土木学会が平成12年に設立した認定制度──『土木学会選奨土木遺産』。顕彰を通じて歴史的土木構造物の保存に資することを目的に、500件を超える構造物が認定されています。
コンコムでは、たくさんの土木遺産の中から、最寄り駅から歩いて行ける土木遺産をピックアップし、「土木遺産を訪ねて─歩いて学ぶ歴史的構造物─」を不定期連載します。駅から歴史的土木構造物までの道程、周辺の見どころ等、参考になれば幸いです。
みなさんも旅のついでに少しだけ足を延ばして、日本の土木技術の歴史にふれてみてはいかがでしょうか。
認定年 | 平成18年度(2006年度) |
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所在地 | 山口県下関市~福岡県北九州市 |
竣工 | 昭和17年(1942年) |
「関門トンネル」へ行くには、下関駅から南下するのですが、古くから本州の玄関口として栄えた下関の街には、歴史的な建造物等も多く残っているため、下関駅から東に向かって散策してみます。駅前を通る国道9号を東に進むと、進行方向に「海峡ゆめタワー」がそびえたっていましたので、海側にある海峡ゆめ広場へ寄り道してみます。平成8年(1996年)に竣工した「海峡ゆめタワー」は高さ143m。頂部の展望室からは関門海峡が一望できます。夜間にはライトアップもされ、関門海峡のランドマークとして下関市民に親しまれています。「関門トンネル」開通以前、下関駅はこの周辺にあり、下関と門司を連絡船でつないでいましたが、「関門トンネル」開通に伴って下関駅は現在の場所に移転されたそうです。
唐戸の街を散策した後、再び下関に戻り、改めて「関門トンネル」に向けて出発です。山陽本線の西側を並行して走る県道250号を南下し、1kmほど歩きます。本州最南西端の彦島へ渡る「関彦橋(かんげんきょう)」の手前で右折すると、「下関漁港閘門」があらわれます。
「下関漁港閘門」は昭和11年(1936年)に設置された、幅8m程の海峡にかかる世界最小のパナマ運河方式閘門で、現役で稼働しています。特徴的なのは2つの水門に囲まれた閘室上に車道が通っており、1日3回決まった時間(8:40~10:50、12:10~13:50、15:00~16:30)になると上部に引き上げられて船舶が通行可能となる点です。閘門にかかる可動橋としては国内唯一で大変珍しいもの。なお、水位調節のための両サイドの閘門ゲート上は歩道となっており、船舶航行時にはこちらも通行止めとなります。車道引き上げ時の動画も撮影しましたので是非ご覧ください。
閘門ゲート上にかかる歩道を渡ると彦島です。左折して県道251号を南下、山陽本線の高架橋手前で右折し坂を上がると「関門トンネル」の下関側坑口が見えてきました。
「関門トンネル」は昭和11年(1936年)に着工され、戦時中の昭和17年(1942年)に下り線(写真左側)が、昭和19年(1944年)に上り線(写真右側)が開通し、世界初の海底トンネルとも言われています(諸説あり)。
構想当初は橋梁案もあったそうですが、標的にされやすいという国防上の理由からトンネル案が採用されたそうです。トンネルの全長は約3,600m、海底部延長は1,140mで、掘削には当時ほとんど国内事例がない最先端の技術であったシールド工法が本格的に採用され、その経験はシールド工法の発展に寄与したといえます。
なお、トンネル二つで施工されているのは、大断面のトンネル一つでは工事の難易度が上がり工事費が高くなってしまうことが主な理由ですが、事故等があった際にも単線での運転が可能となるようリスク管理のためでもあるそう。完成から80年近くを経た「関門トンネル」も他のインフラ同様に維持修繕が課題となっていますが、交互に単線利用をして維持管理をしながら、現在も九州と本州の大動脈として活躍を続けています。
今回訪れた「関門トンネル」は、下関側の坑口を見ることができましたが、これほどの土木遺産であるにもかかわらず、周辺には特に案内板等は設置されていませんでした。そこで、下関駅から山陽本線に乗り「関門トンネル」を通って門司駅に行くと、5・6番線ホームに案内板が設置されていました。
古くから九州と本州、また日本と海外の交流の場として発展してきた下関および門司エリアは「関門“ノスタルジック”海峡」として文化庁の認定する日本遺産にも選ばれています。まだまだ歴史的な建造物がたくさん残っていますので、周辺散策をゆっくりと楽しんでみてはいかがでしょうか?
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