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話題の現場

2020/09/29

世界初「側⽔路減勢方式(そくすいろげんせいほうしき)」を採⽤した、横瀬川ダム

設業界の話題の現場を紹介する「現場探訪~話題の現場」。今回は、今年6月に運用を開始した、世界初「側水路減勢方式」を採用した横瀬川ダムを訪問しました。

写真1)横瀬川ダム

1. 横瀬川ダムの概要

(1)位置
図1)位置図図1)位置図

横瀬川ダムは、高知県を流れる一級河川四万十川(渡川水系)の右支川である中筋川に流れ込む横瀬川に設置されたダムで、高知県宿毛市に位置し、国土交通省四国地方整備局渡川ダム統合管理事務所が、中筋川ダムとともに管理しています。

中筋川流域は、面積が157.1km2ですが、山地が81%もある一方、年間平均降水量は2,200mm~2,600mmと多く、河床勾配は1/8,000と緩やかなため、合流する四万十川の背水(バックウォーター)の影響を受けやすく、洪水の危険性の高い地形となっています。
平成11年の中筋川ダム完成後も、平成16年、平成17年、平成26年、平成28年と大規模な洪水被害が発生しており、横瀬川ダムの早期完成が待ち望まれていました。

写真1)平成28年9月 山田地区写真1)平成28年9月 山田地区
図2)流量配分図図2)流量配分図

表1)横瀬川ダムの主な経緯

横瀬川ダム 備考
H 11.4 (中筋川ダム)完成・管理開始
H 14.6 基本計画公示
H 16.10 洪水被害発生
H 17.9 洪水被害発生
H 26.6 洪水被害発生
H 28.9 洪水被害発生
H 28.11 ダム本体建設工事着手
H 31.3 ダム本体コンクリート打設完了
R2.5 試験湛水完了
R2.6 ダム完成・管理開始

特に平成28年9月の台風16号による洪水では、山奈雨量観測所で総雨量466mm(日雨量352mmという観測開始以降最大雨量)を記録しましたが、中筋川ダムで最大流入量351m3/s に対しダムからの放流量を約56m3/s とする洪水調節を行った結果、磯ノ川地点(基準地点)において、洪水の水位を約125cm低減させることができました。この結果、中筋川ダムがなければ堤防高を約50cm越えてしまった洪水から、越水による堤防の決壊を回避することができました。

ただし、洪水の水位が計画高水位8.4mを約4時間も超えており、その間いつ堤防が決壊してもおかしくない状態が続きました(※)。もしこの時、横瀬川ダムが完成していれば、水位をさらに約60cm低減させることができ、いつ堤防が決壊してもおかしくない計画高水位を超えることがなく安全に洪水を流すことができたと推定されています。

(※)堤防が整備途上である場合、「洪水を安全に流すことができる最高の水位として設定された水位で、堤防を築造する際の基準となる水位」である計画高水位は、いつ堤防が決壊してもおかしくない水位とは一致しませんが、中筋川ではすでに堤防を計画の高さ、幅まで完成させているため、いつ堤防が決壊してもおかしくない洪水位は計画高水位と一致しています。

(2)ダムの形式、機能

形式は重力式コンクリートダムで、洪水調節、流水の正常な機能の確保のほか、水道用水の供給(四万十市:日量800m3)を目的とする多目的ダムです。

図3)ダムの諸元、貯水池容量配分図 図3)ダムの諸元、貯水池容量配分図

洪水調節は、自然調節方式によって行い、210m3/sの計画最大流入量に対して70m3/sの放流を行い、ダム地点で140m3/sの洪水量の低減を行います。

図4)洪水調節図 図4)洪水調節図
(3)側水路減勢方式の採用

横瀬川ダムの建設地点周辺の一生原地区は、棚田の続く昔ながらの里山風景を残す土地であり、シイ・カシの天然林が多く分布する自然豊かな環境です。またダム建設地点直下には横瀬川のなかに、水神が宿っているといわれ、厚い地元信仰がある「とどろの滝」があり、その川辺には雨乞い行事等が行われる「雨乞いの祠」が設置されています。

写真2)とどろの滝・雨乞いの祠 写真2)とどろの滝・雨乞いの祠

通常、重力式コンクリートダムの直下流に設置され、ダムから放流された洪水の勢いを減勢させる役割を持つ減勢工は、一般的に数十mにわたり設置されますが、横瀬川ダムでそのような減勢工を設置した場合、「とどろの滝」「雨乞いの祠」のまさにその場所に大規模なコンクリート構造物を設置してしまうことになります。

写真3)重力式コンクリートダムの減勢工の例:中筋川ダム
写真3)重力式コンクリートダムの減勢工の例:中筋川ダム
写真3)重力式コンクリートダムの減勢工の例:中筋川ダム

そこでこの「とどろの滝」「雨乞いの祠」をそのまま存置するという課題を、ダム直下流に減勢工を設置せず、代わりにダム堤体下流面に、ダムの放流水を減勢させる側水路を配置し、さらにその放流水をダム堤体下流面の両端から減勢させつつダム直下に導流する堤趾導流壁(ていしどうりゅうへき)を組み合わせることで解決を図りました。この方策が「側水路減勢方式」という減勢方式で、世界で初めて採用されたものです。

写真4)横瀬川ダム 写真4)横瀬川ダム

2. 世界初「側水路減勢方式」あれこれ

世界初の「側水路減勢方式」について、横瀬川ダムを管理する渡川ダム統合管理事務所にあれこれ聞いてみました。

Q.側水路の長さや、高さ、幅はどのくらいなのでしょうか?

A.側水路はダムの真ん中から左右2つに分かれていて左右対称に設置しています。それぞれ 長さ:49.5m、壁面の高さ6.0m、底面の幅3.6mとなっています。
側水路の壁面の上部1.5mは、ダム側に1.5m突き出しており、ダムの放流水を減勢するとともに、放流水が側水路から跳ねて直接壁面上部から飛び出さないようにしています。

写真5)右岸からみた側水路全景写真5)右岸からみた側水路全景
写真6)側水路内部写真6)側水路内部
図5)側水路断面(単位:mm) 図5)側水路断面(単位:mm)
Q.側水路が位置する高さは、ダムの高さのどのあたりに位置するのでしょうか?またそれはどのように決まったのでしょうか?

A.側水路の底面の高さはダムの常用洪水吐の高さから7.5m、非常用洪水吐の高さから21.4m低い位置にあります。
洪水を放流する場合、まず高さが低い常用洪水吐から放流され、その後、非常用洪水吐からの洪水が側水路に放流されます。常用洪水吐からの水流は側水路により流向を90度変えながら跳水(※)させることにより1次減勢させます。1次減勢後は堤趾導流壁で減勢を行いますが、より効果的に行うためには、放流水を堤体方向に出来るだけ均等に配分する必要があり、それには側水路の延長は長い方がより効果があるため、ダム幅いっぱいに側水路を設置しています。
また、側水路の標高は、低位置の方が減勢効果は大きくはなりますが、放流水が側水路の壁に当たって減勢した後の流向のコントロールが難しく、側水路の幅として十分なスペースも取りにくいこともあるということを考慮して、常用洪水吐出口直下に設置しています。
更に、非常用洪水吐からの越流に対しても、側水路と堤趾導流壁により十分減勢されることにしています。
なお、側水路と堤趾導流壁による減勢効果は、独立行政法人土木研究所(現 国立研究開発法人土木研究所)における入念なダムの模型実験で十分確認されています。

写真7)ダム模型実験 写真7)ダム模型実験

(※)跳水とは、水深の浅い流速の速い流れ(射流)が、障害物や抵抗によって水深が増加し流速の遅い流れ(常流)になる現象をいい、この跳水が発生した場合には流水のエネルギーが大きく減少します。ダム直下に設置される減勢工は、跳水を発生させてダム下流に流下する洪水のエネルギーを弱める働きをするものです。

Q.側水路や堤趾導流壁など、ダム堤体下流面に設置する構造物を施工するに際して、特に留意したことや工夫したこと等はあったのでしょうか?

A.側水路は常用洪水吐や非常用洪水吐からの放流水による衝撃を直接受けるとともに大規模地震時には水平力も働くため、コンクリートが充填不足とならないよう入念に打設を行いました。特に越流部のカーブは型枠を2分割施工するとともに確認孔を設置することでひび割れなく仕上げることができました。
また、堤趾導流壁は天端幅が1mと壁厚さが薄いうえ複雑な形状をしていることから、側水路と同様に入念な打設を行うとともに、可能な限り長期間にわたって散水・シート養生を行いました。

図6)2分割施工(単位:mm) 図6)2分割施工(単位:mm)
Q.横瀬川ダムで採用された「側水路減勢方式」は世界初で画期的だと思いますが、今後、我が国の建設予定のダムでこの方式が採用されるダムはあるのでしょうか?

A.現時点で、他のダムでこの「側水路減勢方式」が採用されるとは聞いていません。横瀬川ダムはまさにダム直下において減勢工を設置できる状況になかったこと、ダムからの最大放流量が75m3/sとそれほど多くなく、側水路に与える放流水の衝撃・影響も小さいことから、この方式が採用されたものです。
したがって、かなり特殊な条件下でのダムにおいて採用される方式ではあるとは思いますが、減勢工を設置できるスペースがない箇所でもダムの整備を可能とする極めて先進的な方策であることは間違いないと思います。
なお、横瀬川ダムではダム直下の減勢工が不要になったことから仮排水トンネルの長さを短くすることができ、これにより一般的な減勢工を設置する場合に比べコスト縮減を図ることができています。

最後に、渡川ダム統合管理事務所の三宅事務所長に、抱負や建設技術者へのメッセージをお聞きしました。

Q.今年4月に中筋川総合開発工事事務所から渡川ダム統合管理事務所へ名称が変わって初めての事務所長ということですが、抱負をお聞かせください。
写真8)三宅事務所長さん 写真8)三宅事務所長さん

A.既設の中筋川ダムと新しい横瀬川ダムを統合的に管理するために新しい事務所に生まれ変わりました。6月に横瀬川ダムが管理に入り、中筋川ダムと横瀬川ダムが相まって洪水調節を行い、中筋川・横瀬川の洪水被害を軽減するとともに、四万十市や宿毛市などにかんがい用水や水道用水、工業用水など必要な水の供給を行っていきます。
特に、近年、水害が激甚化する中で、地域の安全・安心のためにダム管理に全力を挙げたいと考えています。なお、特別警報級とされた今年9月の台風10号においては、横瀬川ダム流域の総雨量は140mmとそれほど多くなく、ダム洪水貯留容量380万m3の23%にあたる87万m3の洪水貯留を行うだけで済みました。

また、2つのダムを活用した地域振興及び防災教育の地域活動に関する調整などを目的とした「ダム利活用調整協議会」を昨年度に設立し、具体的な活動の検討及び実施、支援する地元活動組織として「ダム活元気ネットワーク」も設立しており、一緒になって地域の活性化等の為に力を尽くしていきたいと考えています。
昨年度は、「蛍湖まつり」、「横瀬川アクティブイベント」が開催されており、また今年も、中筋川ダム上流に位置する三原村の地場産品である「どぶろく」を、年間通じて気温が11~12℃とほぼ一定である中筋川ダムの内部で貯蔵し、「中筋川ダム貯蔵」のラベルを付けて販売予定です。さらに日本初となるダム壁面を利用したクライミングが横瀬川ダムで体験できます。みなさん、チャレンジしに来ていただけたらと思います。

写真9)「中筋川ダム貯蔵」のラベルをつけた「どぶろく」 写真9)「中筋川ダム貯蔵」のラベルをつけた「どぶろく」
写真10)ダム壁面におけるロッククライミング
写真10)ダム壁面におけるロッククライミング
写真10)ダム壁面におけるロッククライミング
Q.建設技術者が不足しているといわれる昨今ですが、経済・産業の基盤となるインフラの整備・管理に一生懸命取り組んでいる、建設技術者の方へのメッセージをお願いします。

A.インフラの整備・管理は非常に重要で、これからも確実に推進していくには、若い建設技術者が増えてもらわないといけないと感じています。そのためには、少しでも魅力ある業種・業界に変えていく必要があり、特に生産性の向上や職場環境の改善がとても重要だと考えています。インフラの整備等はとてもやりがいのある仕事であり、建設技術者の方々と力を合わせて地域の安全・安心、発展のために推進していきたいと思います。

おわりに

今回伺った横瀬川ダムは、高知市からも列車で2時間以上を必要とする高知県宿毛市に位置しています。清流四万十川の本川にはダムはありませんが、支川の中筋川において、環境や景観に配慮したダムが設置され、洪水被害の軽減などの役割を果たしていることを知りました。

中筋川ダムの周辺では5月から6月にホタルの乱舞が見られ、そういう自然環境が保たれることに願いを込めて、ダム湖の愛称は「蛍湖」と命名されたとのことです。

横瀬川ダムのダム湖についても、地域の皆様に親しみを持っていただけるダムを目指して、8月25日にダム湖の愛称の募集が始められました(応募締切 9月30日)。素敵な名前が命名されればよいですね。

ちなみに、渡川ダム統合管理事務所では、堤体側水路からの越流動画をTwitterにて配信中ですので、ぜひ一度ご覧ください。

https://twitter.com/mlit_watarigawa

また横瀬川ダム、中筋川ダムでは、ダムカードが配布されています(※)。皆さん、ぜひ足をお運びいただき、世界初「側水路減勢方式」を生で見ていただくとともに、記念にダムカードをいただいてきませんか?

9月29日現在ダムカードの配布は休止になっています。11月1日より配布が再開される予定です。

写真11)横瀬川ダム・ダムカード 写真11)横瀬川ダム・ダムカード
写真12)中筋川ダム・ダムカード 写真12)中筋川ダム・ダムカード

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