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表彰工事

2019/08/29

たび重なる台風などの厳しい気象・海象条件の中、情報アプリを活用したきめ細かい先手管理で、490日間無事故で工事を完遂。

回の現場探訪は、平成30年度国土交通省関東地方整備局の局長表彰を受けた「H29西湘海岸工事用道路整備工事」。この工事を受注された株式会社本間組 東京支店(本社 新潟市)にて、当工事の監理技術者・福島茂希さん、工事課長・小山光則さんに工事の概要と海岸工事ならではの苦労や工夫についてお話しを聞きました。

【工事概要】
工事名 H29西湘海岸工事用道路整備工事
工事概要 工事用道路整備工、消波工、防護柵工 等
発注者 国土交通省関東地方整備局 京浜河川事務所
工期 平成29年9月29日~平成31年1月31日
受注者 株式会社 本間組 東京支店
施工場所 神奈川県中郡大磯町国府新宿地先及び神奈川県平塚市千石河岸地先
請負金額 231,930,000円(税込)
監理技術者 福島 茂希

Q 今回の工事の概要と目的について簡単にご説明ください。

国土交通省と神奈川県では、西湘海岸の保全と砂浜の回復を目的に、海岸保全施設の整備を進めています。当工事は、酒匂川から大磯港区間において、海岸保全施設を整備するための工事用道路の整備工事です。今回はその事業の第一期工事として、西湘バイパスから海岸部への桟橋(アプローチ部)の施工と、桟橋を保護する「消波ブロック」の設置が主な目的となります。

資料1)工事概要平面図 資料1)工事概要平面図

Q 今回の工事で特に重視したこと、また大変だったことは何でしょうか?

やはり海岸での工事ということもあり、現場の安全には常に留意しました。また、消波ブロックの製作ヤードである平塚漁港(平塚市)、施工場所となる大磯町、それぞれの現場の管理者や関係各署が非常に多く、施工前の調整は大変でした。施工開始直前に頭を抱えたのが平成29年10月23日の台風21号です。これによって西湘バイパスが被災したため、工事を一部中止し、消波ブロックの工期末は1月19日から3月30日に延期されました。当初予定していた消波ブロックの工期(12月~1月)は、比較的海象条件の良い時期で、この期間なら何とか消波ブロック部分の施工を完了させられると考えていました。工期が3月末にズレこんだことにより、海象条件も悪化することが懸念され、年度内の完了に不安を持ちました。しかも、消波ブロックの製作ヤードとなっていた平塚漁港の敷地も、この台風で被害を受け、復旧作業もなかなか進まないことから、当初予定より狭いスペースで製作しなければなりませんでした。実際に3月は波も高い日が多く、数日しか作業できませんでしたが、一日の中の数時間、条件の良いときに運搬や設置作業を集中して行うなどの細かい工程管理を行い、何とか間に合わせることができました。

Q 今回の工事は厳しい海象条件での施工ということもあり、特に安全管理が重要であったと思いますが、安全管理面でどのような配慮(工夫)をされましたか?

<風・波浪対策>

10日先までの波・風の情報を1kmメッシュのピンポイントで予測できる気象海象予測システム「羅針盤」(NETIS登録)でより詳細な予測情報を入手して作業計画を立てるとともに、作業当日には10分毎にリアルタイムの波・風情報が得られる国土交通省「川の防災情報・大磯南西沖観測所」の観測数値を確認し、作業可否の判断を行いました。消波ブロックの海上運搬の際にも、この10分毎の情報を活用して、作業実施・中止・待機の指示を出しました。

資料2)国土交通省「川の防災情報」HP 資料2)国土交通省「川の防災情報」HP

<西湘バイパス内での対策>

西湘バイパスの待避所を作業用道路として使用していましたが、自動車道との境界に設置した「置き型バリケード」を、越波予測時には単管で固定して、道路側への倒壊や飛散を防ぎました。また、西湘バイパスの復旧工事を行っている工事会社や発注者である横浜国道事務所とも安全協議会を組織して連携を図りました。

写真1)置き型バリケードの固定 写真1)置き型バリケードの固定

Q 当初の契約時から数回の変更契約が成されています。特に工期の変更について、どのような理由で変更されたのでしょうか?また、変更によって工程管理上どのような影響がありましたか?

変更契約は今回の工事では合計4回ありました。最初の変更は前述した平成29年10月23日の台風21号による西湘バイパスの被災によるものです。

二回目の変更は、桟橋の調査ボーリングを行った際に、当初設計での調査結果との違いが発見され、桟橋の設計自体を見直す必要がありました。設計変更に関しても当社で受託したのですが、基礎杭の鋼管の発注時期が変わってしまったため、業者との納品調整が大変でした。五輪需要もあって、どのメーカーも納期が通常より長くなるとのことでした。三回、四回目の変更は、平成30年7月末の台風12号が原因です。ニュースでも報道された熱海のホテルのガラスが高波によって破壊された時の台風です。この台風による対応がありました。

Q 波打ち際での「消波ブロック」の設置は、特に危険が伴う作業になると思います。設置の際の安全管理は、どのようにされましたか?

消波ブロックの設置作業は、水面より上の作業は陸上作業で設計されるため、一般土木作業の範疇ですが、波が打ち寄せる際には作業員が水を被ることもあり、より安全な作業を考慮し、「潜水士」の資格を持った作業員を据付作業に配置しました。また、据付時には沖合の波の発生状況を監視する見張員も配置し、作業員に危険を知らせ、退避させました。

写真2)潜水士資格を持つ作業員による据付 写真2)潜水士資格を持つ作業員による据付

Q 長い工期期間中に、かなりの数の台風が接近したと聞いています。その際の現場の対応を教えてください。

工事期間中、現場で影響を受けた台風は7~8個だったと思います。作業に大きな支障が出たのは平成29年10月の台風21号と翌30年7月の台風12号ですが、それ以外の台風の際も、影響が出る前の現場点検・対策、発注者への相談・報告。台風通過後の点検、異常の有無の報告、対策の解除をルーティンワークで行いました。特に、台風の影響前の対策として、海側に突き出した桟橋の堤防側の覆工板が高波と風によって、西湘バイパスの道路側に飛ばされる危険があったため、台風の通過まで高波と風の影響を受けづらい海岸側へ移動しました。

写真3)覆工板の一時撤去・移動 写真3)覆工板の一時撤去・移動

Q 現場の波浪予測で使用したアプリケーション(ソフト)は何ですか?また、使用した感想、メリット等は?

写真4)監理技術者/福島茂希さん 写真4)監理技術者/福島茂希さん

前述の気象海象予測システム「羅針盤」を提供している企業の予報サービスを活用しました。気象予報士と直接電話で話ができるサービスで、台風の進路予測や勢力の状況といった細かいアドバイスもいただけるので助かりました。また、西湘バイパスを管理する横浜国道事務所からも、海岸から道路への越波予測もいただきました。この予測のおかげで、事前の覆工板移動等の対応もスムーズに行えたと思います。

Q 福島さんが監理技術者として工事を担当する際に日頃心がけていることは? また福島さんが若い技術者を指導する際に心がけていることは?

やはり基本は日々の安全管理を確実に行い、無事故で工事を完成させることだと思います。また、自分が工事の目的や内容を十分理解するとともに、いろんな人の意見を聞いたり、新しい技術やサービスであっても、「良いものは良い」として積極的に使ってみることが大事だと思います。
若い技術者と仕事をする時には、自分の考えを伝えたうえで、ある程度彼らに任せることも必要だと考えています。もちろん、常にフォローはしますが。とにかく、経験の少ない若手であっても、言われたことをただこなすだけでなく、自分の考えを持って仕事をして欲しいと思います。聞く耳はもたなければなりませんが。

Q 小山さんから見て、今の若手技術者はどのように感じますか?

今の若手は時間をうまく割り振っているなと思います。私たちの世代は、切羽詰まった頃になって「徹夜して間に合わせようかな」といった考えが染みついていますが、それは、今の「働き方改革」や「生産性革命」といった流れから逆行しています。しかも、徹夜したからといって、必ずしも成果につながるわけではありません。今の若手は「今日はここまで」「明日はこれをやる」といったスケジュール管理ができている者も多いですし、それで効率が悪いとか作業が遅いということもありません。こうした割り切りは、私たちの世代も見習わなければいけないと思います。

写真5)工事課長/小山光則さん 写真5)工事課長/小山光則さん

おわりに

今回、私としては初めて海岸での工事を取材させていいただきました。多くの工事で工程管理の障害となる「気象」だけでなく、「海象」を考慮した工程管理は、私たちが想像する以上にご苦労があったと感じました。また、さまざまな変更を乗り越え、490日にもおよぶ工事を無事故で完遂したことに敬意を表します。

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