2019/05/30
今回の現場探訪は、平成30年度国土交通省北陸地方整備局の局長表彰を受けた「信濃川中流河道掘削他工事」。この工事を受注された株式会社曙建設(新潟県長岡市)にて、当工事の監理技術者・佐藤一幸さんに工事の概要と設計照査における3次元モデルの活用等、工事を円滑に進めるための取り組みについてお話しを聞きました。
工事名 | 信濃川中流河道掘削他工事 |
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工事概要 | 河道掘削工、護岸工、根固工、渡河橋工 等 |
発注者 | 国土交通省北陸地方整備局 信濃川河川事務所 |
工期 | 平成29年1月5日~平成29年12月15日 |
受注者 | 株式会社 曙建設 |
施工場所 | 新潟県長岡市西川口地先 |
請負金額 | 155,088,000円(税込) |
監理技術者・現場代理人 | 佐藤 一幸 |
信濃川水系魚野川での河道掘削および合流している相川川との接続を行う護岸工事です。併せて、魚類の遡上する「せせらぎ水路」や地域のイベント開催場所である親水池「じゃぶじゃぶ池」を施工しました。当該地先は、土砂堆積により流下能力が低下しており、平成23年と25年の洪水では、計画高水位を超過し、危険な状態となりました。この河道掘削によって、流下能力を高め、洪水をスムーズに流すことを目的としています。周辺整備工事は3期にわたり、本工事はその3期目の最終工事でした。
工期中に当該地域で予定されているイベントや、出水期を考慮すると、かなりシビアに工程を管理する必要があると思いました。しかし設計当初には相川川護岸の仮設計画が十分に練られていませんでした。工事専用道路も左岸側だけの計画となっていて、川幅の広い右岸護岸の施工には、資材の運搬も含め渡河施設の設置が新たに必要となりました。また相川川の護岸工事では、既存の川の流れを止めないように施工しなければならず、さらに流出部には魚道機能を持つ「せせらぎ水路」の施工があることから、何度か仮締切り(切り回し)を施工する必要もありました。こうした作業を手戻りすることなく、適切に工期内で完遂するために、まず仮設計画と施工手順をゼロベースで練り直すことから始めました。具体的には、工事範囲を色分けし、それぞれの工期を明確にし、施工計画にロスがないか確認しました。当然、工事予算にも影響する変更も含まれましたので、常に発注者と協議しながら進めました。
今回の工事の設計図面を見たとき、相川川の水を「せせらぎ水路」に導く取水口部の形状をイメージすることができませんでした。このままではとても施工できない。手戻りややり直しが発生すると予感しました。そこで、まず取水口部の模型を作ってみようと考えました。以前から先輩技術者に『複雑な構造物は、模型を作るといいよ』といわれていたことと、私自身も過去に模型で理解した工事もあったので、今回も模型の作成を検討しました。といっても今回の取水口部は法線および法面勾配が複雑に混ざり合った擦り付けとなっていましたので、手作りで模型を作るのは大変だなと思いました。そこで「最近流行っている3Dプリンターで模型をつくる」ことを思いつきました。早速、協力会社に相談に行ったところ、思った以上にコストがかかることがわかり、流石に3Dプリンターはあきらめました。その時、協力会社の担当者から、3次元モデルならそこまで費用がかからなくてできると提案していただき、私自身も初めてではありましたが、会社に費用面を承認してもらい、作成してもらいました。
出来上がったデータを見て、まさに驚きでした。設計図面ではイメージできなかった複雑な部分も、立体的かつ多角的に形状を確認することができ、これなら、スムーズに施工ができると確信しました。同時に、当初設計の施工では対応できない点も発見しました。具体的には、石積みで施工することになっていた部分が当初設計で施工すると直壁となり、複雑かつ微妙なねじれ法面をつくることができないといった点です。そこで、石積みを重力式擁壁による施工とし、小口止ブロックの設置位置の変更も提案しました。発注者にも、3次元モデルによる確認で、すぐに設計の不具合を理解していただけました。こちらとしても、複雑な構造部分も簡潔に説明できましたし、スムーズに判断してもらえました。
協力会社とも3次元モデルを利用して打合せを行いました。今回の取水口部の施工の問題点もその打合せの中で提起してもらいました。また、重力式擁壁端部の微妙な捻じり(直壁~1:0.5の角度)をどうするか等、施工上のネックになりそうな点も、3次元モデルを使いながら検討・確認できたので、完成イメージを確実に共有することができました。結果として、手戻りもなくスムーズに施工できたのは、この検討・確認のおかげだと思っています。
出水期の工事でしたので、相川川の増水には常に注意していましたが、平成29年の7月に二回、8月に一回、集中豪雨による増水で、作業中止を余儀なくされただけでなく、仮締切りも流されてしまうなど、工程の変更・再調整が必要となりました。
やはり工期厳守を大命題にしていました。8月上旬には、地域のイベント『川魚つかみとり大会』の開催が決まっていましたので、それまでには「せせらぎ水路」も「じゃぶじゃぶ池」も完成させなければなりませんでした。7月の出水被害で開催が危ぶまれるほどでしたが、仮水路施工による工程変更を提案し、何とか間に合わせることができました。このイベントには打合せから参加させてもらい、前回の開催時には池の水が濁っていたという話も聞いていましたので、池の掘削後に、現場で発生した「玉石」を敷くなどの河床整備も行いました。イベント終了後は関係者からも御礼の言葉をいただきました。
何といっても3次元モデルの活用ですね。費用もかかりますが、構造物の詳細がイメージできないまま施工しても、手戻りややり直しによるロスが発生すれば、結果として工費に跳ね返ってくるわけですからね。「3Dプリンター」の相談に行った協力会社が、3次元モデルの提案をしてくれなければ、今回の経験はなかったわけ ですから、彼らには感謝しなきゃいけませんね。それと、これは別に今回の工事に限ったことではありませんが、協力会社のベテラン技術者の経験と知識はすごいなと改めて思いました。今回の工事の一番の難題でもあった取水口の形状への対応も、彼らからたくさんのアドバイスや提案をいただきました。この経験は自分の財産になったと思いますし、感謝、感謝です。
現場は私ひとりで施工しているわけではなく、発注者、協力会社、地域の関係者など、いろんな方の協力があって成り立つものだと考えています。今回、3次元モデルを作成した事により、図面の相違や施工確認、変更協議や打ち合わせなど、円滑に進めることができましたが、発注者、協力会社との親密なコミュニケーションがあったからだと思っています。課題に直面した時、ざっくばらんに意見を言ってもらえるような関係づくりが、現場を円滑に管理していくコツだと思います。
今回取材させていいただいた工事は、3次元モデルを活用して、当初設計の不備を見つけ、自ら設計変更を提案したことが評価された工事でした。本文では触れませんでしたが、より早く、より美しく施工するために「ICT施工」を導入するなど、生産性の向上も実現したものでした。『より良い構造物をつくりたい』という技術者の想いが詰まった工事だと思いました。なお、当工事は、「日経コンストラクション」誌(成績80点の取り方2019.4.22号)にも紹介されています。
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