土木学会が平成12年に設立した認定制度──『土木学会選奨土木遺産』。顕彰を通じて歴史的土木構造物の保存に資することを目的に、500件を超える構造物が認定されています。
コンコムでは、たくさんの土木遺産の中から、最寄り駅から歩いて行ける土木遺産をピックアップし、「土木遺産を訪ねて─歩いて学ぶ歴史的構造物─」を不定期連載します。駅から歴史的土木構造物までの道程、周辺の見どころ等、参考になれば幸いです。
みなさんも旅のついでに少しだけ足を延ばして、日本の土木技術の歴史にふれてみてはいかがでしょうか。
認定年 | 令和3年度(2021年度) |
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所在地 | 宮崎県日南市 |
竣工 | 昭和4年(1929年) |
選定理由 | 花峯橋は、現存する希少な木造方杖式の道路橋のひとつで、当時の我が国における木造橋建設技術を今に伝える貴重な土木遺産です。 |
今回の歩いて学ぶ土木遺産は、JR九州 日南線の油津駅から土木遺産「花峯橋」へ向かう行程です。花峯橋へは油津駅から東に向かい、市街地を通り抜けていくのが近いのですが、油津駅前のマグロのモニュメントが示すように、油津は昭和の初めにマグロの陸揚げで隆盛を誇り「東洋一のマグロ基地」と称された歴史を持つことから、今回の行程は、少し遠回りになりますが、油津港近くまで足を延ばしてから花峯橋に向かうこととします。
また油津駅は、プロ野球の広島東洋カープのキャンプ地の最寄り駅になります。駅舎はもともと普通の真っ白な壁でしたが、カープをもっと応援するために「駅舎をカープのシンボルカラー(真っ赤)に塗り替えよう」という計画が地元から沸き上がり、JR九州の快諾を得て、平成30年(2018年)に「カープ油津駅」の愛称を持つ今の真っ赤な駅舎となっています。また駅の中にも「日本一のCarp油津駅 JR×Carp×油津」と記された円形の看板が掲げられているなど、駅にはカープ愛が溢れかえっています。
堀川橋を渡ってすぐ左側にあるのが、「堀川資料館」です。先ほどの堀川橋界隈が映画「男はつらいよ」の第45作「寅次郎の青春」のロケ地となり(平成4年(1992年)10月22日~11月3日)、堀川橋も、寅さんが風吹ジュン扮する蝶子と初めて出会った場所とされたことから、資料館の2階には、油津の昔の風景写真のほか、映画が撮影された時の写真や出演者のサイン、シリーズポスターなどが多数展示されています。また1階には、堀川橋の見事な模型(平成15年(2003年)8月 宮崎県南部石材組合 作)が置かれています。なお、この資料館は飫肥杉造りの情緒的な建物であり、2階のベランダからは美しい堀川を眺め、飫肥材が運搬された昔日の情景を想い浮かべながら、ゆったりと流れる時間を楽しむことができます。
堀川資料館から南東に進むとすぐに、歴史を存分に感じさせてくれる建物が建ち並ぶ一角があります。登録有形文化財になっている建物も多く、何とも言えない風情を醸し出しています。ここでは代表的な建物を紹介します。
『油津赤レンガ館』
大正時代に造られた3階建ての赤レンガの倉庫で、約22万個のレンガが使用されているそうです。中に入ると中央にアーチ型の通路があり、各室の入口もアーチ状につくられていて、大正の面影をそのままに伝えています。現在、1階は観光・歴史案内休憩室として無料で開放され、2階は各種イベントや会議、ミニコンサート等での貸切利用もされています。
『杉村金物本店 主屋・倉庫』
主屋は、昭和初期の金物や船具等が並ぶレトロな雰囲気の3階建ての木造建物で、1階が店舗、2・3階が住居となっています。縦長の窓や銅板張りの外壁は洋風の意匠を取り込んでいて、一見して「お洒落」という言葉がピッタリと当てはまる、宮崎県を代表する洋風建築です。主屋の裏には3階建てレンガ造りの倉庫があり、主屋とは対照的な佇まいになっています。主屋は、戦時中には、外壁の銅板がはがされて供出され、戦火で3階の一部を焦がしたそうですが、戦後に復元し、現在は、往時と同じ外観を保っているそうです。
東側を走る国道220号を北に進んで、そのまま国道222号に入って、堀川運河に架かる油津大橋を渡り、右側にある日南郵便局の裏手にまわると、「緑地公園(夢ひろば)」と木造の屋根付き橋「夢見橋」があります。堀川運河のように、江戸時代につくられた運河がきれいに残っているのは全国的にも珍しいそうで、堀川運河周辺の整備は、主に江戸~昭和初期に積まれた石積護岸を存置、復元整備しつつ、地場産の飫肥杉や飫肥石をたくさん使って遊歩道や夢ひろば、夢見橋などを整備したそうです。そのデザインの質の高さは、デザインを生み出したプロセスも含めて評価され、「油津 堀川運河」として平成22年(2010年)の土木学会デザイン賞最優秀賞を受賞しています。夢見橋はボルトや金物を使わない、伝統工法である「木組み」で造られており、天井の「曲げ木」は造船技術を伝えるものだそうです。また、橋の中央にはくつろげるようベンチがあるなど、夢見橋は地元の皆さんの意見を取り入れてデザインされています。屋根は、暑い日差しや雨から人や橋を守るために設置されていますが、暗くなりすぎないようにトップライトが組み込まれており、夜間に訪れると、その灯りで夢見橋が夜景のなかから輝いて見えますので、お勧めです。
夢見橋から北東方向に少し進むと、Goalの「花峯橋」に到着です。全長26.8m、幅5.6m、最大支間長9.1mの3径間の木造橋です。昭和25年(1950年)頃に、橋脚基礎がコンクリート造に造り替えられているものの、橋脚は木造、橋台は石積構造のままです。伝統の木造技術が見られるのと同時に、ボルトやかすがい、金物などの伝統とは異なる工法も併用されており、昭和初期に発展した「新興木構造」(しんこうもっこうぞう:鉄材不足を補うために従来の経験的な木造構造を、力学や科学の観点から見直して木材の活用を図った新たな木造構造)として位置づけられています。現在は、木材の腐食や亀裂等の損傷が橋梁全体にわたって認められ、コンクリート基礎にもクラックや欠損が生じていることから、通行止めの措置が取られています。本格的な補修が必要ですが、道路橋にはなっていないため、補修が困難な状況とのことです。
今回は、宮崎県日南市にある花峯橋を訪れました。管理者は日南市生涯学習課ということですが、平成16年(2004年)に国の登録有形文化財の指定も受けており、「貴重な土木遺産を存続させたい」という管理者の強い希望が、早く形として実現されることを祈るばかりです。今回の記事には記載しませんでしたが、漁師さんたちから「日和(見)山」として親しまれ、日向灘、油津漁港、油津の市街地などを360度のパノラマで眼下に眺めることができる「津の峯」(標高90m程度)の名を持つ小高い丘があります。登山道の入口は国道220号から少し入ったところにあり、入口から山頂へ15分程度で着くことができますが、人が1人通れる程度の狭い道が続き、傾斜が急なところもあるほか、山頂も5人程度で一杯になる狭さですので、山頂からの景色は抜群ではありますが、登る際には靴などに十分な注意が必要です(山頂への上り、下りの途中で、人とすれ違うことはありませんでした)。
また、油津は「伊東家城下町飫肥と港町油津」として、「伊東家5万1千石の城下町飫肥、堀川運河、赤レンガ館などの町並みの港町油津は、大正ロマンの息づかいが漂っている」との紹介とともに、「日本の美しい歴史的風土100選」にも選ばれています。城下町飫肥は、最寄り駅がJR九州 日南線で、油津駅から宮崎方面に日南駅を挟んで2駅先の飫肥駅と近く、昭和52年(1977年)に重要伝統的建造物群保存地区に指定された武家屋敷を象徴する門構え、風情ある石垣が残る町並み(武家屋敷通りや本町商人通りなど)、昭和53年(1978年)に復元された飫肥城大手門、さらには飫肥城松尾の丸、飫肥藩校など、散策しがいが十二分にある街ですので、時間がある方は、油津だけではなく、飫肥もゆっくりと見てまわられてはいかがでしょうか。
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