「現場の失敗と対策」編集委員が現場や研究の中で感じた思いや、
技術者に関わる情報を綴っています。
2024/02/01
本コラムはConCom2023/02/01号に掲載した同名のコラム(以下その1と呼ぶ)の続きである。カーボンニュートラルとはCO2をはじめとする温室効果ガスの「排出量」を削減するとともに、森林などによる「吸収量」を差し引くことで、温室効果ガスの「排出量」を実質的にゼロにする取り組みである。わが国では温室効果ガスの排出を2050年までに実質ゼロ、いわゆる「カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現」を目指すことを宣言している。表-1に示すカーボンリサイクル産業の成長戦略「工程表」1)を追跡することで現状を考察する。
竹中工務店は鹿島、セメントメーカのデンカと共同で、コンクリートの製造過程で排出される二酸化炭素(CO2)の排出量が実質ゼロ以下となるカーボンネガティブコンクリート研究開発を進めている。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のグリーンイノベーション基金事業「CO2を用いたコンクリート等製造技術開発プロジェクト」に同研究会は「革新的カーボンネガティブコンクリートの材料・施工技術及び品質評価技術の開発」というテーマで採択された2)。
研究開発したコンクリートはCO2の削減、固定、吸収といった3つの要素技術より成る。CO2の削減技術は、高炉スラグ微粉末を用いたセメントを通常のセメントに代えて適用することで、CO2排出量を6割程度減らせる。固定技術は、コンクリート解体材に含まれるカルシウム分にCO2を固定させ、コンクリート用骨材として使用する。吸収技術は、CO2を効率良く吸収して硬化体を緻密化する特殊混和材をセメントに混合し、硬化後にCO2を吸収・固定するというものである。これらを単独で、あるいは組合わせて使用する。
本共同研究の成果として、CO2を削減・固定・吸収するコンクリート「CUCO®-建築用プレキャスト部材」を開発し、2025年大阪・関西万博のパビリオンの基礎部材に適用した3)。一般的なコンクリートと比較して製造段階で排出されるCO2を80%以上削減できると言う。
新技術活用システム(NETIS)は、民間により開発された新技術を、公共工事において積極的に活用していくためのシステムである。「CO2削減」「コンクリート」でNETISの登録技術を検索した結果、表-2に示す3件の技術がヒットした。CO2吸収型コンクリートとして評価されている「SUICOM」を検索したが登録されておらず、代わりに「CO2-SUICOMを用いたガラス繊維補強埋設型枠」が登録されていた。「CO2-SUICOM」そのものの開発年度が古く、新技術として登録ができなかったためと推察する。ちなみに「CO2-SUICOM」は平成26年度地球温暖化防止活動環境大臣表彰を受賞している。
鉄筋コンクリート中の鉄筋は強アルカリ(pH12~pH14)の環境下で不動態被膜を形成し、錆びることが無い。ところがカーボンニュートラルを目指すコンクリートは水に溶けると強アルカリを示すポルトランドセメントの代わりに高炉スラグ微粉末やフライアッシュを使用する配合が多いため、強アルカリとならない。このため、鉄筋に不動態被膜が形成されず、このままでは鉄筋コンクリート構造物として使えない。
また、CO2吸収型コンクリートもCO2を吸収することにより酸性に近づくためコンクリート構造物中の鉄筋、鉄骨が錆びやすくなる。これを克服するのはかなり困難な技術を要するようで、表-1の工程表を作成時に目論んだCO2吸収範囲の制御技術、鉄筋代替材の活用といった新製品は現れていない。
清水建設と北海道大学はコンクリート構造物の表面に含浸剤を塗布することで、大気中のCO2を吸収・固化を促進する「DAC」コートを共同開発した。アミン化合物を主成分とする含浸剤で、吸収したCO2とコンクリート中の水酸化カルシウムが反応し、炭酸カルシウムとしてCO2を固定する。一般のコンクリートに比べてCO2吸収量が1.5倍に増えるだけでなく、アミン化合物の防食作用により鉄筋の腐食を抑え、鉄筋コンクリートの耐久性を向上させるとのことである(2022年に発表された技術)。
低コスト化かどうかは不明だが、ここではこの1年間に発表されたカーボンニュートラルに関する技術を紹介する。
①T-eConcrete®
その1で紹介したように、大成建設は4タイプのT-eConcrete®を開発した。セメントの使用量を抑制し、通常コンクリートと同等の強度を保持しながら、CO2排出量が削減できるというもので、①セメントを減らす代わりに高炉スラグを使用する「建築基準法対応型」、②高炉スラグとフライアッシュを使用する「フライアッシュ活用型」、③セメントを全く使用しない「セメント・ゼロ型」、④CO2を吸収した炭酸カルシウムを、高炉スラグと特殊な反応剤を用いて固めた「カーボンリサイクルコンクリート」である。
電力会社が発注する洞道の新設工事において、工場で製作したインバートおよび歩床部材に「セメント・ゼロ型」のT-eConcrete®を使用した。従来のコンクリートに比べ材料製造時のCO2排出量を8割程度削減でき、使用量(223m3)から算出されるCO2削減量は、インバートおよび歩床部材全体で53.8tになるという。この実績により令和4年度の土木学会技術開発賞を受賞した(2023年5月)。
なお大成建設は2021年6月、大阪市内の下水シールドトンネル工事において、外径6.4mのシールドトンネルで用いるセグメント5リング分(延長6m)を「フライアッシュ活用型」で実施している。セグメントは鉄筋コンクリート造である。
②クリーンクリートN
大林組はセメントの一部をCO2排出量の少ない高炉スラグ微粉末やフライアッシュなどに置換することで、一般的なコンクリートと比較してCO2排出量を最大80%低減させる「クリーンクリート」の技術を発展させ、CO2を吸収・固定化した炭酸カルシウムを主成分とする粉体を混ぜ合わせることでCO2排出量を最大120%削減する「クリーンクリートN」を2022年に開発し、2023年3月に長さ40mの現場打ちの壁に初適用したと発表している。(表-2参照 NETISに登録済)
③バイオ炭コンクリート
清水建設は「バイオ炭」をコンクリートの混和材として利用することで、多量の炭素を安定的に固定する技術を開発した。「バイオ炭」とはバイオマスを炭化したもので、これを粉状あるいは粒状にして使う。「バイオ炭」の原料は木材の製造時に発生するオガ粉を利用する。オガ粉を炭化するとオガ粉が含む炭素は分解されづらい固定炭素に変化して、燃焼されない限りCO2に変化しなくなる。バイオ炭の乾燥時の固定炭素質量比は90%におよぶものもあり、多量の炭素を安定的に固定できる特長がある。
実績に加えるため、工事現場の仮舗装コンクリートとして粒状バイオ炭を1m3当り60kg加えたコンクリートを34.5m3打ち込んだ。バイオ炭の使用量からCO2に固定量は4.7tになるという4)。
④エコクリートR3(アールスリー)
鹿島は自社の研修施設であるテクニカルセンター(横浜市)の建設に、同社が開発した2種類の環境配慮型コンクリートを採用し、「建設時のCO2排出量を約31t削減した。」と発表した。1つはエコクリートR3であり、戻りコンから骨材を取り除いた後、脱水・粉砕して製造するスラッジ再生セメントを原材料として再利用する。製造工程で大量のCO2を発生するセメントの代替物とするため、資源循環を図りながらCO2排出量を抑えられる。今回は高含有型(セメントの一部として再生セメントを50%程度使用)の生コンクリートを外構の壁に、低含有型(同20%程度使用)の生コンクリートを基礎躯体に採用した。もう一つは製造時にCO2を吸収・固定する「CO2-SUICOM(シーオーツースイコム)」であり、それぞれ新たな用途で適用することで、環境配慮型コンクリートの実用化の幅を広げているとのことである。
GreenOre技術という炭酸塩を製造する技術がある。米国ワイオミング州政府は技術の実効性に着目している。州政府とコロンビア大学は、ワイオミング州内の石炭火力発電所で日本との3者共同研究にも積極的なため、我が国へ導入可能な有望技術の候補の一つである5)。
福島の勿来発電所10号機に導入した場合、炭酸塩生産能力は7,100t/年であり、将来有望な技術としては更なる技術開発が必要とのことである。
Tセメント社は、フレッシュコンクリートにCO2を効率よく固定するシステムを開発した。セメントと水を混ぜたセメントスラリーにCO2を供給し、炭酸カルシウムとして固定する「カーボキャッチ」を開発した。カーボキャッチでは、CO2を満たした密閉容器内に、セメントスラリーを投入して循環させる。密閉容器は、セメントとの反応で消費したCO2と同量のCO2を随時供給する仕組みを持つ。水セメント比300%のセメントスラリーに、セメント1t当たり360kgのCO2を供給すると、そのうち93%を固定できる。従来の技術であるセメントスラリーにCO2を直接吹き込む「エアレーション」では固定率は20%程度である。
以上、コンクリート分野のカーボンリサイクル技術について紹介しましたが、順調に進んでいるように見えるでしょうか?工程表における2050年のカーボンニュートラルを目標に対する、2025年までの到達点に対してはクリアできると思われる。
NETISの登録申請書類(様式3)のなかに、実績件数を記載する欄(公共機関○件、民間□件)があり、NETISに登録するためには実験工事ではなく、実績が求められているのだと誰しも考える。このため実施例は、容易に採用可能な塀であったりコンクリート舗装だったり、道路の縁石など無筋の製品や自社の工事物件である。
工程表では、2025年以降の具体的な目標が設定されていない。「製品あるいは技術の実証」という言い方でくくられているが、それぞれの技術に任せているようにみえる。そもそも工程表を作成した段階で、いくつかの開発済みの技術があり、それぞれの目先の開発目標を織り込んで作成したものと思われる。ただこのまま、それぞれの技術に研究開発を任せるのではなく、まだ2050年までには時間があるのだから、どこかできちんと評価して、技術を絞り込んだ方が良いと思います。特に、鉄筋コンクリート構造として成り立つかといった視点が欠かせない。
2023年12月に東京ビッグサイトで第1回建物の脱炭素EXPOが開かれ、見学に行ったが残念ながらコンクリート分野での展示(写真-5)はわずかであった。
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