2022/06/01
今回の現場探訪は、令和3年度国土交通省関東地方整備局の局長表彰を受けた「R1笛吹川右岸高田上護岸工事」。この工事を施工された湯澤工業株式会社(本社 山梨県南アルプス市)にて、当工事の監理技術者・大西唯喜(タダキ)さんに表彰理由となったICTフル活用のメリットや監理技術者としてICTを活用する際に心がけていることなどをお聞きしました。また後半は、自らも監理技術者としてICT施工を推進し、国土交通省 関東地方整備局の「ICTアドバイザー」も務める湯沢信(マコト)常務取締役に、地方の建設会社のICT推進の課題や、2024年から施行される罰則付き時間外労働の上限規制等に対する課題について、経営者の立場から貴重なご意見を伺いました。
工事概要 | 河川土工、法覆護岸工、根固め工、構造物撤去工 |
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発注者 | 国土交通省 関東地方整備局 甲府河川国道事務所 |
工期 | 令和2年7月1日~令和3年3月31日 |
受注者 | 湯澤工業 株式会社 |
施工場所 | 山梨県西八代郡市川三郷町高田地先 |
請負金額 | 144,650,000円(税込) |
監理技術者 | 大西唯喜(オオニシ タダキ) |
当工事は、笛吹川と芦川との合流箇所の水衝部対策として、低水部において210mの護岸工と20mの根固工を行い、さらに上流部に乱積みの消波ブロックを置く工事です。当社の施工場所の下流側に隣接する箇所でも、別の施工会社による同様の工事(護岸工130m)が施工されていました。
受注当初は概略設計しかありませんでしたが、詳細設計が出来た後、すぐに当社と隣接工事を担当する会社、発注者の3者で調整会議を行いました。締切仮設の切り回しやポンプによる排水等、事前にどちらの業者が実施した方が効率的かといった話し合いを行ったことにより、お互いの施工計画の調整はスムーズにいったと思います。
① 3次元起工測量
まず測量に要する時間を圧倒的に短縮できることが大きなメリットですね。今回の規模の測量をする場合、従来の光波測量であれば、およそ3日間の日程を見込む必要がありますが、当工事ではレーザースキャナーを使用して、測量に1日、データ処理も半日で済みました。高額ではありますが、最近購入した高精度かつ処理速度の速いレーザースキャナーであれば、測量とデータ処理合わせて1日で終わります。今回の現場では、より精度の高いデータを取得するために、レーザースキャナーとUAVの両方を使って測量しましたが、それでも測量時間は1日で済みました。
また、今回の工事ではありませんが、例えば砂防工事等を山間部の岩盤がオーバーハングしているような地形で行う場合でも、レーザースキャナーやUAVであれば複雑な地形に関係なく測量できることもメリットといえます。
② 3次元設計データ作成
発注図面を着手前に良く確認してから3次元設計データの作成に入るので、照査としても使用することができます。また、3次元設計データを作成することにより、現場での問題点や完成形が事前に確認しやすくなるので、必要な場合は発注者と設計変更の相談を早い段階でできることも大きなメリットだと思います。
③ ICT建機による施工
ICT建機により作業(操作)が容易になるため、周囲の安全確認や作業効率を上げるための状況把握に多くの時間を割くことができます。現場監理者としては、その時間を利用して視野を広げることもできると思います。
④ 3次元出来形管理
広範囲を正確に判断できますし、出来形資料としては、従来と変わらない程度の時間で作成でき、かつ多くの情報を発注者に提示できます。
⑤ 3次元データ納品
3次元データでの納品は、すでに設計データを作っているので、負担はあまり感じません。しかし、納品するデータが大きいので、記録媒体に保存するのに時間がかかってしまうのが現状ではマイナスですね。これも今後オンライン電子納品が普及すれば少しずつ解消されるのではないかと思います。
当工事でICT施工工事は2回目です(現在4例目を施工中)。初めて経験した時は、苦労というかICT建機の精度に対してあまり信用していなかったので、確認のため従来の測量機器も併用しながら施工を行いました。実際に確認してみると、ICT建機や3次元測量機器のデータの正確さに驚き、問題なく施工をする事もできました。ICT施工に関する書類の作成は、やはり初回ということで少し時間がかかりましたが、この時に必要な書類の作成方法や必要な仕様書等を勉強する事ができたので、現在は書類作成もスムーズに行えるようになりました。
今の私にとっては、ICT施工が出来る環境であれば、ICTを使わない選択はないというほど当たり前の施工になっています。
CIMというよりも、3次元設計データを基に仮設計画図や完成イメージの作成、施工プロセスの確認に活用しました。こうしたさまざまなイメージの「見える化」によって、作業員とイメージの共有が図れ、「重機はどこに置く?」「掘削した土の仮置き場は?」といった確認に手間をとることもなく、効率的に作業が行えたと思います。また、3次元で作成した完成イメージ図は、住民説明用の案内板にも使用し、「工事の出来上がりがイメージできてわかりやすい」と好評でした。3次元設計データを活用する前は、自分の中にはイメージがあるものの、それを他の人に伝えることが難しいと感じたこともありました。今は3次元データがある事により「大丈夫だと思うよ」から「大丈夫だからこれで行こう」という具合に、スピード感をもって決断できますし、何より3次元データを示すことで、説得力のある会話が現場内でできるようになりました。また発注者とのイメージの共有にも役立っていると思います。
一般的にはICT施工に必要な機器等への設備投資が行えないとか、ICT建機、3次元測量機器等のレンタルリースが少なく、かつ高額であるということが原因のひとつだと思います。これに関しては経営層の判断によるものなので、それぞれの建設会社によって判断されることだと思います。現場の技術者の問題としては、誰でもそうだと思いますが、初めての施工方法への不安や必要性への価値観の低さが原因となっているケースもあると思います。私の場合は、発注者の方にも背中を押して頂き一緒に取り組めたことが大きかったです。
これからICTに取り組む技術者の方は、新しい技術に取り組むというのではなく、ICT施工という工種を施工すると考えれば、入りやすいのではと思います。実際のところ、ICT施工をやってみないと良否の判断もできないので、施工規模の大小関係なく、やってみることが大切ではないでしょうか。
個人的に感じているのが、ICTというと、とにかく、「若い人にやらせよう」と考えがちですが、それでは社内にICTの価値や必要性を浸透させる近道にはならないと思います。確かに3次元設計にしても3次元施工にしても、機器の「操作」という点ではコンピューターに抵抗の少ない若手の方がなじみやすいと思います。しかし、データはいつも正しいとは限りません。データが間違っていれば、間違ったまま進めてしまう恐れもあります。現場を見て、データを見て、「これはおかしいかもしれない」という疑問は、経験によるものが大きいため、「操作」ばかりに注目するのは危険だと思います。
当社がICT建機を導入した際、まずオペレーターの中で一番のベテランであった小山さんに任せました。当時60歳近くだったと思いますが、本人が新しいもの好きであったこともあり、ICT建機のメリットを周りにもアピールしてくれました。他のオペレーターにも「小山さんが言うならやっぱりいいものなんだろう」というイメージが伝わり、一気に社内に浸透していったと思います。
社内にICTを浸透させるならまずベテランから。これは大事だと思います。
平日が悪天候によって閉所となった場合、後日(土曜日、祝日)に作業をしたいときはありました。しかし当現場は週休2日制を採用していたため、職人がすでに休日の予定を組んでしまっているので、逆に職人の確保ができないときがありました。何とか調整して乗り切りましたが、週休2日が当たり前になれば、当然、同じようなケースは出てくると思います。当社はもともと施工会社なので、職人も自前で抱えているため、少し融通が利くという面はあったかもしれません。
-----以下、湯沢常務さんに、経営者の観点から伺いました。
これはいろんな場でもお話ししていることですが、建設現場で働く人たちが、少しでも楽になることをめざしています。建設業が楽しい、建設業はカッコイイと思う人たちが増えて、さらに建設業の重要性を感じてほしいと思っています。そのために、ICTなどのデジタルのカッコ良さだけでなく、現場の作業員が建設機械を使い体を張って災害対応をする様子なども伝えるようにしています。工業高校での出張講習の実施や、2020年から毎年、整備局さんにご協力をいただいて行っている「ICT建機を使ったメッセージ」の発信もそうした想いをカタチにしようという試みです。
他産業と肩を並べ、建設業が入職の選択肢の一つとなるためには重要なことだと考えています。ただし、建設業には公共だけではなく、民間対応の会社や建築関係を主体にしている会社もあり、そういった会社の多くは、工期を守るために土日祝に現場を動かそうとするため、建設業全体で足並みをそろえるのは厳しいかもしれません。
当社の場合、土木工事に特化していますし、施工チームも社員ですので、現場の工夫次第で週休2日制は実現できると思っていますが、2024年から施行される罰則付き時間外労働の上限規制については、正直、悩んでいるところです。これからいろんなアイデアが生まれてくると思いますから、そういった他社の取り組みにもアンテナを張っていこうと考えています。
デジタル化の波と建設業DX化が建設業界に革命を起こしているように感じています。
でも、まだまだ地方の建設業は地に足をつけて、汗水たらして現場で重機に乗って、型枠組んでコンクリートを打設してという作業、つまりフィジカルな行動がないとインフラを整備することはできません。ICT等の建設現場に取り入れるデジタルは、インフラ整備のための手段だということです。しかし、生産性の向上や便利になることは言うまでもありません。このフィジカルとデジタルを上手に両立させることが重要だと考えています。
弊社はもともと、重機作業やコンクリート打設作業を中心に体で稼いできた会社です。その知識やノウハウは、経験や勘という漠然としたカタチで蓄積されています。デジタルを使って管理が楽になっても、作業をする人がいなくなったら意味がありませんので、「見て覚えろ」と言われていた部分を教育できるツールを考えていけると楽しいと思っています。とにかく、現場監督だけでなく作業員もカッコイイと思われる業界にすることです。
山梨県内はもとより関東地方でもICTのトップランナーとして活躍している湯澤工業さん。大西さんも湯沢さんも、共通して「楽しい」「カッコイイ」建設現場にしたいという想いを持っていました。また、大西さんの発言にあった「ICT=若手」といった考えにとらわれない方が良いという考えは、これからICTに取り組んでいく会社にとっては大きなヒントになるのではないでしょうか。
また湯澤工業さんでは、今回の工事のダイジェスト映像を作成し、「YouTube」で公開しています。興味のある方はそちらも御覧ください。
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