土木学会が平成12年に設立した認定制度──『土木学会選奨土木遺産』。顕彰を通じて歴史的土木構造物の保存に資することを目的に、500件を超える構造物が認定されています。
コンコムでは、たくさんの土木遺産の中から、最寄り駅から歩いて行ける土木遺産をピックアップし、「土木遺産を訪ねて─歩いて学ぶ歴史的構造物─」を不定期連載します。駅から歴史的土木構造物までの道程、周辺の見どころ等、参考になれば幸いです。
みなさんも旅のついでに少しだけ足を延ばして、日本の土木技術の歴史にふれてみてはいかがでしょうか。
認定年 | 平成26年度(2014年度) |
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所在地 | 宮城県仙台市、山形県山形市 |
竣工 | 昭和3年(1928年)〜昭和30年(1955年) |
選定理由 | トレッスル橋、長大隧道など昭和初期の先端土木技術を反映し、転車台、変電所、機関区など東北初の直流電化や戦後新幹線の礎となる交流電化発祥の地として世界に誇る日本の鉄道技術資産 |
今回はいつもと異なり、宮城県仙台市と山形県山形市を結ぶJR仙山線の鉄道施設群を訪れることから、Startを仙台駅、Goalを山形駅とする行程を紹介します。なお、仙山線鉄道施設群は『第二広瀬川橋梁(通称:熊ヶ根鉄橋)』、『新川川橋梁』、『荒沢川橋梁』、『仙山隧道・同信号場(通称:面白山トンネル)』、『山寺駅転車台』、『作並駅転車台』、『作並機関区』、『奥新川直流変電所(奥新川変電区)』、『交流電化発祥地記念碑』と、多数の施設で構成されていますが、本稿では、その一部の紹介となります。なお、本稿に記載した仙山線(電化されていますが単線です)のダイヤは令和4年6月3日(金)時点のものです。
※ 駅間を結ぶ線は、その平均勾配の緩急をわかりやすくするために結んだもので、実際の仙山線の標高を縦断的に表示したものではありません。
当日はあいにく曇り空でしたが、まずは『交流電化発祥地記念碑』、『作並駅転車台』を訪れるため、仙台駅8:17発の快速に乗車し、作並駅に8:54に到着しました。
『交流電化発祥地記念碑』
降車した下り線ホームに、その由来を記した看板とともに設置されていました。看板には「昭和30年8月~31年3月、仙山線北仙台~作並間において国産交流機関車ED44-1により国内初の交流電化試験運転を行った。我が国の交流電化は、この仙山線におけるデータを基礎として、北陸本線、東北本線の電化へ、さらには新幹線へと世界に誇る鉄道として飛躍的に発展した。作並は記念すべき交流電化発祥の地である。」旨が記載されていました。
なお、鉄道の電源として現在、直流方式と交流方式がともに使われています。もともとは鉄道車両の機器設計が簡単にできる直流方式が一般的で、その後に交流方式が発展しましたが、直流方式は簡単には電圧を下げられないという弱点があることから、高圧による長距離送電が求められる新幹線のような大量高速列車や、変電所保守コストが削減できるローカル線では交流方式、通勤路線のようなたくさんの車両が必要となる路線は直流方式、という使い方が行われているようです。
9:42に作並駅を出発し、仙台方面に一駅逆戻りをして、9:47に熊ヶ根駅(無人駅)に到着しました。仙山線では各駅に停車する電車の本数が少なく、特に山間部は駅間の距離が長いために一駅間歩くことも厳しいことから、できるだけ待ち時間を少なくするため、ダイヤとにらめっこしながら、どのように電車に乗るかを考えるのも、一つの楽しみです。熊ヶ根駅を降りて、正面を走る国道48号を仙台方面に10分程歩けば、広瀬川を渡ります。仙山線は国道48号と並行に10~20mほどの距離を保って広瀬川を渡っていますが、その橋梁が選奨土木遺産である『第二広瀬川橋梁(通称:熊ヶ根鉄橋)』となります。
この『第二広瀬川橋梁』は、明治45年にJR山陰本線に架けられた余部鉄橋と同じ、橋軸直角方向にハの字に開くタイプのトレッスル橋(※)として昭和6年に建設されたものです。トレッスルは全部で3脚あり、線路の広瀬川水面からの高さは約50mにもなります。この橋梁の全景は国道48号から見るのが最もよいですが、大型車の通行が多いことや、『第二広瀬川橋梁』側には歩道は設置されておらず路側帯しかないことから、車両への十分な注意が必要です。(なお、写真撮影は、安全施設として設置されている格子状の防護柵がどうしても映り込んだため、土木学会HPに掲載されている写真を掲載しました。)
(※)トレッスルとは「架台」あるいは「うま」のことで、これに橋桁を乗せた構造を持つ桁橋になります。
10:43に熊ヶ根駅を出発し、山形方面に三駅進んだ面白山高原駅(無人駅)に11:03に到着しました。面白山高原駅到着直前には、昭和12年に開通した、全長約5.3kmの選奨土木遺産『仙山隧道』があります。開通当時は、上越線の清水トンネル、東海道線の丹那トンネルに次ぐ、我が国で第3位の長さを誇る鉄道トンネルでした。『仙山隧道』は4分程度で通過しますが、隧道内に灯りはほとんどなく真っ暗であるため、通過時間が心なしか長く感じました。
また、選奨土木遺産『面白山信号場』は、『仙山隧道』内に、列車交換(※)するために設置されている2線の信号場ですが、真っ暗な隧道内で確認するためには、仙台側から見ることができる並列に設置された2つの信号を目印に、山形方面に向かう電車の先頭車両から運転席を通して、目を皿のようにして前方を注視していることが必要です。
(※)列車交換とは、鉄道の単線区間において停車場(駅または信号場)を用いて、列車同士が行き違い(離合)することです。
この『仙山隧道』の前後は険しい谷間であり、どちらの入口付近もカーブ及び急坂なことから、ギリギリ上れる地点まで高度を稼いでいることが感じられました。それでも、当時は蒸気機関車の煤煙被害を避ける必要があったことから、隧道内および山間部である作並駅~山寺駅の区間は、開通当初から直流電化されていました。また、隧道の山形側坑口に隣接する面白山高原駅において、列車交換に必要なスペースをギリギリ確保できるのではないかとも感じましたが、その場合は冬季の除雪スペースが確保できなくなるため、『仙山隧道』内で離合するスペースを確保せざるを得なかったのかと推察しました。
次の山形方面の電車は約2時間後であるため、11:18面白山高原駅発の仙台行の普通電車で三駅戻って11:32に作並駅に到着し、次に11:58作並駅発の山形行の快速電車に乗って12:17山寺駅に到着しました。山寺駅を降りて右側(仙台方面)に50mほど歩き、仙山線の下をくぐって、すぐ右側の坂を登れば、選奨土木遺産『山寺駅転車台』です。側には山寺観光協会作成の説明文が掲示されていましたが、その末尾に「SL時代に花形施設として活躍した転車台は、山寺の歴史の一つを語る歴史遺産(仙山線の歴史を語る)の一つとして、ぜひ後世に残し、多くの方々に親しまれ、愛されるよう、この転車台に蒸気機関車を乗せ、展示し、その生かし方を工夫するのが夢である」と記されていることに思わず侘しさを感じ、山寺ということもあってか松尾芭蕉の「・・兵どもが・・・」の句が思い浮かびました。
なお、山寺駅の駅舎は風情があり、駅に設置された見晴台から望む山寺の風景・空気は、まさに「閑かさや・・・」の句のとおりのすがすがしいものでした。
山寺駅を13:16に出発し、Goalの山形駅に13:35に到着しました。仙台駅を8:17に出発してから、約5時間20分の、電車で旅する行程でした。仙山線鉄道施設群としては、本稿で紹介した施設のほかに、『新川川橋梁(トレッスル橋)』、『荒沢川橋梁(トレッスル橋)』、『奥新川直流変電所』がありますが、数少ない電車時間の関係で今回は訪れることができませんでした。なお『奥新川直流変電所』は、奥新川駅から一本道で、直線距離700mほどの距離にあるようですが、その道が地図でははっきり確認できないことや、すでに変電所は解体されていて跡地となっており、古いレールを使った建物の骨組みが残されている状況のようですので、訪れる場合には事前によく確認することが必要です。
昭和初期の先端土木技術を駆使した仙山線は、平成26年度に選奨土木遺産として認定されたものの、鉄道施設群が山間部に位置し、全て訪れるにはかなりの時間を要するため、貴重な施設であることがあまり認知されていないようで、少し残念でした。
なお、最初に訪れた作並駅は、仙台の奥座敷と呼ばれる作並温泉や、北海道の余市蒸溜所と並び、「ニッカウヰスキー」の創業者である竹鶴正孝氏が追い求めたウイスキーづくりの理想郷とも称される「ニッカウヰスキー宮城峡蒸溜所」(事前予約は必要ですが見学ができるようです)の最寄り駅になりますので、まずは作並でゆっくりと一日を過ごすプランもよいと感じました。
さらに、熊ヶ根駅から『第二広瀬川橋梁』に向かう国道48号の途中から、宮城県が管理する「我が国唯一の二連アーチダム」の大倉ダムへ向かうこともできます。マルチアーチダムとしても、我が国においては、五連アーチダムである豊稔池ダム(香川県観音寺市)と、この大倉ダムの2箇所しかなく、極めて貴重な土木施設ですので、時間に余裕があれば、熊ヶ根駅から少し距離は遠いですが、お立ち寄りいただくこともお勧めです。
また山寺駅からは、時間があれば山寺(正しくは宝珠山立石寺というそうです)を登り、五大堂(展望台のようなところ)から絶景を眺めるのもお勧めです。往復に1時間半はかかることは覚悟する必要がありますが、一度は登っておきたい名勝です。
今回は、鉄道施設群を電車を乗り継ぎながら巡るという、少しイレギュラーな行程でした。今後もいろいろと工夫しながら、選奨土木遺産を紹介していきたいと思います。
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