を通じて歴史的土木構造物の保存に資することを目的に、500件を超える構造物が認定されています。
コンコムでは、たくさんの土木遺産の中から、最寄り駅から歩いて行ける土木遺産をピックアップし、「土木遺産を訪ねて─歩いて学ぶ歴史的構造物─」を不定期連載します。駅から歴史的土木構造物までの道程、周辺の見どころ等、参考になれば幸いです。
みなさんも旅のついでに少しだけ足を延ばして、日本の土木技術の歴史にふれてみてはいかがでしょうか。
認定年 | 令和3年度(2021年度) |
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所在地 | 東京都大田区 |
竣工 | 昭和6年(1931年) |
東口改札を出て右手の横断歩道を渡ると旧東海道です。ここには、「芭蕉の句碑」があります。写真では少し見えにくいかもしれませんが、石碑には『麦の穂を たよりにつかむ わかれかな 芭蕉』と刻まれています。元禄7年(1694年)、江戸をたち、故郷の伊賀(三重県)に帰る際に、江戸から川崎の宿場はずれまで見送ってきた弟子たちとの別れを惜しんで詠んだ句だそうです。
旧東海道に戻って探訪のつづきです。旧東海道の散策で必ず訪れて欲しいのが「東海道かわさき宿交流館」です。この交流館は、東海道川崎宿の歴史や文化を学び、それを後世に伝えていくための施設として、平成25年(2013年)にオープンしました。1階では約20分の動画「川崎宿今昔物語」が鑑賞できます。2階は当時の川崎宿の街並みを再現した模型の展示や「六郷の渡し」の物語を映像で紹介しています。
また旧東海道の歩道には、そこかしこに川崎宿をイメージさせる工夫が施されています。観光スポットを紹介したガイドパネルはもちろん、通りを示す看板にも江戸の文化が描かれていたり、「東海道五十三次/川崎宿」の絵画が描かれたマンホールを見かけたりします。こうした街並みのちょっとした工夫を探すのも、旧東海道散策の楽しみかもしれません。
慶長5年(1600年)に徳川家康が架けた六郷橋は、当時は「六郷大橋」と呼ばれていました。洪水によって何度も流され、その度に修復や架け直しが行われてきましたが、貞享5年(1688年)の大洪水で流された後、復旧をあきらめ、明治時代に入るまで「船渡し」となりました。大正14年(1925年)には、長さ446メートル、幅16.4メートルの近代的な鉄橋(旧六郷橋)が架けられましたが、交通量の激増や車両の重量化に対応できなくなり、「1985年(昭和60年)、現在の六郷橋が架橋されました。
六郷橋を降りたら下流方向へひたすら土手を歩きます。土手には桜の木がたくさん植えられていますので、春に桜並木を見ながら散策するのも良いかもしれません。土手を歩くこと約1,500メートル。レンガで作られた水門が見えてきます。今回の探訪のゴール「六郷水門」です。多摩川の下流部は明治から大正にかけて高潮や洪水の被害に見舞われることが多く、大正7年(1918年)から昭和8年(1933年)にかけて、内務省直轄による多摩川改修工事が行われました。
この工事の一環として六郷水門が施工され、昭和6年(1931年)に完成しました。国土交通省 関東地方整備局 京浜河川事務所の「六郷水門紹介ページ」によると、設計者は、ドイツ人の神智学者シュタイナーではないかといわれていますが、残念ながら特定する資料は残っていないそうです。当初の役割は平時には六郷用水を排水し、洪水時にはゲートを閉じて多摩川からの逆流を防ぐというものでした。六郷用水がなくなった今でも、逆流防止の機能を有し、現在まで80年にわたって使用されています。
六郷水門は側面のレンガの赤茶色と、水門のブルーのコントラストがとても美しく、写真映えする構造物です。ちなみにこの側面のレンガは、当時の内務省多摩川改修事務所長であった金森誠之(かなもりしげゆき)氏が考案した「金森式鉄筋レンガ」で、この工事で初めて使用された新技術だったそうです。また、水門に架かる橋の高欄には、地元である旧六郷町の「町章」がデザインされています。
今回の探訪は、旧東海道の川崎宿を散策しながら、土木遺産「六郷水門」を訪ねる行程でした。川崎宿めぐりでは、案内板や史跡紹介の看板など、川崎市と地元町内会や商店会が協力して、さまざまな街並み整備を行っている様子がわかりました。この案内板のおかげで、現存していない史跡についても知ることができました。また、文中でも紹介しましたが、「東海道かわさき宿交流館」には、街歩きガイドなどの資料もそろっていますので、必ず立ち寄ってください。六郷水門へつづく多摩川土手は、春、桜の季節の来訪がオススメです。
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