2023/05/08
2024年4月から、いよいよ建設業でも「罰則付き時間外労働の上限規制」が施行されます。
5年間の猶予期間があったものの、残り一年となった今も、建設業とりわけ技術者の時間外労働は依然として法令違反となる可能性が高いのが現状ではないでしょうか。
コンコムでは、2024年4月の施行へ向けて、建設業の時間外労働の実態から、なぜ取り組まなければならないのか、どのように時間外労働を削減したらよいのか等、具体的な事例も交えて紹介するコンテンツ「時間外労働上限規制へのカウンドダウン」を連載します。
建設業の労務管理や働き方改革の実践に明るい社会保険労務士、櫻井好美さんによる全11回の連載です。ぜひ参考にしてください。
現在、日本は生産年齢人口(15歳から64歳)の減少と同時に急激な高齢化のため労働力が不足しています。この労働力を補うためには、非正規雇用の不合理な待遇差をなくして働き手を増やすこと、育児等で仕事から離れてしまっている人達を労働力として迎えるための多様な働き方を導入していくこと、そして現在の働き方を見直し、生産性をあげていくことが必要なのです。さらに少子高齢化の大きな問題として2025年問題があげられます。これは「団塊の世代」の人達が75歳を迎え超高齢化社会が加速をし、これにより働き盛りの団塊ジュニア世代が介護に関わる確率が非常に高くなるということがあげられます。つまり、従来のような長時間労働にたよる働き方をすることが出来ず、誰もが時間制限のある中での働き方の実現をしていかなくてはならないのです。「働き方改革」というと労働時間削減のための労働法の改正と捉えられがちですが、そんな単純なことではなく、今後は限られた労働力で一定以上の成果をだしていく、いわゆる生産性をあげることが求められているのです。「働き方改革」がスタートして数年が経ちますが、改めて、今までの延長ではなく、新しい働き方を模索していかなくてはいけない時代に突入していることを認識していきましょう。今回の1番のメインテーマである「労働時間の削減」は、単純に効率化を進めることだけではなく、その業務が必要かどうか?といった根本的なことから考えていかないと成功しません。建設業における時間外労働の上限規制まであと1年を切りました。自分自身の働き方を見直すチャンスの時期と捉えて、頑張っていきましょう。
「働き方改革=残業規制」と思われがちですが、「働き方改革関連法」については、労働時間削減以外にも実施していかなくてはいけないことがあります。今回は働き方改革の全体的なスケジュールを確認していきましょう。
①年次有給休暇の年5日取得義務
2019年4月より、年10日以上の有給休暇が付与される者に対しては、年5日の年次有給休暇を取得させることが使用者の義務となりました。
本来有給休暇は自分の好きな時期に取得するものです。しかしながら、5日間の取得ができない場合は会社が時期を指定してでも取得させなくてはならず、対応できなかった会社には罰則があります。有給休暇の取得率の高い会社では問題がないのですが、有給休暇の取得率が低い会社、日給の作業員を抱えている会社、現場の管理が属人的になっているこの建設業界では、ハードルが高い問題かもしれません。有給休暇の取得ができるよう、業務の標準化、見える化というのも検討していく必要があります。
②労働時間の状況把握の実効性確保
労働者の労働時間の状況を把握することが、労働安全衛生法上での使用者の義務になりました。労働時間の把握は時間外労働の支払いについてもちろん必要なことですが、長時間労働が労働者の健康に及ぼす影響が大きいということから、労働安全衛生法で義務づけられました。これは、残業代の対象にならない管理監督者についても同様です。長時間労働の是正の前に、どれくらいの時間外労働があるのかを適正に把握することが重要です。
③同一労働同一賃金
同一企業内の正社員と非正規社員(パートタイム労働者、契約社員等)との間で、給与、賞与、各種手当といった賃金に関すること、また福利厚生や教育訓練等のあらゆる待遇について「不合理」な待遇差が禁止されることになりました。大企業は2020年4月1日から、中小企業は2021年4月1日から施行されています。同じ業務をしているにも関わらず「パートだから」といった理由で賃金等の格差があるようでは、労働力の確保は厳しくなります。今後多様な働き方を導入していく上では、同一労働同一賃金の整備は必須です。
④時間外労働の上限規制
時間外労働の上限規制とは、残業時間についての上限が決められることです。もともと建設業においては時間外労働の適用除外業種とされていたため、36協定を結んでいれば、その範囲の中では何時間でも残業ができたのが、2024年の4月からは建設業においても上限が規制されることになりました。いわゆる「建設業の2024年問題」です。建設業の場合、工期の問題、重層下請構造の問題からいって、自社の努力だけで解決するのは非常に難しい問題ですが、労働基準法においてはそれぞれの企業単位で考えるため、自社でできる取組みを考えていかなくてはいけない状況にきているのです。上限規制については次回以降詳しく説明していきます。
働き方改革は、単なる労働法の改正ではなく、生産性を向上させることです。「無理だ」ではなく、どうしたら出来るかを一緒に考えていきましょう。労働時間削減は会社の風土をかえるようなことです。1つ1つの小さな変化が必ず大きな変化になっていきます。
連載一覧はこちら
第一回『なぜ時間外労働の削減に取り組まなければいけないのか?』
第二回『時間外労働の上限規制って何?』
第三回『労働時間の管理と監督者の役割』
第四回『労働時間削減のために(1)』
第五回『労働時間削減のために(2)』
第六回『効率化のためにできること』
第七回『他業種との比較』
第八回『教育の重要性』
第九回『働き方改革について』
第十回『魅力ある建設業へ』
第十一回『まとめ』
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