働き方改革 建設業界で話題の出来事をConCom独自の視点でご紹介

2023/12/01

【建設業の働き方改革~第八回】教育の重要性

時間外労働が多い原因を探ると、大きく3つの原因に分けられます。1つ目は仕組みの問題、2つ目は教育、3つ目は組織風土です。仕組みの問題については、ITを利用した効率化、業務の見直し、会議のやり方の見直し等いくつかの手法をご案内してきました。今回は教育について解説をしていきます。

【事例1 建設会社A】

■現状
以前、ある建設会社で業務改善のコンサルに入ったことがあります。この会社では、なぜかいつも同じ若手社員が残業をしていました。そこで原因を探ってみると、自分の仕事での残業ではなく、パソコン操作の苦手な上司から振られた業務が多く、そのために残業をしていることがわかりました。

■解決策
業務効率を上げていくためには、日常使用するパソコンのスキルをあげることも重要です。社内で普段デスクに向かう時間の少ない方等は、急激なITの進化についていけないケースもあります。この会社では若手社員が講師となり、社内でパソコン勉強会を実施しました。最初はパソコンが苦手な人、いまさら聞けない人でも参加できるように「基礎編」からスタートしました。具体的には「業務で使えるエクセル研修」「アウトルックの使い方」「見積もりソフトの簡単使用法」といった、社内で使いこなせたら、業務が楽になりそうなことを、1回30分程度の短時間で研修をし、誰もが最低限の使いこなしができるようになりました。研修に慣れてくると、今までITが苦手だった上司からも研修受講のリクエストがくるようになり、社内のITスキルが各段に上がってきました。そしてこの会社はこれを機に上司とのコミュニケーションもうまく図れるようになり、思わぬ副産物を得ることが出来ました。

勉強会の成果

【事例2 建設会社B】

■現状
入社すると先輩につき、OJTをしながら業務を学んでいきます。しかしながら、こうしたOJTでは若手社員がすぐに辞めてしまいます。そこで若手社員にヒアリングをしたところ、もっと1つ1つのことをしっかり教えてほしいという要望があることがわかりました。

■解決策
若手社員のヒアリングから、以前のような「みて覚えろ」が通用しないことがわかりました。そこでまずは教育プログラムの作成からスタートしました。入社の年次に合わせて、必要な資格の洗い出しや、一定の年数での到達度を明文化しました。教育プログラムを見える化することにより、従業員にとっては会社が自分に何を求めているかがわかるようになり、会社も何を順番に教えていくべきかがわかるようになりました。
そして次に実施したのは業務のマニュアル作りです。事務系の業務においては、業務の見える化からスタートをしました。その業務ごとにどういう手順で業務を進めるかをマニュアルにし、社内で共有をしました。業務の見える化によって、今まで属人的なやり方であった業務が標準化できるようになり、教えてもらう先輩によってやり方が違うといったことがなくなりました。どうしても技術者の仕事は、専門的な業務であるため、マニュアル化できないこともありますが、基本的な業務についてはマニュアル化をし、新人でも、それをみることである一定レベルまでは習得することができるようになりました。
また、現場においては、お手本となる先輩職人の作業工程ごとの画像を撮りため、新入社員には現場に出る前に、その画像をみてもらいます。そしてその画像と同じ動きを本人がし、画像撮影をします。その後、先輩職人と本人との画像を比較することで、自分に何が足りないかを理解してもらいます。今までの「みて覚えろ」を、今風にスマホで残し、それを何度も繰り返しみることで、仕事を覚えることが早くなりました。
加えて最近の傾向として、個人差はありますが、1つ1つ仕事をしっかり覚えてから、次のことを覚えていきたいという方が増えてきているような気がします。とにかく、一通りやるということではなく、1つ1つ覚え、少し自信をつけたところで他の業務へ広げていくということを好む傾向があるようです。

【事例3 建設会社C】

■現状
支店が分かれているため、教育担当者が複数おり、教える人によって個人差がでてしまいます。また社内も人手不足のため、教育に対して時間を割くことができません。

■解決策
最初、紙でのマニュアルを作成しましたが、やり方が変わってしまったり、こだわりすぎて詳細になりすぎてしまったりして、あまり読まれず使われなくなってしまっていました。そこで、変更点はタイムリーに変更し、また手軽に確認できるよう、すべての教育を映像で残すことにしました。1つのコマは30分とあまり長くない時間に設定し、先輩社員が説明をしている姿を映像に残しました。これを会社全体の共有フォルダ―に入れ、総務部で管理をすることにしました。そのため、自分の席でなくても空き時間にスマホで確認することもできます。この方式を取り入れてから、教わる人も、わからないところは何回でも映像で確認することができ、同じことを先輩に聞かなくて済むということでストレスがなくなったようです。また、社員が同じ人の教育を受けることができるため、人によって教え方が違うといったこともなくなり、今は、従業員からの希望も聞きながら、さらにコンテンツを増やして教育制度を充実させています。

【まとめ】

今回は、社内教育を実施し、生産性向上を図っている会社を3社ご紹介しました。3社とも、外部の研修ではなく、社内の業務においては社内の人材が講師となることで対応をしています。もちろん建設業においては安全教育や資格取得等、外部講師に基づく研修も重要です。しかしながら、日常業務においては社内の人間が業務を教える必要があります。教育は、すぐに成果に結びつかないこともあり、難しいところもありますが、生産性を上げていくためには、個々のスキルアップは必須であり、時間を割かなくてはいけない部分でもあります。特に最近ではどの企業でも人手不足であるため、必ずしも経験のある人が入社されるとは限りません。ということは、経験のない人にも教えていく必要があるのです。「働き方改革」とは「早帰り運動」ではなく、生産性向上が最終的な目的です。生産性向上とは、1人の人が、ものすごくレベルの高い仕事をすることではなく、全員がレベルアップをすることで、全体の底上げを図ることです。そして1つのレベルをクリアしたら、次のステップへ進んでいけばいいのです。大きな改善でなく、小さな改善からはじめていきましょう。生産性向上には、全員のレベルをあげていくといった人材育成が重要です。

連載一覧はこちら
第一回『なぜ時間外労働の削減に取り組まなければいけないのか?』
第二回『時間外労働の上限規制って何?』
第三回『労働時間の管理と監督者の役割』
第四回『労働時間削減のために(1)』
第五回『労働時間削減のために(2)』
第六回『効率化のためにできること』
第七回『他業種との比較』
第八回『教育の重要性』
第九回『働き方改革について』
第十回『魅力ある建設業へ』
第十一回『まとめ』

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