土木学会が平成12年に設立した認定制度──『土木学会選奨土木遺産』。顕彰を通じて歴史的土木構造物の保存に資することを目的に、500件を超える構造物が認定されています。
コンコムでは、たくさんの土木遺産の中から、最寄り駅から歩いて行ける土木遺産をピックアップし、「土木遺産を訪ねて─歩いて学ぶ歴史的構造物─」を不定期連載します。駅から歴史的土木構造物までの道程、周辺の見どころ等、参考になれば幸いです。
みなさんも旅のついでに少しだけ足を延ばして、日本の土木技術の歴史にふれてみてはいかがでしょうか。
認定年 | 平成15年度(2003年度) |
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所在地 | 鹿児島県鹿児島市 |
竣工 | 明治38年(1905年) |
選定理由 | 水族館と一体化して整備され、市民の憩いの場所として保存活用されている大規模で美しい曲面を持つ巻石防波堤 |
JR鹿児島駅を出てすぐ、統一感のあるレトロな外観の鹿児島駅前停留場が目に入ります。鹿児島市交通局が運行する日本最南端の路面電車・鹿児島市電は、明治44(1911)年創業の鹿児島電気軌道がルーツで、大正元年(1912年)12月に武之橋~谷山間(6.4km)が開通。昭和3年(1928年)から市営となり、100年以上にわたって市民や観光客の貴重な足となっています。この日は運良く、「かごでん」の愛称で親しまれている観光レトロ電車・100形に乗ることができました。「かごでん」は、市電開業100周年(平成24年)を記念し、大正時代に走っていた車両をモデルに制作したもので、木目調のセピアとクリームのツートンカラーがまるで木造電車のようです。レトロ感とぬくもりが伝わる薩摩切子をイメージした座席、電球色の照明。どれも一見の価値があります。鹿児島市は、全国に先駆け軌道敷の緑化を進めてきたことでも知られています。〝緑のじゅうたん〟を走る市電から眺める鹿児島の街の景色は、鉄道ファンならずとも、味わい深いのではないでしょうか。
町のメインストリートを左にカーブしながら走る市電に揺られること3分。市役所前停留場に到着します。5、6分歩けば、鹿児島(鶴丸)城が見えます。鎌倉時代から明治時代まで約700年にわたってこの地を治めていた島津家ですが、ここ鶴丸城は、慶長6年(1601年)ごろ、島津家第18代当主・家久が十数年かけて築城し、歴代藩主が居城としていました。正面中央にあった御楼門は、明治6年(1873年)の火災で焼失してしまいましたが、令和2年(2020年)3月、明治維新150周年の機をとらえて忠実に復元され、鹿児島の新しいシンボルとしてよみがえりました。日本最大級ともいわれる青銅製の鯱を大屋根にのせ、高さ・幅ともに約20mもある日本最大の城門を是非、間近でご覧ください。すぐ隣に見える石垣にも御注目。他の城と比べて、高さがかなり低い印象を受けます。堀の幅もとても浅く、〝無防備〟に感じるのは、背後の高台にある天然の急峻な岩壁「城山」に守られていたからでしょうか。晴れていれば、その城山の展望台から、明治維新の立役者を数多く輩出した薩摩の城下町を眺めてみるのも一興。
イルカ水路の東側にある石垣こそが、今回のゴール地点「鹿児島港旧石積防波堤」(新波止・遮断防波堤・一丁台場)の一部です。現在の石積防波堤は、藩政時代から明治にかけて3期にわたって建設されたものが残ったもの。そのうち、江戸時代末期の弘化・嘉永年間(1844年〜1853年)に波浪を防ぐため築造された「新波止」(現存する延長約140m)は最も古く、江戸末期では珍しく沖合につくられた石積み防波堤です。安政元年(1854年)に薩摩藩主・島津斉彬が大砲を備えて新波止砲台(新台場)として改築し、薩英戦争では主力砲台として英国艦隊と砲撃戦を行いました。
南側の階段状の護岸部分「一丁台場」(現存する延長約120m)は、明治5年(1872年)に波浪を防ぐために築造され、陸から一町(約109m)離れたところにあったことから「一丁台場」と呼ばれるようになったとか。さらに明治37年(1904年)には、鹿児島県の修築事業の一環として、新波止と一丁台場を結ぶ接合部に「遮断防波堤」(現存する延長約90m)が整備されました。
今なお美しい石積みをのこす、堅牢な旧石積防波堤。その見どころはやはり、整備された時代背景による石の積み方の違いでしょう。「新波止」の石積みが緩やかな曲面を描く一方、「一丁台場」の斜面は階段状になっているのがよくわかります。多様な大きさの船に対応する岸壁としての役割を考えてのことでしょうか。
その接続部分の「遮断防波堤」も新波止と同様に曲面が美しいのですが、新波止が単に積み上げただけのような単純さや古さを感じ、不揃いに見える一方で、遮断防波堤は,ほぼ同じ形の石が整然と積み上げられ、目地にはモルタルが埋められて堅固な印象を受けます。船が大型化するにつれて港湾機能の強化が求められていく中で、防波堤も、強度重視の「巻石」構造で整備されていったことがわかります。
「山下」「牛」「田」――。遮断防波堤の巻き石(石を円弧状に長く巻いた石積み)の表面の各所には、当時の工事に携わった石工らが刻んだ名前や屋号が刻まれています。取材当日、雨が降るのも忘れて一つ一つの文字を丁寧に見て歩いていると、当時の施工者の自信と誇り、その矜持が伝わってくるような気がしました(Album参照)。
皆さんも、どんな種類があるか、いくつあるか探してみてください。土木学会選奨土木遺産を示す銘板は、巻き石の中に埋め込まれ、意外に見つけにくいためご注意ください。
地理院地図をもとに当財団にて作成
【今回歩いた距離:約2・7km)+(電車3分)鹿児島駅~市役所前駅~鶴丸城 ~展望台~鹿児島港旧石積防波堤】
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