コラム:編集委員の独り言…

「現場の失敗と対策」編集委員が現場や研究の中で感じた思いや、
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2024/03/01

杭の支持層確認のための
地盤調査のながれ

ビル等の建築物や橋梁基礎等の土木構造物においては、構造物の荷重を支持するために基礎杭が必要になることが多い。昨今の杭の支持層未達や支持力不足による構造物の完成後の沈下の発生といった大きな社会問題を未然に防止するためには、基礎杭の設計並びに施工に際して、杭の支持層を正確に把握し、適切に対応することが極めて重要である。
ここでは、構造物の基礎杭の設計や施工に関わる技術者に一般的な知識として保有していただくことを目的に、杭の支持層確認のための地盤調査のながれについて、簡単にまとめてみる。

(1)杭基礎の設計・施工と地盤調査

建築物や土木構造物の基礎杭の設計・施工に際しての地盤調査は、①事前調査(予備調査)、②本調査、③追加調査、④施工時の調査の順に進められる(図-1)。これらの各段階において、合理的で必要かつ十分な調査を行う必要がある。 ここでは、主に①事前調査(予備調査)と、②本調査の概要について、以下に述べる。

図-1 地盤調査のながれ

図-1 地盤調査のながれ

(2)事前調査(予備調査)

事前調査(予備調査)は、構造物の計画地周辺の地形・地質、土層構成・土質特性および周辺環境等を確認するための資料を収集し、本調査の内容決定のための材料とすることである。事前調査における地盤情報としては、①地盤に関する既存の資料、②既存構造物に関する資料、③橋梁基礎の場合の河相と利水状況に関する資料、④その他(古地図や土地利用履歴等)がある。(表-1、表-2)

表-1 地盤情報に関する資料1)

表-1 地盤情報に関する資料

表-2 地盤情報データベースの例(2008.3)2)

表-2 地盤情報データベースの例(2008.3)

既往の地盤情報が得られない場合は、ボーリング調査を行い、計画地点の土層構成や土質特性を把握したうえで、本調査に移行することもある。

(3)本調査

本調査は、ボーリング調査を基本にして、原位置試験による土層構成・土質特性の把握や、取得したサンプリング資料を用いて室内土質試験を実施することで、各土層の数値化を行い、物理特性や力学特性を把握するものである。杭基礎を対象とした本調査を計画するうえで、ボーリング調査を中心に基本的な事項や留意点を以下に示す。

①ボーリング調査の箇所数

ボーリング調査の箇所数の設定に関しては、建築基礎設計のための地盤調査計画指針に建築面積を目安にしたボーリング本数が提案されている(図-2)。

図-2 ボーリング本数の目安と実体調査結果3)

図-2 ボーリング本数の目安と実体調査結果

ただし、支持層の傾斜・不陸が想定される場合や、調査途中で支持層の傾斜・不陸が判明した場合は、設計にあわせたより詳細な調査箇所の設定や追加調査が必要であることを認識しておく必要がある。土木構造物基礎の調査の場合では、各種便覧4),5)や関連ガイドライン6)を参考にして、文献調査や現地踏査により当該地点の地形・地質的特徴を把握したうえで、(予備調査を含め)調査箇所数を定めていくこととなる。

②ボーリング調査深度

建築一般では、通常N値60以上の層を、概ね層厚5m以上確認することが行われている。一方、建築物の構造関係技術基準解説書2015年版では、認定工法その他の杭において、杭先端より杭径の5倍以上の支持層厚の確認が新たに提唱されている。しかし、本調査実施時点では杭工法の詳細が決定されていないこともあり、調査地点のうちの代表地点で、支持層厚を10m以上確保するなどの対応が行われているようである。

土木の橋梁基礎等の場合でも、層厚が概ね5m以上でその下に軟弱層や圧密層がないことが支持層厚さの目安(支持層の目安としては、粘性土でN≧20、砂質土でN≧30)となっているようであり、調査深度もこれを考慮して行う必要がある。

③ボーリング調査を補完する調査

山地近傍の平野境界部や河川扇状地などで、支持層の傾斜・不陸や互層による支持層中への粘性土の介在が想定される場合では、ボーリング調査箇所数の不足が生じる可能性がある。追加ボーリングを多数箇所で実施することが望ましいが、工期・コストの点で難しい面がある。このような場合、比較的簡便で迅速にボーリング調査を補完する方法として、オートマチック・ラム・サウンディング試験や、電気式静的コーン貫入試験、MWD検層7)(回転打撃削孔)などがある。

オートマチック・ラム・サウンディング試験は、動的コーン貫入試験で、先端にコーンを取り付けたロッドをハンマーの連続打撃により地中に貫入し、貫入量20cmごとの打撃回数(Nd値)から土層の変化や強度を求める試験であり、Nd値≒N値の関係が示されている。ただし、最近の評価では、砂質土ではNd値≒N値の関係がみられるが、粘性土ではNd値>N値の関係にあるとされている。標準貫入試験のように土質試料の採取による確認まではできないが、簡便・迅速かつ経済的にボーリング調査を補完する方法として有効な方法である。調査深度は機械によって異なり、最新の機械では最大60m程度である。また、N値50以上の砂質土およびN値20程度以上の粘性土、ならびに中間砂礫層では、貫入不能なので注意が必要である。なお、中間砂礫層のある場合は、機械によってはロータリーボーリングを併用することで適用可能な場合もあるようである。

さらにボーリング調査を補完するその他の試験方法で近年提案されているものとして、Ⓐ軟質土層で電気式静的コーン貫入試験(CPT)、硬質土層で標準貫入試験(SPT)を行うダブルサウンディング8)、Ⓑ音響トモグラフィによる支持層探査(支持層深度を1mの精度で計測可能としている)9) などがある。

(4)追加調査(施工時の調査を含む)

実施設計段階や、施工段階の追加調査は、以下のような場合において実施する。

①当初の想定から異なった地盤状況が出現した場合

②傾斜、凹凸、風化の進行が予想される地形・地質地域であるにもかかわらず、調査が不十分だと考えられる場合

③杭の施工法で、杭施工時の支持層到達確認が難しい場合

(5)おわりに

杭の支持層確認のためのおおまかな地盤調査のながれについて、上記に述べた。
杭の設計・施工に関わる技術者は、以上のような地盤調査のながれについて、正しく理解し、適切に対応することで、社会に貢献できるよう心掛けていきたいものである。

参考文献
  • 1) 日本建築学会:建築基礎設計のための地盤調査計画指針,p29,2009
  • 2) 前掲1),p32
  • 3) 前掲1),p23
  • 4) 日本道路協会:杭基礎設計便覧,2020
  • 5) 日本道路協会:斜面上の深礎基礎設計施工便覧,2022
  • 6) 一般社団法人全国地質調査業協会連合会:構造物の安全性・信頼性向上のための調査計画ガイドライン(案),2015
  • 7) 武居幸次郎ほか:回転打撃ドリルを用いた削孔検層(MWD検層)による支持層確認,基礎工,pp54~57,2017.8
  • 8) CPT技術協会:技術カタログ,CPTとSPTのダブルサウンディング https://www.cpt-engi.com/catalog
  • 9) 榊原淳一ほか:音響トモグラフィ地盤探査法を用いた正確な支持層探査,基礎工,pp50~53,2017.8

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