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表彰工事

2021/09/29

地盤状況を的確に把握し、最適な工法を提案。施工・品質・安全すべての管理にICT機器を活用。

回の現場探訪は、令和3年度国土交通省中部地方整備局の局長表彰を受けた「令和元年度 木曽川葭ヶ須下流川表高潮堤防補強工事」。コンコムでは初めて、地盤改良を主工事とする表彰工事を紹介します。この工事の監理技術者・小澤康弘さん(株式会社 加藤建設)に工事の概要と施工時の工夫、監理技術者としての日頃の心構えについてお聞きしました。

【工事概要】
工事概要 海岸土工、地盤改良工、天端被覆工 等
発注者 国土交通省中部地方整備局 木曽川下流河川事務所
工期 令和元年10月9日~令和2年12月18日
受注者 株式会社 加藤建設
施工場所 三重県桑名市長島町葭ヶ須地先
請負金額 628,364,000円(税込)
監理技術者 小澤 康弘

Q 今回の工事の概要(目的)について簡単にご説明ください。

木曽三川河口部は、南海トラフ巨大地震などによる津波の遡上が予想されており、緩い砂層で覆われ地下水位も高いことから、地震発生時には地盤の液状化による堤防の変形・沈下が懸念されています。当工事は「地盤改良工(静的締固め砂杭工法)」により河川敷(施工延長/約400m)の地中に砂杭を計1,184本造設し、ゆるい砂地盤を締め固めることで、堤防を補強することを目的としています。

図1)施工概要/平面図 図1)施工概要/平面図

Q 今回の工事で特に重視したこと、また大変だったことは何でしょうか?

特に重視したポイントは、やはり地盤改良工における砂杭の品質確保です。地盤改良工は、地中内の「不可視箇所」が施工対象となるため、施工途中のプロセスが正しく行われているかを「チェック」することが重要です。このため、独自で作成した「施工プロセスチェックシート」にて1,184本の杭1本毎に重要項目を確認しました。
また、工程調整についても特に重視しました。工事箇所は木曽川右岸の河川敷内での施工で、隣接業者が多数同時進行し施工エリアが重複する箇所もありました。そこで、隣接する業者全体で「工事安全協議会」を発足し、工程調整の連絡や打合せを綿密に行いました。その結果、最善の作業工程を各業者が履行でき、自社だけでなく、隣接業者も早期完工につながったと思います。

Q 地盤改良の施工について、当初予定の工法から変更されたそうですが、変更した理由は?

当初設計では、すべての杭を「SAVEコンポーザーHA工法」で実施することが最も安価で工期も短縮できると考えていました。しかし、「支障物分布図」で工事の妨げとなる支障物が確認されたため、すべての杭を「SAVEコンポーザーHA工法」で施工することは不可能であることから、別の工法を検討する必要がありました。
まず検討したのが「SAVEコンポーザーHA工法」で施工しつつ、補助工法の「削孔ビット」で支障物を貫入するというものでした。この組合せであれば、費用面、工期面でのロスは少ないと思われました。しかし万一、「削孔ビット」での貫入ができなかった場合、再度別の工法でチャレンジする必要があり、手戻りによって費用が大きく嵩む恐れがありました。

図2)SAVEコンポーザーHA工法 図2)SAVEコンポーザーHA工法

次に検討したのが支障物の影響を受ける可能性の高い杭については杭全長をすべて「SAVE-SP工法」で施工し、それ以外を「SAVEコンポーザーHA工法」で施工する組合せでした。こちらの工法であれば、手戻りすることなく施工が行えますが、費用面がかなり嵩むこととなり、また工期短縮の面でのメリットもあまり望めませんでした。
しかし、いずれにしても不確定要素があり、試験施工を実施して状況を的確に確認することとなりました。

図3)SAVE-SP工法 図3)SAVE-SP工法

試験施工での結果を基に、最終的に発注者と協議した結果、「SAVEコンポーザーHA工法」と「SAVE-SP工法」の組合せによる施工で実施することとなりました。しかし、上記で検討したようなやり方ではなく、まずすべての杭を「SAVEコンポーザーHA工法」で施工し、支障物の貫入が不可能であった杭については、支障物の下部を「SAVE-SP工法」で行うという組合せを選択しました。この組合せであれば、経費面、工期面でのロスを少なく抑えることが可能であり、結果としてベストの選択であったと思います。

Q 地盤改良の施工管理システムにICT機器を使用したそうですが、どのようなものを活用されたのでしょうか?またそれによってどんなメリットがありましたか?

改良杭1本毎の施工深度及び材料砂の投入数量をリアルタイムで確認するため、地盤改良工「SAVEコンポーザーHA工法」におけるリアルタイム施工管理システム「Visios-3D」(NETIS登録/KK-190005-A)を活用しました。
通常は、造設砂杭の適切な材料投入量や貫入深度等について、現場管理者も施工機械の運転席の画面を見ながら監視する必要がありますが、このシステムでは、手元のタブレットに運転席の画面が遠隔表示されるので、リアルタイムでの杭の可視化、オペレーターとの情報共有化、施工結果の3次元モデル化により分かりやすく確認・管理することができました。

写真1)タブレットによるリアルタイム監視 写真1)タブレットによるリアルタイム監視

また、地中に造設する砂杭の施工途中のプロセスが可視化され、同時に重要項目の確認チェックもできるので、品質向上にもつながり、これまで専門業者による「施工後」の報告書でしか品質確認できなかったものが、施工途中でも砂杭1本毎にチェックでき、リアルタイムで施工管理を行う事ができました。

Q 堤防補強工事ということもあり、安全対策には特に留意したと思いますが、具体的にどのような取り組みを行ったのですか?

安全管理に留意したポイントとしては、掲示物等の表示方法を「見易く工夫」して作業員の安全意識を高く持たせることを一番に考えました。
掲示物ひとつをとっても「相手(作業員や運転手など)」に伝わらないと意味がないということを念頭において一目でわかるように工夫しました。
どの現場でも安全管理における工夫はいろいろと行っていますが、「作業員目線」で掲示物や表示を行っていないのではと感じることもあり、周知・意識させるために「掲示方法」は非常に重要であると感じています。

【当工事における安全対策】

○法面階段の設置

川表高水敷の施工箇所へ近づくための「歩行者通路」を確保するにあたり、「地盤改良機」の上流側はタイヤショベル及びダンプの往来が激しく、歩行に危険を伴うため、基本的には堤防上を歩行し、「地盤改良機」の下流より高水敷へ上下の往来をできるように「法面階段」を設置しました。また、「地盤改良機」の進捗とともに、近い位置へ「法面階段」を移動しながら最適な「歩行者通路」を確保することが必要となるため、容易に組立解体のできるユニット式「法面階段」を採用しました。

写真2)容易に組立解体のできる法面階段 写真2)容易に組立解体のできる法面階段

○騒音振動測定

地域住民への環境配慮の確認のため、地盤改良施工中に「騒音振動測定」の実施及び表示を行い、常に法令値以内で作業が行われているかの確認を行いました。
移動式の足場に「騒音振動測定機器」を固定することによって、施工機械の位置に合わせて移動し測定することができ、数値が常時表示されますので、作業員への注意喚起と周辺住民への環境配慮に役立ったと思います。

写真3)SAVEコンポーザー施工時の測定 写真3)SAVEコンポーザー施工時の測定

○気象モバイルの利用

降雨や強風などの気象予想情報をスマホやパソコンにメールにて通知できるシステムを利用しました。さらに現場毎にサイトを構築することにより、悪天候時に迅速に対応できるようにしました。

○救命浮輪の設置

河川に隣接した高水敷での施工であるため、作業員が川に転落するといった万が一に備え「救命浮輪」を現場に常時配備し、設置位置も分かりやすいように看板で明示しました。


○音声ガイダンスによる注意喚起

注意喚起表示等の見落とし防止の為、「音声ガイダンス」による注意喚起を要所で行いました。その音声に親しみやすい現場の担当者の声や弊社女性職員の声を用いて、安全意識の向上を図りました。

写真4)救命浮輪の設置 写真4)救命浮輪の設置

○新型コロナウィルス感染防止対策

体温測定による現場入場制限、打合せや朝礼時の離隔確保、予防対策関連ポスター掲示による注意喚起、除菌喚起対策徹底等を作業所員全員で行い、感染防止への意識を高めたことによって、感染者を出さずに完工できました。

Q 安全対策の中で、特に「WEBカメラ」による遠隔監視を品質管理や安全管理に活用するというのは、アイデアとしてとても面白いと思いますが、これは以前から採用していたのですか?またこれによってどんなメリットがありましたか?

現場内に「WEBカメラ」を定点設置し、タブレットやパソコン・スマホなどでリアルタイムな現場状況を複数人で遠隔監視できるようにしました。これによって、本社工事部や安全課にも確認してもらいながら、安全指導等などの社内現場支援体制をつくることができました。この機能の活用は当社の国交省発注の全ての現場において、数年前から活用しています。
また、発注者との施工段階確認等の「遠隔臨場」で用いている「ウェアラブルカメラ」を、品質証明員の品質管理にも活用しました。今回の現場で初めて活用したのですが、とても有効だと感じました。

写真5)品質証明員による遠隔監視

写真5)品質証明員による遠隔監視

Q 建設業界では、「i-Construction」の推進が喫緊の課題となっていますが、地方の建設会社では、未だに踏み出せていない企業もあります。加藤建設さんならびに小澤さんとしては、地方建設会社の「i-Construction」についてどのように考えていますか?

「i-Construction」のイメージとして、難しそう、面倒くさそうという意識をもっている人もいると思いますが、私は「便利になりそう」だとか「早く仕事をこなせそう」という風に考えるようにしています。部下や同僚たちにも新しいことに挑戦することは、「良いことだ」ということを言い続けて、私自身もこれから益々進歩していくICT機器も臆せずに活用していきたいと思っています。

Q 「i-Construction」の推進が遅れている原因は何だと思いますか?小澤さんの個人的な感想で結構ですのでお聞かせください。

率直に言えば、遅れている原因は現場の支援体制が少ないことにあると感じています。「i-Construction」を進めるにあたり、現場着手時にさまざまな計画や測量等を行わなければいけませんが、現場着手時は、施工計画・地元対応・設計照査・予算管理等の一番忙しい時期なので、現場担当者は余裕がなくて「i-Construction」を考える時間がないのだと思います。専任ではなくても、「i-Construction」に関してサポートしてくれる体制が社内にあれば良いのではないでしょうか。

Q 小澤さんが監理技術者として工事を担当する際に心がけていることは?

写真6)小澤康弘さん 写真6)小澤康弘さん

一番心がけているのは、「コミュニケーション」です。発注者や会社や地元住民や施工業者等と積極的に「話す」ことによって、品質・出来栄え・安全のポイントは何かを探すことができます。さまざまな協議事項についても、「話す」ことでいち早く対処できます。便利な世の中になってきましたので、さまざまな方法で「コミュニケーション」をとる努力をすることが一番大切であると感じています。ただ、私は古いタイプの人間なので、メール等ではなく直接会話をしたくて、すぐに会いに行ったり電話したりしちゃいますけど。(笑)

Q これから監理技術者をめざす若手技術者に、心構えやアドバイスをお願いします。

やはり、コミュニケーションをたくさん取るように心がけてほしいです。若いうちは分からないことや決断できないことも多いと思います。さまざまな人に「話す(伝える)」ことで、いろんなことが少しずつ見えてくるようになると思います。
また、自ら「答え」を出す方法を養ってほしいです。私は「答え」を出すということは最善の方法を「選択」することだと思っていますので、いかにして「選択肢」を増やすかを常に意識することが、監理技術者となった時に、さまざまな「答え」に対応できるチカラになるのではないかと思っています。

おわりに

「i-Construction」が推進されていく中、さまざまなICT機器が開発されています。今回の取材では、「ウェアラブルカメラ」の安全管理や品質管理への使用等、ICT機器をアイデアと創意工夫で本来の仕様以外の場面で活用し、効果を上げている事例を紹介しました。そこには、日々現場を管理している監理技術者個人の発想がありました。多くのICT機器には、多分、開発したメーカーも想定していない活用方法がたくさんあるのではないかと感じました。コンコムでは、そうした現場ならではのアイデアや発想についても取り上げていきたいと考えています。

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