2023/01/04
今回の現場探訪(表彰工事)は、令和4年度(令和3年度完成)国土交通省 北陸地方整備局の局長表彰を受けた「R3小松人工リーフ据付他工事」です。この工事を施工された加賀建設 株式会社(石川県金沢市)に伺い、工事の概要と工夫された点については監理技術者を務めた土木部の小山勇治さんに、海洋土木のICT技術については本社でサポートした技術営業部の東野友樹さんに、それぞれお聞きしました。
工事概要 | 海域堤基礎工、海域提本体工、橋梁補修工 他 |
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発注者 | 国土交通省 北陸地方整備局 金沢河川国道事務所 |
工期 | 令和3年4月13日~令和3年11月30日 |
受注者 | 加賀建設 株式会社 |
施工場所 | 小松工区/石川県小松市草野町 美川工区/石川県白山市蓮池町 松任工区/石川県白山市徳光町 |
請負金額 | 254,331,000円(税込) |
監理技術者 | 小山 勇治 |
今回の工事は施工箇所が3箇所に点在する工事でした。「小松工区」の工事は、2004年(平成16年)から整備が進められている石川海岸での人工リーフ(15基目)となる工事で、高波から背後地を守る潜堤(人工リーフ)を築造する海上工事となります。「美川工区」は、サイクリングロードになっている堂尻川橋の補修工事です。塩害等により鋼材の腐食やコンクリートの剥落が著しいため、橋梁補修や橋面舗装を行いました。「松任工区」の工事は、発注当初は含まれていませんでした。金沢河川国道事務所さんから「松任地区にある離岸堤の洗堀が激しく危険度が増しており、緊急に対応する必要がある」ということで、本工事に追加発注された大型離岸堤の洗堀防止対策工事です。
まず3つの工事を円滑に行うために、それぞれに担当者を置きました。施工位置図で示した通り、小松工区から美川工区は約15km、そこからさらに約5km離れたところに松任工区があります。小松工区には監理技術者の小山が、美川工区および松任工区には現場代理人を、すべての工区のサポートとして若手の担当技術者を配置しました。さらに、小松工区及び松任工区は海上工事であったのに対し、美川工区は陸上工事ということもあり、このなかで、工事全体で「週休2日(4週8休)」の工程を管理することが大きなテーマでした。海上工事の作業は海象が良好な日に限られるので、休日であっても海象が良好であれば作業を行う必要があります。対して陸上工事は天候に影響する工種が少なく、カレンダーどおりの作業が可能でした。したがって、工程は、気象に左右される海上工事の工程を先に設定し、可能な限り陸上工事の工程をそれに合わせるという形で行うこととし、海上工事である小松工区の稼働をベースに全工事の工程を組みました。このため、それぞれの担当者は自身の工事だけでなく、他の工事の工程についても常に把握しておく必要がありました。今回の工事は、工区間の距離が遠く、移動しながら管理することが難しい状況でしたので、3人の連携が非常に重要な工事でした。また、「週休2日(4週8休)」の取り組みには協力会社さんの理解が不可欠ですが、今回の工事では、特に陸上工事に関する協力会社さんの理解が重要でした。幸い、当社の工事は常に「4週8休」で行うことが協力会社さんにも浸透しているので、みなさん理解して協力していただけました。
当社の作業台船は基地港(金沢)から施工箇所まで片道約3.5時間を要し、かつ、途中に避難港がないため、台船を使用する作業日の多くが沖泊となります。このような条件の中、当現場では気象予測に「気象海象予測システム羅針盤(NETIS登録/QSK-140001-VE)」を活用したことで、作業台船の出戻りもなく、安全かつ効率的な工程管理を行えました。気象海象の予測精度が低かった時代には、長時間かけて現場に着いたものの、海象状況が悪く、何ひとつ作業を行えないまま帰港するということもありました。今は、予測精度も高く、登録した施工箇所のピンポイント(1kmメッシユ)の予測を入手できますので、「出戻り」や「沖泊の延長」はほとんどありません。
当然のことですが、水中での施工は陸上のように目視で確認することがほとんどできません。水中工事では作業箇所の「見える化」が効率面でも安全面でも重要だと考えています。海上工事でもそういった視点からさまざまなICT技術・機器が開発されています。当工事でも、下記ICT技術を導入した当社の作業台船(起重機船・クレーン付台船)を活用して、作業の効率化や省力化、安全面の強化を実現しました。
1.SV-Navi & SV-Sonar
こちらは各種センサーを駆使した施工管理システムによって水中の作業箇所を見える化するものです。準備工で測量した海底のデータをもとに、捨石の投入から荒均し、プロックの据付状況の確認等をモニターで監視することが可能です。当工事では、捨石投入作業において、SV-Sonarを使用して水深管理を行いました。捨石投入精度は以後の荒均し作業の進捗に大きく左右するため、本技術の使用によって不陸が少なくなり、荒均しの実施日数を約3日間短縮できました。
余談ですが、このようなシステムが開発される前は捨石の投入精度を確認するために、メモリの付いた棒を人力で水中に卸し、一定の間隔ごとにメモリを見ながら確認することを行っていました。システムの普及によって、「これしか方法がない」と思っていた作業も省人化できる時代になったわけです。
2.Virtual Bridge Monitor
作業船の作業状態をリアルタイムで共有できるモニタリングシステムです。例えば水中のグラブの上昇下降、開閉動作や爪先軌跡をリアルタイムでグラフィク表示してくれますので、施工精度も上がり、経験の浅い技能者でもストレスなく操作できます。
今回の工事でもっとも注力したのは、「本体用ブロック」据付の基準となる端部のブロック据付時です。本体用ブロックを適切に並べていくために、端部の位置決めが非常に重要であり、この端部の設置に数センチでもズレがあると全体では大きなズレを生み、場合によっては積み直しになることもあります。しかも、作業は水深数メートルの位置で潜水士に行っていただくことになりますので、彼らの安全も確保しなければなりません。このため、まず潜水士同士、オペレータ、潜水士船の連絡員が相互に直接会話できるよう、水中通話装置を導入しました。これまで一方通行で行っていた合図を会話で行うことにより、合図の取り違えをなくすことができました。さらに、前述の端部の正確な配置に対しても、計画法線にH鋼を設置し、ブロック据付のガイドとして使用し、ガイドにブロックを添わせながら据え付けることで、据付精度を大幅に高めることができました。これによって、作業の手戻りもなく、据付時間の短縮につながりました。
日中に1時間当たり10人程度の利用者がある自転車道の特性を鑑み、全面通行止めとなる橋面のアスファルト舗装工事は、地理的に迂回路を設定することが困難であったため、道路管理者および地元警察と協議し、利用者の少ない夜間に変更しました。また、作業状況によっては幅員減少となることがあったため、チューブライトや夜間照明、歩行者マット等を設置することで、自転車道利用者の安全通行に配慮しました。
加えて、自転車道を利用する方や散歩・ウォーキングをしている周辺住民に対して、橋梁補修工事をわかりやすく解説し、かつ公共工事への理解を深めていただけるようイメージ看板を設置しました。多くの住民の方に立ち止まって看板を眺めていただきましたし、私たち現場の職員と住民の方々とのコミュニケーションのきっかけとしても役立ったと思います。
この大型離岸堤は釣り人も多いので、危険性を速やかに取り除くため、スピード重視での早急な対応が求められる工事であると理解しました。また、追加工事として、海上土木を得意としている当社に緊急対応を任せていただきましたので、その期待に応えなければならないと感じました。
また、被災の原因となる冬季の波浪は、今後も繰り返されるため、施工後の耐久性についても十分に配慮する必要がありました。
当初の設計では、大型離岸堤の一部の洗堀がこれ以上進まないよう、被覆石による対策が計画されていましたが、現場は冬季の波浪の影響で、被覆石が飛散してしまう恐れがあったため、被覆石の投入後、重鎮による被覆石天端部抑えを行い、被覆石のかみ合わせを向上させ、飛散リスクの低減につなげました。
また、法肩部の護岸ブロック陥没箇所についても、当初はコンクリートを打設する設計でしたが、当工事では、万一、釣り人等が転落事故に巻き込まれることのないよう、既設構造物と間詰めコンクリートとの一体性の確保を目的に、打設前に鉄筋(エポキシ樹脂)を設置しました。
普段から心がけていることはやはり工事関係者とのコミュニケーションですね。発注者の方、協力会社の方、自分の担当する工事に関わるすべての関係者と常に何でも相談できるような関係づくりを大切にしています。また、公共工事はひとつ間違えると周辺住民に大きな不信感を与えてしまうこともあります。そうならないよう、誠実に丁寧に説明する姿勢は大事だと考えています。
また、自分が担当するすべての工事での4週8休以上の確保。これは、これから一緒に建設業で頑張っていく次の時代の人たちのためにも、必ずやり遂げたいですね。
さらに、当社の社風として、「Be a Challenger」の精神があります。常に未来への挑戦を絶やさない姿勢として、新しい技術、新しい工法にも積極的にチャレンジしていきたいと思っています。
今回取材した「表彰工事」は、3つの離れた施工場所、3つの異なる工種を同時進行しつつ、さらに4週8休を確保しながら、工期内完成を達成した工事でした。特に、海上工事でのICT技術の活用は、初めての取材でしたのでとても興味深くお話を聞くことが出来ました。また今回の工事は、気象海象といった厳しい制約の中でも、的確な工程管理と新技術の活用等の創意工夫で、質の高い工事が実現できるということを証明した工事だと思いました。
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