2020/11/30
地方の建設会社の取り組みを紹介している「現場探訪/ICTの現場」。今回は視点を変えて、現場の事例ではなく、国土交通省中部地方整備局が地域の「i-Construction」を推進するために行っているサポートについて紹介します。国土交通省の調査では、平成28年度から令和元年度までの直轄工事を受注しているCランクの企業における「ICT施工経験割合(一般土木工事)」は全国平均で約51%。一方、中部地方整備局の5県(長野・岐阜・静岡・愛知・三重)の経験割合は平均69%と全国平均を20ポイント近く上回っています。建設現場での「ICT化」が進む中で、ひと際高い普及を実現している中部地方整備局。その独自の取り組みは、中部地域の企業はもちろん、他の地域の建設会社にとっても参考になると思います。ぜひご一読ください。
中部地方整備局におけるICT普及へ向けた取り組みは、平成20年度の「建設ICT導入研究会(後に建設ICT導入普及研究会)」の設立に遡ります。国土交通省が「生産性革命元年」と位置付け、i-Constructionの推進をスタートしたのが平成28年度ですので、かなり早くからICTの導入普及へ向けて検討・研究を始めていたことが分かります。「建設ICT導入普及研究会」は、中部地方整備局が運営の主体となり、建設プロセスにおいてICT施工を活用し、効率化・高度化によって生産性向上・行政サービス向上・現場技術力強化を図ってきましたが、平成29年度からは特徴的な取り組みである『ICTアドバイザー』登録制度を創設し、産学官の関係者が一体となって技術普及・現場支援・技術研究に取り組んできました。
令和2年度には、さらなる推進のために産学官の組織を再編し、「中部i-Construction研究会」を設立。中部地方整備局が主体となって運営をしてきた「建設ICT導入普及研究会」と異なり、豊富な経験と知識を持った『ICTアドバイザー』が中心になって運営を行うようになったことが最大の特徴です。
中部地方整備局の5県でのICT施工経験割合が全国平均を大きく上回っている要因のひとつが、この『ICTアドバイザー』登録制度だと言えるかもしれません。
『ICTアドバイザー』登録制度の目的は、発注者(地方自治体や特殊法人等含む)および受注者である地元建設会社等が、ICT施工の先駆者である『ICTアドバイザー』から、自主的に技術習得や能力向上へのアドバイスが受けられる仕組みをつくり、中部地方のさらなる建設生産性の向上を図ることとされています。図2からも分かる通り、この制度のスタート以降、中部地方整備局の5県での一般土木CランクのICT(土工)の普及率が伸びてきていることがわかります。
この制度が結果を出した要因は、ICT施工の裾野を広げるための研修会や講習会も、参加者と立場の近い民間企業のアドバイザーが講師として参加することで、ICT施工未経験の企業にとっても、自主的に参加しやすい雰囲気ができたことは容易に想像できます。現在、他の地方整備局においても、「ICT経験者による講師制度」を導入したり、「i-Construction」推進のための部門等を設置している地域もあり、同様の成果が期待されています。
「中部i-Construction研究会」の運営を中心的に行っている『ICTアドバイザー』とは、いったいどんな方々なのでしょうか。『ICTアドバイザー』登録制度がスタートした当初は、ICT施工の経験を重視し、主に施工現場で活躍する建設技術者の方で構成され、ICTの裾野の拡大を担ってきました。令和2年度には、登録要領が改訂され、施工経験だけでなく、ICT重機のメーカーやソフトの開発会社の営業担当者等、ICTの推進につながる専門分野のエキスパートにも要件を拡大し、83名(愛知28・静岡18・岐阜23・三重9・長野5)の『ICTアドバイザー』が登録されました。
『ICTアドバイザー』の主な活動は、これからICT施工に取り組む建設会社や経験の浅い建設会社に対して、現場経験者の立場からアドバイスを行うことです。例えば、「ドローンでデータを取得して3次元設計データを内製したいけど、経験が無いのでアドバイスが欲しい。」といった要望があれば、ドローンの効率的な操作方法や点群処理、3次元ソフトの扱いに慣れたアドバイザーにサポートを依頼することができます。『ICTアドバイザー』は、所属会社や施工経験、得意分野、PRポイント等が公開されていますので、活用したい側がその要望内容やレベルに合わせて依頼することが可能です。しかも、こうしたアドバイスやサポート活動は、中部地方整備局の管轄エリアであれば、移動距離が長い場合等の特別なケース以外はすべて無償とのこと。『ICTアドバイザー』の方々も、地域のICTをもっと普及させたいという思いで活動しているそうです。
『ICTアドバイザー』は、以下の4つの部会に所属して活動を行っています。
「i-Construction」に関する建設現場における課題や疑問の情報収集、アイデアや解決策など未熟な技術者との交流支援に取り組んでいます。
「i-Construction」に関する施工計画書の記載例やノウハウなど、建設現場での活用に際しての技術的な支援および情報提供に取り組んでいます。
各部会では、現場で直面する課題に対応し、効率的で新たな技術を取り入れた施工現場を拡大するため、受発注者相互の共通認識のもと、円滑な施工につなげる事を目的に「ICT活用工事ガイドブック(案)」の取りまとめを行っています。
「ICT活用工事ガイドブック(案)」には、導入の際に必要となる基準や要領の紹介からICT施工の流れ、施工計画書の記載例といった基本的な情報が掲載されています。また「FAQ」も実際に『ICTアドバイザー』自身が経験の浅い時に直面した疑問を基に作成され、まさに実践的な内容になっています。さらに、起工測量時の留意事項やUAVとTLSの使い分け方、3次元設計データ作成時の留意事項等のノウハウ集、通常の土工事以外のICT活用事例の紹介等、ICTの導入を検討している建設会社だけでなく、さらなるレベルアップをめざしている建設会社にとっても参考になる資料も掲載されています。
このガイドブックはインターネットで公開されていますので、中部地方整備局エリア以外の方でも自由に閲覧可能。ぜひ一度アクセスしてください。
中部地方整備局内のICT施工の普及推進を総括している「i-Construction中部ブロック推進本部」には、活動をサポートする「i-Construction中部サポートセンター」が設置されています。「中部i-Construction研究会」の運営の中心となっている各部会との協働はもちろん、産・官・学との連携の橋渡しも行っています。
現在「i-Construction中部サポートセンター」のセンター長を兼任する中部地方整備局企画部の森 隆好総括技術検査官、「中部i-Construction研究会」の事務局も務める同企画部の竹原 雅文建設専門官に『ICTアドバイザー』の効果やセンターの今後の活動等についてお聞きしました。
中部地方整備局管内で一般土木Cランク工事受注者の約70%の企業がICT土工を経験していることは、大きな成果だと思っています。特に、『ICTアドバイザー』の方々は、中部地方整備局管内でICT施工が普及しないと、建設業界の未来に希望がなくなる」といった使命感を持って無報酬で運営にあたっていただいていますので、本当に頭の下がる思いです。しかし、ここへきて新規経験企業の増加傾向が鈍化していることは事務局として頭を悩ましている点でもあります。ICT施工の未経験企業の多くは、地方自治体が発注する小規模な工事の受注が多いと思われるため、初期投資のかかるICT施工に踏み出せないでいると考えています。そういった企業にもICT施工によるメリットを理解していただけるよう、FAQ部会作成のFAQ集によって、いまさら聞けない疑問点を解消してもらう。多様化部会作成の多様な活用事例によって小規模工事での生産性向上の例を示していく等、これまで以上にきめ細かなアプローチにチャレンジしています。
写真2)森 隆好 中部サポートセンター長
また、現場にICT施工が普及していく中、発注者側の職員にも、知識はもちろん現場での研修が必要だと感じています。『ICTアドバイザー』の協力のもと、私たち発注者への研修も適宜実施しています。地方自治体の技術職員に対しても広く声がけし、研修に参加し知識・経験を積んだ方には、行政の『ICTアドバイザー』として活躍していただきたいと考えています。
写真3)竹原 雅文 建設専門官
「令和5年度までに小規模を除く全ての公共工事についてBIM/CIMを活用」と言う方針が示されています。そこで、本年度は『ICTアドバイザー』に、BIM/CIM活用における課題を抽出して頂く予定です。例えば、BIM/CIM成果として作成された3Dモデル(データ)をICT建機へダイレクトに入力するための課題抽出等や、維持管理段階での3Dモデル(データ)の活用方法など、経験豊富な『ICTアドバイザー』だからこそより具体的な課題が出てくるはずです。次年度以降にその解決案を検討し、令和5年度から適用工事での運用がスムーズに進むようにしたいと考えています。
その先には5G・AI・クラウドを3本柱としたインフラDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進もありますので、まだまだ立ち止まる余裕はないというのが本音です。こちらについても他の整備局に先駆けて成果を上げたいと考えています。
今回、令和2年度に登録された『ICTアドバイザー』の皆さんにお話しを聞く機会をいただきました。アドバイザーとしての思いや苦労について、生の声を一部紹介します。
『ICTアドバイザー』登録制度を早くから運用している中部地方整備局の取り組みは、令和5年度からの小規模工事を除く公共工事におけるBIM/CIM原則適用化に向けても、多方面より注目をされているそうです。ICTの現場が広がり、各企業が経験と知識を蓄積するなか、それらを共有し情報交換できることは、大きな強みであると思います。
また今回、『ICTアドバイザー』の皆さんが熱心に議論をする場を拝見し、実際にお話を聞く中で、ICT(技術)はあくまでも手段であり、最終的には人の意識や繋がりが大事なことだと考えさせられました。
今後の、「i-Construction中部サポートセンター」と『ICTアドバイザー』の皆さんのご活躍を祈念しています。
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