「現場の失敗と対策」編集委員が現場や研究の中で感じた思いや、
技術者に関わる情報を綴っています。
2016/02/25
平成28年2月の「現場の失敗と対策」記事『セメント系固化材による地盤改良が固まらない』は、有機物を多く含む軟弱地盤の地盤改良に関するものでした。
このような現場では土質柱状図に高有機質土、泥炭、腐植土、有機質粘性土等と書かれた層が確認できると思います。高有機質土がある場合、盛土や構造物を施工すると沈下や側方流動等の地盤変状が発生します。写真1は軟弱地盤における施工トラブル状況です。一般的な土は岩石が風化してできた粒子により構成されていますが、高有機質土は「あし」や「よし」等の植物が分解しないまま堆積してできたものです(写真2、図1)。
そのため、砂質土と比べて間隙比や含水比が高く、加えて繊維質であり圧縮しやすいため、土の塊を手で握りしめると、あたかも水をたっぷり含んだスポンジのように水がしたたり落ちます。ここでの間隙比は土の間隙部分の体積を土の固体部分の体積で除した値です。高有機質土には間隙比10、含水比が1000%にもなる「超軟弱」なものまであります。
さて、このような厄介な地盤で工事を始めるにあたっては、現場の地盤がどのようにしてできあがったかを知っておくと判断ミスが少なくなると思います。通常はボーリング柱状図のN値が大きい、小さいに目が行きがちですが、これは点の情報になります。まずは「鳥の目」で俯瞰して現場を含む区域の地盤の成り立ちを見て、それから「虫の目」でボーリング柱状図を見るという視点の使い分けをしてみましょう。仕事で手にする地盤調査報告書にも、冒頭部分に「鳥の目」に関する情報が含まれていますが、地質学や地形学に関する専門用語が多く、なかなかとっつきにくいものです。とっかかりとして、比較的容易に調べることができる微地形区分や空中写真を調べてみてはいかがでしょうか。
微地形は全国250mメッシュごとの情報が公開されており1)、だれでも簡単に調べることができます。例として筆者の職場付近の微地形を図2に示しました。あわせて空中写真(Google map)を図3に示しました。この場所で軟弱地盤となる候補は後背湿地と旧河道です。職場(日大)は阿武隈川の氾濫によってできた自然堤防の上にあり、後背湿地と比べて微高な場所になります。日本の平野は河川氾濫で形成されていますので、上流や川に近い場所は粒径が大きい礫や砂、下流や川から離れると粒径が小さいシルトや粘土が堆積しやすくなります。後背湿地は川からは少し離れたところにあり、一度洪水で浸水すればなかなか水の引かない水はけが悪い湿地ということになります。今のように河川改修や排水施設が整備されていない頃、先人は後背湿地を避けて、比較的住みやすい自然堤防や台地を選択して住んできました。
さらに微地形がわかると、土を掘る前に、地盤構成、工学上の問題点についておおよその検討がつきます2)(表1)。例えば、後背湿地は「軟弱な粘土、シルト、細砂、ピート(高有機質土)」が堆積していることが多く、「軟弱地盤、洪水帯水」が問題となります。その他にも小おぼれ谷や潟湖跡は極軟弱地盤が分布している可能性が高いことがわかります。この機会に、ご自分が担当される現場や、ご自宅の微地形を調べてみてはいかがでしょうか。なお「鳥の目」で見るために活用できるその他の既存資料についてさらに詳しく知りたい場合は文献3)にありますので参考にして下さい。
表1 沖積低地の微地形及び地質概要と問題事項2)
地形条件 | 地形特徴 | 地質概要 | 問題事項 |
---|---|---|---|
扇状地 | 偏平な半円錐状、網状流、伏流 | 粗大な分級不良な厚い砂礫層 | 流路不安定、破圧地下水、洗掘 |
自然堤防 | 微高地の帯状配列 | 砂質土 | 地震時液状化の可能性 |
後背湿地 | 自然堤防背後の低湿地 (一般に水田化) |
軟弱な粘土、シルト、細砂、ピート | 軟弱地盤、洪水帯水 |
三角州 | 静かな内湾の河口部 | 軟弱な細砂、粘土層の厚い堆積 | 深い軟弱地盤、表層砂質土の地震時液状化 |
小おぼれ谷 | 丘陵、台地間などの狭長低平な谷地 | 極軟弱なピート、粘土、シルト | 極軟弱地盤 |
潟湖跡 | 海岸砂州背後の低湿地 (水田化) |
極軟弱なピート、シルト、粘土 | 極軟弱地盤 |
海岸砂州 | 海岸に平行した帯状の微高地 | 砂、砂礫 | 地下水の高い箇所は地震時液状化 |
海岸砂丘 | 海岸砂州上の風成砂丘 | 均等粒径の砂 | 均等粒径の砂、地形不安定 |
1)防災科学研究所、地震ハザードステーションJ-SHIS、http://www.j-shis.bosai.go.jp/
2)公益社団法人地盤工学会、地盤調査の方法と解説、2分冊の1、pp.34, 2013.
3)公益社団法人地盤工学会、地盤調査の方法と解説、2分冊の1、pp.25-35, 2013.
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