2024/03/01
罰則付き時間外労働の上限規制が適用されるまで、あとわずかとなりました。今回は最終回となりますが、準備はいかがでしょうか?「準備はOK!」という方もいれば、まだまだ不安だと思われている方もいらっしゃるかと思います。ただ、これまでも解説してきましたが、働き方改革は労働環境改善といったインフラを整える作業の一部なのです。上限規制をクリアすることはゴールではなく、これからの持続可能な建設業の労働環境づくりの第一歩と考えていきましょう。
2019年4月からスタートした働き方改革ですが、改めて対応出来ているか確認をしていきましょう。
☑ 有給休暇は、年5日は取得できている
☑ 時間の記録は、アプリやタイムカード等の客観的な方法で記録をしている
☑ 管理監督者も時間の記録はしている
☑ 1ヶ月の残業時間は45時間以内で収まっている
YES → OK
NO 上限規制適用の特別条項内でおさまっている → あと少し
上限規制適用の特別条項内にはおさまっていない → 緊急!!
★すべてチェックはつきましたか?
上限規制への対応が出来ていない会社は1日も早い取組を!!
建設業の場合、工期の問題もあり自社だけの努力ではどうにもならないことがあります。しかしなから労働基準法は事業所単位で適用されます。「工期が迫っているからやむを得ない」というのは、残業の理由にはならないのです。工期等のやむを得ない事情に対応するために特別条項があるのですが建設業の場合、「工期ありき」の組立てであるため、残業時間も含めた労働時間の設定になってしまっているのです。
そもそも忘れてはいけないのは、法律では1日8時間1週40時間という時間が決まっており、これを超えて働いてはいけないというのが大原則です。その中でも、やはりイレギュラーな場合があるため、労使で相談をして残業時間の上限を決める36協定があるのです。私が建設業のお客様と話をしていて違和感を覚えることは、そもそも残業ありきで考えており、どうやって特別条項の中でおさめようか?という発想になっていることです。特別条項の中でおさめるのではなく、原則の1ケ月45時間内におさえる、そして次のステップでは残業がないことを目標にしていかなくてはなりません。残業が常態化している状況で、若い人の入職はないのです。
STEP1 上限規制をクリアする(※)
STEP2 月の残業は45時間以内を目指す(特別条項に頼らない働き方)
STEP3 残業のない働き方を目指す(1日8時間1週40時間におさめる働き方)
STEP4 今までの利益を確保しながら、休日を増やす働き方を目指す
※時間外労働の上限規制とは?
残業の上限は、原則として月45時間・年360時間とし、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることはできません。
□時間外労働年720時間まで
□時間外労働月45時間超は年6回まで
□時間外労働+休日労働 複数月80時間以内
□時間外労働+休日労働 月100時間未満
(厚生労働省 働き方改革特設サイトより)
時間外労働の削減のためには、業務の効率化は必須です。しかしなからすべての業務を効率化する前に、「やるべきこと」と「やらなくていいこと」を決めていきましょう。
新しいシステムを導入したにもかかわらず、なんとなく不安で今までのやり方も継続しているのであれば、どちらか一方に統一しましょう。どちらかを辞めるという選択をしなければ益々業務は増える一方です。まずは社内の業務で本当に必要なものとそうでないものをわけていきましょう。「今までやっていたから」という理由でなく、その業務は本当に必要なのか?その業務がなくても成立するのか?1つ1つの業務の洗い出しをし、「辞める」という決断をしていきましょう。「辞める」という決断は本当に難しいかと思いますが、時間外労働の削減には重要であり、そこから、本当にやるべきことを徹底的に効率化していかなくてはいけないのです。何度もいいますが、働き方改革は「早帰り運動」ではなく「生産性をあげていく」のだということを忘れずにいきましょう。
以前ICTを積極的に活用している会社の方にお会いしました。その時のお話で印象的だったのは、トライアンドエラーを繰り返しているというお話でした。効率化や分業化が進むと、確かに業務のスピードは各段に早くなりました。そして「ICT推進室」を立ち上げたことが、若年層に魅力的に見えたのか、入職者も増えました。ただ、ベテラン社員にとっては、分業化を進めてきたことで、全体像がわからない人が増えてしまったという不安な部分もでてきました。また、小さな現場ではICTの利用がかえって手間のかかることがあることもわかってきました。何事もやってみないとわからないため、まずは一歩を踏み出したことで、他の検討事項がでてきたのです。この会社の素晴らしさは「トライアンドエラー」を重ねても許される風土があったということなのです。こうした風土がないと新しい意見も出てきません。働き方改革に画期的な方法もなければ、特効薬もありません。労働時間の考え方は仕事に対する考え方ですし、その会社の風土でもあるからです。そしてどれが正解ということではないのです。100社あれば100社の考え方があっていいのです。スピードの速い時代では、まずはやってみる、そして検証を繰り返していくことが重要です。継続するかしないかも「決断」なのです。
前回、「働き方改革」は労働環境改善の絶好のチャンスです。とお伝えしました。というのは、法律の改正といった強制されるものがなければ、日常の働き方を見直すのは難しいからです。
令和6年4月からは、建設業にも罰則付き時間外労働の上限規制が適用されますが、働き方改革いわゆる法改正に対応することは、ゴールではありません。今まで、時間に対する意識が低かった建設業にとって、時間を意識した働き方に目を向ける最初の一歩なのです。建設業における最終的な目的は担い手確保です。企業にとっては、事業を通して社会貢献し、利益を従業員へ還元していくことが社会的使命なのです。そのためには、「出来ない」ではなく、やらなくては淘汰されてしまうということを理解しなくてはいけません。今までのやり方を変えるには、さらなる工夫が必要です。各社が魅力的になっていくことで、建設業全体が輝いていきます。小さな一歩で構わないのです。身の周りの書類の整理方法を標準化することであっても、労働時間削減の第一歩です。他人事と捉えず、身の回りの小さな改善から始めていきましょう!
連載一覧はこちら
第一回『なぜ時間外労働の削減に取り組まなければいけないのか?』
第二回『時間外労働の上限規制って何?』
第三回『労働時間の管理と監督者の役割』
第四回『労働時間削減のために(1)』
第五回『労働時間削減のために(2)』
第六回『効率化のためにできること』
第七回『他業種との比較』
第八回『教育の重要性』
第九回『働き方改革について』
第十回『魅力ある建設業へ』
第十一回『まとめ』
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