土木学会が平成12年に設立した認定制度──『土木学会選奨土木遺産』。顕彰を通じて歴史的土木構造物の保存に資することを目的に、500件を超える構造物が認定されています。
コンコムでは、たくさんの土木遺産の中から、最寄り駅から歩いて行ける土木遺産をピックアップし、「土木遺産を訪ねて─歩いて学ぶ歴史的構造物─」を不定期連載します。駅から歴史的土木構造物までの道程、周辺の見どころ等、参考になれば幸いです。
みなさんも旅のついでに少しだけ足を延ばして、日本の土木技術の歴史にふれてみてはいかがでしょうか。
認定年 | 平成16年度(2004年度) |
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所在地 | 京都府京都市下京区観喜寺町 |
竣工 | 大正3年(1914年) |
まずは目の前の塩小路通まで出て、東洞院通が交わる交差点へ。ここは日本の鉄道史に残る名所、日本で初めて路面電車・京都電気鉄道が開業した地です。国内で初めて電車が走ったのは、明治23年に東京・上野で開催された「第3回内国勧業博覧会」会場内であることは知られていますが、実際に営業運転を始めたのは、この京都電気鉄道が最初です。明治28年2月に京都電気鉄道の伏見線が七条停車場電停(踏切南)〜伏見下油掛間の約6kmで開業し、その起点となったこの場所に、「電気鉄道事業発祥地」の石碑が建っています。古都の印象が強い京都ですが、明治時代には最先端の交通政策が進められたことがうかがえます。石碑の上部、初期の電車の姿を刻んだ印象的な銅板は、一見の価値あり。
梅小路機関車庫へは、この塩小路を直進するのが一般的ですが(通り名の位置関係はMAP参照)、今回は、もう一つの鉄道をテーマにした近道をご案内しましょう。駅ビルと京都中央郵便局との間の狭い小路を西へ道なりに歩き、堀川通から先の線路に沿って続く道が、昔のままに残された梅小路通です。緩やかに右カーブを描く梅小路通は、京都の碁盤の目のイメージとは違い味わい深いだけでなく、左側にはJR嵯峨野線、JR京都線など複数の線路が並び、その向こうに東寺の五重塔も見えます。頻繁に列車が行き交う光景は、鉄道博物館へ向かう気分を高めてくれるはず。さらに道中には、賑わい創出を目的に、地元のまちづくり推進協議会が鉄道などをモチーフにしたモニュメントを設置しています。梅小路公園内も含め、その数なんと、41基。お目当てを探しながら、楽しく歩いてみてください。
モニュメントをたどり線路脇を歩くこと約15分。「梅小路公園」に到着します。園内では一足早く、〝石の〟扇形車庫がお目見え。
JR貨物の梅小路駅の跡地、総面積約13.7㌶(東京ドーム3個分)という広大な広さを誇る都市公園内には、「市電ひろば」があります。アーチ形の屋根の下、敷地内に設けられたホームをモチーフにした空間に、旧京都市電500型505号車、700型703号車、800型890号車、1600型1605号車の4両が静態保存されています。703号車(写真5 向かって右側車両)は鉄道グッズを販売する市電ショップとして、505号車(写真5 向かって左側車両)は市電カフェとして活用されています。一番人気の商品「カタカタつりわぱん」は、吊り輪の形につくられた乾パン風の固いパンに、シナモンなど5種類の味付けをしたものです。売り切れ続出、ご賞味あれ。
今回の探訪の目的地、梅小路機関車庫が保存されている京都鉄道博物館(入場料/一般1,500円、高校生・大学生1,300円、小中学生500円、幼児200円)は、梅小路公園のすぐ目の前になります。この博物館の魅力は、実に53両もの名列車、機関車、車両が敷地内に一堂に展示されていること。鉄道ファンならずとも心躍る〝名車両大集合〟の基地です。目玉はなんといっても、明治時代から昭和まで、日本全国を駆け抜けた23両の蒸気機関車(SL)でしょう。イギリスのSLをもとに、日本で初めて量産型蒸気機関車として誕生、現存する最古の国産SL230形233号機(明治36年製造、国の重要文化財)は必見です。JR京都線など多くの走行車両を眺めることができる館内レストランでは、ドクターイエローハヤシライスが一番人気のメニューだそうです。
京都鉄道博物館に併設されている梅小路機関車庫は、明治9年の官営鉄道開通に伴い、京都に2カ所あったSL車庫を統合し、大正3年に完成しました(設計は、当時鉄道省の設計技師だった渡辺節が担当)。現存する日本最古の鉄筋コンクリート造機関車庫として、今なお全盛期の面影をとどめています。
文字通り扇の形をし、その弧を描く巨大な車庫からは造形美を感じます。列車を牽引する機関車の車庫としてだけでなく、整備や検査、修繕を行う役割もあるからこそ、中をのぞくと、それぞれの車庫は独立せず、柱と梁で天井を支えることで、予想以上に広い空間を確保しています。天井から吊るされているのは、蒸気機関車の排煙を外部に逃がす装置。天井を貫いて煙突につながっています。
機関車庫のまさに〝扇の要〟となる地点には、車両の方向を変える転車台が据えられています。残念ながら、現存する転車台は昭和31年に製造された電動式のものですが、転車台から機関車庫まで、線路が真っすぐ放射状に続き、車庫にはすべて異なる型式番号の蒸気機関車20両(動態保存車両含む)が並んでいます。その姿は、鉄道ファンにとってたまらない、ただ「圧巻」の一言です。中には、菊の御門輝くお召列車もありました。
この蒸気機関車が実際に交代で走る「SLスチーム号」(別途有料、一般300円、幼児・小中学生100円)に乗って、梅小路公園の外周約1km、懐かしい汽車旅を体験するのもおすすめ。汽笛の音、蒸気の音、煙や油の匂いを感じながらの往復10分はあっという間でしたが、乗客の顔が見えるほど、JR嵯峨野線の列車がすぐ近くを並走するのも見どころ。最終の「SLスチーム号」がターンテーブルでまわり、車庫に戻る姿はなかなか見ることができませんので、できれば最終便の乗車をおすすめします。
梅小路機関車庫(京都鉄道博物館)
【今回歩いた距離:約2.4km(JR京都駅~電気鉄道事業発祥地~梅小路公園市電ひろば~京都鉄道博物館】
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