2020/03/30
今回から「現場探訪」に新しいジャンル「現場探訪/ICTの現場」がスタートします。今や多くの現場で推進されている「i-Construction」。中でも「ICT」を活用した施工は、首都圏の大規模工事だけでなく、地方の建設現場でも数多く実施されています。コンコムでは、積極的に「ICT」の活用を進めている建設会社を取材し、「ICT」活用のメリットはもちろん、活用上の課題等、これから「ICT」の導入を進めていく上で役立つヒントを紹介していきます。
第一回となる現場は、「ICTフル活用工事」で平成30年度国土交通省関東地方整備局の局長表彰を受けた「渋川西バイパス入沢他改良その1工事」。この工事を受注された沼田土建株式会社にて、当工事の監理技術者(現場代理人)・佐藤賢一さんに工事の概要と「ICT」活用のメリットや課題についてお話しを聞きました。また、当工事は、令和元年12月に発表された国土交通省「i-Construction大賞」で優秀賞も受賞しました。沼田土建さんでは、「ICT」の導入、「i-Construction」の推進へ向けて、専門の部署を立ち上げ、全社一丸となって取り組んでいるそうです。今回は、その推進の中心となった企画室室長・吉田美由紀さんにも、その取り組みについてお聞きしました。
工事概要 | 道路改良工事(道路土工・法面工・擁壁工等) |
---|---|
発注者 | 国土交通省関東地方整備局 高崎河川国道事務所 |
工期 | 平成30年4月23日~平成31年3月29日 |
受注者 | 沼田土建 株式会社 |
施工場所 | 群馬県渋川市渋川地先 |
請負金額 | 188,244,000円(税込) |
監理技術者・現場代理人 | 佐藤 賢一 |
当工事は、国土交通省高崎河川国道事務所が進めている「国道17号渋川西バイパス」整備工事(延長約5.0km)のうち、バイパス区間となる延長約1.9kmの起点となる400mの道路改良工事です。道路土工・掘削20,000m3、法面整形工4,000m2、その他、側道排水構造物、擁壁工、舗装工等を行いました。
土工事に係る大部分についてICTを活用しました。具体的にはレーザースキャナによる起工測量から始まり、3D設計データ作成、ICT建機による現場施工、施工管理、3Dデータによる出来形管理まで、ほぼ全てのプロセスにおいてICTを活用する、いわゆる『ICTフル活用工事』で対応しました。
どのプロセスにおいても、メリットとして挙げられるのが『工期短縮』 と『省力化』です。各プロセスの効果やメリットは概ね以下の通りです。
従来は、トランシットやレベルを使って起工測量を行っていましたが、当現場では、3Dレーザースキャナによる3次元測量を行い、従来なら3人で6日かかるところ、1人で2日という短期間で完了できました。また、ここで得られたデータは、その後の3次元設計データの作成等にも活用しました。
平均断面法を用いた土量計算ではなく、3次元測量と3次元設計データに基づいた土量計算を行い、より精度の高い土量を瞬時に把握することができました。また、「現場を4分割して施工する」という計画が、3次元で「見える化」され、現場全体での情報共有が容易になりました。
3次元設計データに基づいてICT建機を自動制御することにより、法面整形での丁張作業が不要となり、作業時間が大幅に短縮されました。同時に、作業員の安全性も向上しました。法面整形では、通常の建機を操作するベテランとICT建機を操作する若手と比較して、作業量にほとんど違いはありませんでした。
今回の工事では、発注者側にもメリットがあったと思います。3次元データを使った検査・納品を行うことで、従来の巻尺等を使用した測点管理から面的管理による検査が可能となり、出来形管理に要する時間が短縮される他、計測したデータを帳票にも反映できるため、書類も簡素化されます。これによって、検査準備にかかる時間は従来の3分の1、検査時間も約半分で済みました。
3Dレーザースキャナ | 測量 | 協力会社所有(※) |
---|---|---|
3DMCバックホウ | 土工事 | レンタル |
レイアウトナビゲーター | 土工事 | レンタル(※) |
モバイル測量 | 丁張・出来形管理 | 自社所有 |
(※)現在は自社で所有
3D点群処理ソフト | データ作成 | 自社所有 |
---|---|---|
3次元設計・施工データ作成ソフト | データ作成 | 自社所有 |
点群データ処理ソフト | データ作成 | 自社所有 |
出来形管理・電子納品支援システム | 完了検査 | 自社所有 |
ペイロードメータ | 過積載対策 | メーカーサービス活用 |
トラックビジョン | 過積載対策 | メーカーサービス活用 |
これまでも、部分的には「ICT」を活用してきましたので、不安はありませんでした。ちょうど、全社的に「i-Construction」を推進していこうという機運が高まり、推進を専門的に担当する「企画室」が出来たことも心強いサポートになりました。
「ICT」のハードやソフトはどんどん進化していると思います。しかし、これは今回の工事に限ったことではないですが、機械やシステムはいつも完璧ではないということは、念頭に置いておかなければならないと考えています。例えば、「GNSS」を利用した測量では、衛星の位置の関係で、データが正しく受信できない時間もあります。また、施工場所が山間部であれば、受信状態が不安定となり、データに誤差が生じるケースもあります。今回の法面工事では、作業中は丁張設置をしませんでしたが、整形後には、万全を期すため、出来形を確認しました。
これからも「ICT」は進化して、私たちの作業も効率化されていくと思いますが、やはり『最後は人』という意識は忘れてはならないと思います。
また、「ICT」の導入によって、メリットが得られるかどうかの判断も大事になると思っています。例えば、法面整形などは、もっとも手軽な「ICT土工」だと思いますが、どのくらいの距離を整形するのかによって、逆に「ICT化」が非効率になることも考えられます。業界全体に、「ICT=良」のイメージが確立されつつありますが、現場を管理する者としては、この工事で何が最良かの判断も求められるようになると思います。
昔は親方の技術を盗み取れと言われていましたが、今は新しいツールを積極的に取り入れて、自社の技術として吸収していくことが大切です。建設に関わる技術の中でも特に測量分野が大きく進歩していて、作業が大幅に省力化されています。ただし、機械に頼りすぎると大きな間違いを起こすことがあり、確認作業は欠かせません。若い人たちには、測量の基本を理解した上で新技術習得にチャレンジしてもらいたいです。
会社として初めて取り組んだ「ICTフル活用工事」で、整備局局長表彰と国土交通省「i-Construction大賞」優秀賞を受賞するという快挙を達成した沼田土建さんですが、この快挙の陰に、「ICT」活用のために創設された専門部署の活躍がありました。全社一丸となった「i-Construction」へのチャレンジを担当した企画室・吉田美由紀室長に、設立の経緯と活動について聞きました。
「企画室」の設立は平成30年1月です。国土交通省をはじめ、建設現場で「ICT」の活用が進められている現状を見聞きしていたこと、また社内でも、「i-Construction」の重要性を考える声が上がっていたことも相まって、チャレンジするなら、全社一丸となって取り組もう、そのために専門の部署を作ろうということになりました。
もともと私は社長秘書的な業務がほとんどで、現場の施工経験もありませんでしたから、社長から、専門部署の責任者としてやって欲しいと言われた時は戸惑いました。そんな状況の中、最初に行ったのが、従業員の高齢化や担い手不足、長時間労働といった、弊社の抱えている課題の整理でした。その課題を克服するために、「i-Construction」への取り組みを中心に据えました。「i-Construction」を具体的に進めていく上で、最初のハードルとなったのが、「3次元測量器」や「点群データを処理するソフト」、「高性能パソコン」といった社内インフラの整備でした。これらの機器導入には、相当なコストがかかります。そこで中小企業庁等が行っている「ものづくり補助金」制度を活用しようと考えました。この申請には、綿密な事業のビジョンが求められます。この申請書類の作成を通じて、実際に機器を導入してどんなメリットがあるのか、技術を社内展開するための研修はどうするのかといった課題が明確になり、結果として「i-Construction」推進に向けてやるべきこともはっきりしました。
「i-Construction」の先にある目的、「生産性向上」「働き方改革」を実現するためには、一部の社員だけが新技術を習得するのではなく、全社一丸で進めていくことが大切だと考えました。そこで第一のポイントと考えたのが社員教育です。
機器の取り扱いやデータ処理の仕方、どんなことができるのか、どんなメリットがありそうか、といった研修を希望者全員に行いました。また、自社保有地に100m3程度の砕石を用意して、体験型の社内研修も実施しました。この研修で、ICT土工の一連の流れを学ぶことができました。トータル7日間の研修で、のべ83人が参加したことで、全社に「i-Construction」推進のムードが高まったと思います。
次に大切なポイントと考えたのが、現場担当者の業務をサポートするための後方支援体制の強化です。「i-Construction」の推進で、現場担当者だけに負担を強いるのでは本来の目的達成につながりません。現場担当者が日々抱えている業務量を軽減し、もっと働きやすい職場を作るために、企画室として支援できることはないかを考えました。併せて、せっかく女性室長として企画室を立ち上げたので、企画室を女性活躍の場にしたいとも思いました。企画室立ち上げの半年後には、女性社員が入社し、今では「3次元測量」「点群データ生成・処理」といった現場仕事も担当しています。「i-Construction」が女性活躍の場を広げてくれたと思っています。
最後に、現在、3次元測量等を担当している企画室・林 直子さんに、入社の経緯や未経験での現場作業の苦労、今後の目標について聞きました。
もともと、新卒で沼田土建の総務部に入社し、約15年前に結婚退職しました。子育ても一段落し、フルタイムでの再就職を考えていた時期に、会社から声をかけていただきました。15年も離れていますし、また、現場仕事かつ最新の機器操作という業務内容を聞いてビックリ。現場仕事ができるだろうか、もっと若い人を採用した方が良いのではないかと、あまり前向きな考えは浮かびませんでした。しかし、会社の雰囲気とか、建設業のやりがいといったものはわかっていましたので、チャレンジしてみることに決めました。その間、何度も何度も吉田室長から説得されましたけど(笑)。
社内のICT土工研修の他に、ソフト会社の指導を受けました。それ以降は実際の現場で試行錯誤しながら経験を積んでいる段階です。
現場は常に動いていますので、今日の測量をやり直すことができません。その都度、一発勝負の気持ちで集中しなければならないと考えています。また、起工測量で得たデータは、完成までさまざまな基礎データとして使用されますので、工事終了まで、その工事の一員として携わるやりがいを感じています。
「ICT」の活用で、経験が浅くても、女性でも、現場の戦力になることができると思います。またそうした新しい技術で、ベテランの技術者と協力できれば、性別や経験の差を問題にしない現場がつくられていくのではないでしょうか。 自身の目標としては、現在任されている業務の精度を上げることと、「BIM」や「CIM」といった新しい取り組みにも積極的にチャレンジしていきたいと思っています。
国土交通省が「i-Construction」を打ち出して5年が経過しました。確実に普及が進んでいる中、今回の沼田土建さんのように、地方の建設会社が「ICTフル活用」にチャレンジするケースも増えてきました。地域のインフラ整備を担う建設会社において、「ICT」の導入で、独自の「生産性革命」「働き方改革」を推進する取り組みも、今後ますます増えてくると思います。コンコム「現場探訪/ICTの現場」では、地域の建設会社の「ICT」活用の成功事例と課題について紹介していきたいと考えています。
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