2019/01/30
今回の現場探訪は、平成30年度国土交通省中国地方整備局の局長表彰を受けた「百間川二の荒手改築他工事」。この工事を受注された蜂谷工業株式会社にて、当工事の監理技術者・塩津賢祐さんに工事の概要とICT土工への取組、土木遺産に認定されている遺構の復元への配慮等についてお話しを聞きました。
工事名 | 百間川二の荒手改築他工事 |
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工事概要 | 掘削工、盛土工、法面整形工、残土処理工 等 |
発注者 | 国土交通省中国地方整備局 岡山河川事務所 |
工期 | 平成28年8月17日~平成29年6月30日 |
受注者 | 蜂谷工業 株式会社 |
施工場所 | 岡山県岡山市中区中島地先 |
請負金額 | 227,664,000円(税込) |
監理技術者・現場代理人 | 塩津 賢佑 |
「二の荒手」は土木学会の選奨土木遺産に認定されている歴史的な遺構ですので、それを復元しつつさらに機能を維持するための改修を行うことは、私としても初めての工事でしたし、着工前は不安が大きかったです。発注者からも「センス良く積んでください」というプレッシャーをかけられたので、余計に緊張しましたが、逆に重要な遺産を扱うんだ、昔の土木技術に触れるチャンスだというやる気も湧いてきました。
他の現場も同じだと思いますが、丁張がいらないことによる工期の短縮、バックホウの作業中に補助員がいらないことによる安全面の向上が大きなメリットではないでしょうか。しかし、やはりコストの面では、多少課題があります。河川工事では、レーザースキャナーによる出来形管理を頻繁に行う必要があるため、その都度、外部のオペレータを頼んでいてはコストが嵩んでしまいます。当工事では、弊社も初めての導入でしたので、やむを得ず外注しましたが、次の「一の荒手」の改修工事では、レーザースキャナーのオペレーションは全て自社で行いました。また、バックホウなどのICT対応重機のレンタル料も決して安価ではありません。当初計画の作業だけでなく、工期中のいろんな作業に効率よく応用していくことが、コストのムダをなくすためには不可欠だと思いました。実際に、当工事でも、石張りの裏込砕石の施工にも応用してみました。結果、精度も良く、作業効率も向上しましたので、応用が成功だったと思います。
従来の現場では、パネル等を常設して、工事の内容や進捗状況等を掲示していました。今回、レンタル会社さんからクラウドを活用したモニターによる情報発信の方法を聞いて、映像の方が興味を持って見てくれるのではないかと思い、導入してみました。川沿いのマラソンコースに休憩所とトイレを作り、そこにモニターを設置しました。タッチパネル式でいろんな情報が見られるため、休憩中の人々も興味深く見てくれていたと思います。従来のパネルによる方式では、最新の工事進捗情報をリアルタイムで掲示することは難しいですが、このサービスなら、タブレットから情報を送るだけで、モニターに反映されますので、今日の作業予定等、詳細に案内することができました。
まず、現場全体が同じ目的、同じ方向を向いて作業できることを考えます。そのために、職長さんはもちろん、作業員とも積極的にコミュニケーションを取ることを心がけています。当工事でも、「二の荒手」の手前の導流堤の改修について、「現存のままでも機能するのではないか」といった意見もあり、4月まで結論が伸びてしまいました。最終的には、当初の予定通り改修することになりましたが、旭川は6月中旬には出水期を迎えるため、工期は約2か月しかありませんでした。職長さんは「絶対に間に合わない」と感じていましたが、二人で何度も計画を話し合い、「これなら間に合う」という方法を見つけ、意思を共有することができました。私ひとりが「できる」と思っても、現場で実際に作業を行う人たちが半信半疑であっては、工期内に完成することはできなかったと思います。
現場の人たちと積極的に話をして欲しいと思います。ベテランの職人さんは、これまでいろんな現場を経験しています。想定外のことが起きた時、自分で判断することが難しい時など、彼らのアドバイスで解決策が見つかることもあります。普段からその人の経験談を聞いたり、逆にいろんな相談をしたりして、何でも話せる関係になっておくことが大事だと思います。また、これは私自身にも言えることですが、ICT施工はどんどん進化していくと思います。そうした新しい技術や工法を勉強していくことが不可欠になってきますので、現状に満足せず情報収集をしていくことが大切です。
それから、建設業は発注者がいて成り立つ仕事です。常に発注者の期待していること、要望していることを理解して現場を動かすことが原則です。今回の工事であれば、最初に発注者からいただいた「センス良く積んで」も言葉としては漠然としていますが、やはり担当者としては、出来栄えも重視しているんだということを常に頭において作業することが原則となります。
今回取材させていいただいた工事は、歴史的な構造物を復元しつつ、越流提としての機能を維持するというものでした。土木学会の選奨土木遺産にも認定されていることから、工事期間中も見学者が数多く訪れたそうです。そうした衆目の中で工事を行うことは、現場責任者としてはかなりの緊張感があったと思います。
塩津さんはこの工事の後、引き続き「一の荒手」の改築工事も担当されたそうです。しかもこの工期の完成間近の時には、まだ記憶に新しい西日本豪雨が発生しました。塩津さんは、雨の降り始めた7月5日から6日にかけ、工事事務所に泊まり込んで、見守ったそうです。工期は1か月延びたものの、水位が下がった後、復元した「一の荒手」はそのままのカタチで現れたそうです。改めて先人たちの土木技術の高さを知る機会になったと話していました。
コンコムでも4月から「土木遺産を訪ねて~歩いて学ぶ歴史的構造物」を掲載していますが、単に構造物を紹介するだけでなく、その役割や機能、造られた経緯等についても紹介できればと思いました。
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