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2023/09/01

【建設業の働き方改革~第五回】労働時間削減のために(2)

1.労働時間削減

労働時間の削減のために、今の業務を全くかえずに声かけだけでは多少の効果はあるかもしれませんが抜本的な改善は見込めません。人間の能力が突然2倍速とか3倍速にはならないのです。労働時間削減のためには時間に対する意識と行動を変えていかなくてはなりません。小さな行動の積み重ねが習慣となってきます。まずは出来ることからはじめていきましょう。

2.時間外労働削減のためにできること

(1)労働時間の目標を決める
まずは終了予定時間の目標をたて、その時間内で業務の組立てをしてみましょう。「やることがたくさんあるから無理だよ」という感覚から「この時間内でやるにはどうしたらいいのだろう」という発想の転換です。夜、飲み会の予定が入っていればきちんと時間で仕事を終える段取りをするはずです。残業ありきの時間の組立てではなく、どうしたら時間内で終わるのかを組立ててみてください。限られた時間の中で組立てをすることで、この業務はムダじゃないかな?この業務はもう少しITを活用すれば効率的にできるんじゃないのかな?と考えることができるはずです。そして仕事には終わりがありません。優先順位を考えて業務を行う必要があります。

(2)1年を通しての残業時間の見積り
令和6年度から「罰則付き時間外労働の上限規制」がはじまります。建設業は工期のある仕事であるため、業務にも波があります。正確な時期はわからなくても、1年間でどのあたりに仕事の波がくるのかを予測しておくことも大切です。間違いなく、時期的に重なりそうであれば、その前後で調整をかけられないか?ということを可視化しておくことが大事です。1日、1ケ月はもちろん重要ですが、1年というスパンを通じての可視化もしておきましょう。

1年を通しての残業時間の見積り

(3)集中タイム
日常の業務の中で、電話への対応、各部門から問い合わせ、突発的な会議等、予定通りに進められないことがたくさんあります。当然仕事ですから対応しなくてはいけません。
ただ、重要な書類の作成や少しだけでも集中すれば効率よく仕事を終えることができるというのであれば「集中タイム」を作ることをおすすめします。この一定の時間(1時間~2時間程度)だけは、電話も受けず、他の問い合わせには対応しないで自分の業務にだけ集中することができる時間です。チームで一斉にやるわけにはいきませんので、例えば集中できる会議室に入ったときは、声をかけてはいけないとか、席に「集中タイム」といったカードを立てて置き、その時間は仕事に集中する時間にするといった方法があります。1つ1つの業務を、集中することで効率化を図ることができます。

集中タイム

(4)探す時間
1日の業務の中で、書類を探すことに時間を費やしていないでしょうか?書類の保存方法についてのルールを決めることも大切です。「紙」と「データ」が混在していると、探すのに非常に手間がかかります。「紙」として保管しておかなくてはいけないもの、「データ」で十分なものをしっかりとわけてください。念のためといって書類をなかなか捨てられない事業所をみますが、念のためでとっていた書類を使うことはほとんどありません。心配なのであれば、データ化した書類は一定期間をもって破棄していきましょう。これに関しても必ず廃棄のルールを決めておく必要があります。
さて、今度はデータ化した場合の、フォルダ整理のルール化です。フォルダ名のつけ方、何階層までにするのか?どういった分類にするのか?を決めます。ただ、一度決めても運用が定着するのは時間がかかります。この時に重要なのが「フォルダパトロール」です。社内でパトロールの人を決め、定期的にフォルダルールが守られているかチェックをします。守られない人は、チーム内で公表する等をして、きちんとルールを守ってもらうことを徹底してください。このフォルダ整理がしっかりまわりはじめると、書類を探す時間が劇的に減っていきます。

(5)業務内容の共有化
個々人が抱えている業務内容、案件の進捗状況等を一人だけがわかるのではなく、チームで共有することも重要です。技術職の方の場合、どうしても現場の特殊性から属人的になりがちですが、仕事はチームで行うものです。属人化した仕事を共有していきましょう。チームとは、課とか部全体でも構いませんし、案件ごとのチームでも構いません。チームで情報を共有できれば、もしトラブルが発生したり、急な休みで本人がいなくても、業務が止まることもありませんし、みんなでフォローしあえる環境づくりができます。情報共有にはクラウドでのサービスを利用することで、どのような場所でも対応できます。また、情報伝達の手段としてビジネスチャットはお勧めです。最近ではラインワークス、チャットワーク、スラック、マイクロソフトチームス等いろいろなものがありますので、自社にあったツールを利用してみてください。チャットツールの良さは、迅速なコミュニケーションの展開です。電話ですと、一人としか対応できませんが、ビジネスチャットツールを用いることで、同時に複数の人の会話や情報共有ができます。そのため意思決定やアドバイスもスピーディーに対応できるのです。他にもその業務に関わるファイルや情報も共有できますので、非常に便利ですし、探す時間も減ります。しかしながら気をつけなくてはいけないことは、チャットツールの使い方(タイトルの付け方等)に一定のルールを決めないと、かえって混乱を招くことになりかねませんので、注意が必要です。

(例)
タイトルの付け方のルール

タイトルの付け方のルール

(6)ノー残業デイ
長時間労働が会社の風土となっている場合は、まずは「帰らなくてはいけない」という仕組みづくりから入るのが効果的です。しかしながら、根本的に業務量が多いのにも関わらず、ノー残業デイを導入すると、その日の残業を翌日に持ちこしたり、場合によっては自宅での作業に切り替わる可能性があります。ノー残業デイを導入する場合は業務量の問題というよりは、上司が残っているから帰ることができないといった会社の習慣に問題がある場合にお勧めです。

(7)業務のマニュアル化
これはどこの企業でも起こることですが、優秀な一部の社員に仕事が集中をします。そして優秀な人ほど責任感も強いため、大量の仕事を抱え込む傾向にあります。しかし、これを放置しておくと、特定の人への業務の偏りは、その人が病気になってしまったり会社を辞めてしまったときに対応できる人がいないといったリスクが非常に大きいのです。今後は属人化している業務をマニュアル化し、一定レベルのことは誰もができるような状況にしないと組織としての生産性があがりません。その優秀な人が本当にやらなくてはいけない仕事は、今もっているうちのどの部分なのか?標準化できるものは標準化、マニュアル化をしていきましょう。

【まとめ】

労働時間の削減のキーワードは「見える化」です。見える化することでどこに問題があるかを発見することもできますし、情報共有により、働く人も安心して仕事をすることができます。現場ごとの特殊性で片付けるのではなく、その中でも標準化できる部分はないのか?を検討していきましょう。属人的な仕事では、次の世代が育っていきません。建設業の働き方改革の最終的な目的は「担い手確保」です。一緒に小さな一歩を踏みだしていきましょう。

連載一覧はこちら
第一回『なぜ時間外労働の削減に取り組まなければいけないのか?』
第二回『時間外労働の上限規制って何?』
第三回『労働時間の管理と監督者の役割』
第四回『労働時間削減のために(1)』
第五回『労働時間削減のために(2)』
第六回『効率化のためにできること』
第七回『他業種との比較』
第八回『教育の重要性』
第九回『働き方改革について』
第十回『魅力ある建設業へ』
第十一回『まとめ』

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