働き方改革 建設業界で話題の出来事をConCom独自の視点でご紹介

2023/11/01

【建設業の働き方改革~第七回】他業種との比較

建設業の時間外労働の上限規制は2024年4月より施行になりますが、他業種においては、大企業は2019年、中小企業においても2020年よりすでに上限規制は適用されています。人手不足は建設業だけではなく、どの業種においても深刻な問題です。社会全体が「人手不足」に悩む中、建設業の特殊性はあるとしても、他業種を意識した取り組みをしていきましょう。

1.建設業の現状

下記は国土交通省から発表されている資料です。右側の建設業就労者の高齢化の進行をみると、全体の3割以上が55歳以上、29歳以下は1割という危機的な数字になっています。この資料から、これから数年の間に3割以上の方がこの業界から離れてしまい、にも拘らず、同じだけの人数を補充することは出来ないということが理解できます。

建設業就業者の現状

働き方についても、全産業と比較して実労働時間、年間出勤日数が多いことがわかります。建設業においては、土曜日も現場が稼働しているため、どうしても休日日数が少なくなってしまいます。しかしながら公共工事では週休2日がスタンダードになりつつあり、民間建築工事においても、大手ゼネコンの現場では2024年4月からの4週8閉所に向けて、動いています。工期のある建設業においては、他業種と違い、労働時間の削減について業界全体としての取組が重要です。しかしながら、労基法は会社ごとに適用されるため、業界での取組任せになるのではなく、自社として何ができるかを考えていく必要があります。

建設産業における働き方の現状

2.年間休日数の比較

厚生労働省による令和4年就労条件総合調査によると、労働者年間休日数の平均は115.3日、1企業当たりの平均は107日という結果でした。この数字をだけをみると、それほど多い休日数ではないような気もしますが、割合でいうと年間休日数120~129日が30.2%と最も多い結果でした。
法律上の休日は、週1日もしくは4週4日であるため、週休2日は法律的な義務ではありませんが、法律上の労働時間が1日8時間1週40時間となっているため、1日8時間労働であれば結果的に週休2日が必要となります。ということは、1日8時間労働、完全週休2日であれば、年間休日は最低105日必要となります。しかし、一般的には、ここに祝日や年末年始、夏季休暇等が入ってくるため、年間休日120日というのが、一般的な休日数となっており、若年者が選ぶ、休日が120日というのがスタンダートなのかもしれません。

業種別年間休日数

3.働き方の価値観の変化

多くの調査で、最近の若年者の傾向として「給与」よりも「休日」、いわゆるワークライフバランスを実現するため「働きやすさ」を重要視する傾向が強まってきていると言われています。確かに、先日も弊所が顧問を務める建設会社の若手従業員から、退職の申出がありましたが、退職理由に正直驚きました。「子供が生まれたので、これからは妻と一緒に子育てにも参加し、ワークライフバランスを充実させたいのです。休みが少なく、有給取得がしづらいこの会社でこのまま仕事を継続することは難しいです」という申出でした。おそらく30年前であれば、子供が出来たのを機に、男性はもっと仕事をしたいと考えたのではないでしょうか?どちらが正解ではなく、価値観の変化なのです。今の若年層を自社へ入職させたいと思うのであれば、今までの価値観の押し付けではなく、新しい価値観を受け入れる必要があるのです。これは今までの人の働き方を否定するわけではありません。以前は労働時間に比例して成果を上げることができる時代だったのが、社会も成熟し、多くのものが満たされた中で、求めるものが変化してきたということなのです。

4.多様な働き方がポイント

ITのめまぐるしい進化、またコロナ禍を通じて仕事への価値観、幸せの価値基準が変化してきています。そのような中で「正社員」という画一的な働き方だけでなく、多様な働き方を選ぶことができるのも、定着率向上の1つのポイントになってきています。
ここでいくつかの制度をご案内します。

①在宅勤務
すべての業務が在宅でなくても、技術者の方の書類作成においては、業務の見える化により在宅できる業務もあるはずです。また、書類作成業務のすべてを技術者の方自身が実施しなくとも、一部他の社員に仕事を任せることができれば、育児や介護で出勤が難しい社員が在宅勤務をすることで、仕事の軽減と新たな働き方を創出することができます。

在宅勤務メリットデメリット

②フレックスタイム制
出勤、退勤時間を本人に任せることができる制度です。働く人にとっては日々の仕事の長さや、出退勤の時間も決められるので、効率的に働くことができます。

フレックスタイム制

1ケ月の総労働時間で管理するため、その月の総労働時間を超えた分が残業となり、足りなかった場合は、その月の賃金控除をするか、もしくはその足りなかった時間数を翌月に持ち越しすることができます。今までは精算期間は1ケ月でしたが、現在は3ケ月となっているため、以前より使いやすくなっているといえます。

【まとめ】

労働条件が整えば、人材が確保できるわけではありません。しかしながら労働環境は働く上での最低条件です。若年者に自社で働いてもらうためには、他業種も意識した労働環境づくりをしていきましょう。休日数が少ないのであれば有給休暇の取得率をあげていく、また今回ご案内した多様な働き方への取組を一部だけでも検討してみてはいかがでしょう。魅力ある企業が1社でも増えることが建設業界を魅力あるものに変えてくれるはずです。是非、小さな取組でもまずは一歩動きだしましょう。

連載一覧はこちら
第一回『なぜ時間外労働の削減に取り組まなければいけないのか?』
第二回『時間外労働の上限規制って何?』
第三回『労働時間の管理と監督者の役割』
第四回『労働時間削減のために(1)』
第五回『労働時間削減のために(2)』
第六回『効率化のためにできること』
第七回『他業種との比較』
第八回『教育の重要性』
第九回『働き方改革について』
第十回『魅力ある建設業へ』
第十一回『まとめ』

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