コラム:編集委員の独り言…

「現場の失敗と対策」編集委員が現場や研究の中で感じた思いや、
技術者に関わる情報を綴っています。

2025/05/01

コンクリート分野におけるAI活用の現状(開発状況)

1.コンクリートにAIですか?

コンクリート分野におけるAI活用というと、一見あまり馴染まないように思われる方も多いのではないだろうか。世の中で、もてはやされている(生成)AIとは、大量のデータを学習して、テキストや画像、音声等を自動生成するツールとでも言うべきイメージであり、建設材料であるコンクリートとどのように結びつくのかピンとこないものがある。

ところが、コンクリート分野においても日進月歩の勢いでAIが活用され始めている。建設業においては、少子高齢化等に伴って熟練技能者や若手技術者が減少しているのにも関わらず、働き方改革等により一人当たりの総労働時間を短縮する必要があり、生産性向上は喫緊の課題となっている。このため建設DXが盛んに叫ばれ、AIの活用は建設分野の至るところで必然になっているとしても過言でないだろう。このような背景もあり、コンクリート分野でも半ば強制のようにAIを活用する道が拓けてきている。

本コラムでは、コンクリート分野におけるAIの活用の現状を材料と製造、施工、メンテナンスの観点に分けて紹介していく。内容については各種技術の開発の進捗や状況が千差万別なこともあり、雑駁になってしまっていることはご容赦頂きたい。

2.材料・製造におけるAI活用

2.1骨材管理

  • コンクリート用骨材の管理にAIを活用する手法が開発されている。

    UBE三菱セメントでは、AIを活用したコンクリート用骨材の粒度予測技術を開発している。スマートフォンやタブレットなどの端末で撮影した骨材の画像を解析し、数秒で骨材の粒度を予測する(図-1)。容易かつ短時間で数値やグラフを出力できることから、骨材の受入れ時や、コンクリート製造の際に骨材の品質変動の有無を確認することが可能となる1)

    また、ダンプトラックに積載されている骨材の画像をAIが読み取ることによって、その粒径や種別(岩種)を高精度に判別し、入荷管理の判定を行うといったシステムも生コンプラントメーカーやゼネコンで開発が進んでいる。

  • 図-1 骨材の粒度予測アプリケーション画面1)

    図-1 骨材の粒度予測アプリケーション画面1)

2.2配合選定

コンクリートの配合を導出するためにもAIが使用されている。住友大阪セメントではセメント種類、粗骨材最大寸法、実績率、細骨材粗粒率と微粒分量、化学混和剤の減水率、水セメント比、目標スランプ、空気量を学習データとして、配合を導出できるAIを開発した。一般的な材料を用いて試し練りをした結果、表-1に示すとおり、AIを用いて導出した配合は(同配合から作為的に細骨材容積比率を下げた比較配合よりも)良好なフレッシュ性状であるとしている2)。AIを使うことで試験練り数や材料準備数量を減じることができるとしている。

表-1 コンクリートの性状2)

表-1 コンクリートの性状2)

2.3製造管理

太平洋セメント等は、生コンクリート製造工場のミキサー内におけるコンクリートの練混ぜ画像を瞬時に解析し、リアルタイムにスランプ値の予測を行うAIによる画像認識技術を開発している(図-2)。現状では、適正な材料管理や計量管理に加えて、オペレーターが目視でミキサー内のコンクリートの練混ぜ状態を監視することでスランプの安定化を図っている。開発した技術を導入することにより安定した高い正解率でのスランプ予測が実現し、コンクリートの「安定品質の確保」が期待できるとしている3)

図-2 PreスランプAI3)

図-2 PreスランプAI3)

3.施工におけるAI活用

国土交通省が2040年度までに生産性を1.5倍に高めることを目指す2024年4月策定の
「i-Construction2.0」4)の一環として、コンクリートの品質を示す代表的な指標である「スランプ」の廃止に向け、品質管理にAI(人工知能)などの新技術を取り入れる手法を模索している。

大林組等は、生コン車荷下ろし時のコンクリートの画像から、AI技術の深層学習機能により、コンクリート全量のスランプを管理する(図-3のような)システムを開発している5)。人の操作は不要で、全て自動で、スランプの異常が検出されると、打設や品質管理担当者に警告を発する。その他にレイタンス処理をAIで評価する手法も開発中である6)

図-3 スランプ自動測定5)

図-3 スランプ自動測定5)

清水建設は、作業員のヘルメットに装着したウェアラブルカメラから送られてくるコンクリート打設作業のリアルタイム映像をAIが解析し、締固めの進行状況を評価するシステムを開発している。AIが締固め状況を評価する要素は、バイブレータの挿入位置、挿入深さ、挿入時間で、評価結果はモニター上の3次元モデルに投影され、施工者は締固めの過不足を視覚的に確認する7)(図-4)。

図-4 締固め状況の確認7)

図-4 締固め状況の確認7)

鹿島は、打設後のコンクリートの表層品質を人工知能(AI)が採点するアプリを開発した8)(図-5)。タブレット端末で対象を撮影すると、AIによる評価やその理由が表示される。採点結果などを基に打設計画を見直し、コンクリート構造物の品質を高める。

図-5 表層品質評価8)の一部抜粋

図-5 表層品質評価8)の一部抜粋

ゼネコン各社においては、コンクリート工事全般の各段階において、画像や各種センサーによるデータをAIにより解析する技術を開発し、トレーサービリティーを含めた施工、品質に関するPDCAを回そうとしている状況が分かる。施工中の問題を早期に発見し、品質管理の効率化も目指している。

  • さらに、コンクリート工事で必須の配筋検査を、AIを利用した画像解析によって実施する技術が各社で開発されている。配筋検査は鉄筋径や本数、配置間隔や重ね継手長を確認する検査であり、人手と時間を要する検査であった。一方で写真だけで配筋を検査しようとすると、カメラと鉄筋との(焦点)距離や画角によって、写真からは正確な径や位置が上手く把握できなかった。この課題を3眼にしたカメラの開発や直交する検尺ロッドを基準にすることで、画像解析精度の向上を図り、これらの画像をさらにAIで解析する技術が開発されている。大林組では図-6のような配筋検査システムを開発し、推定正答率は94%で作業時間は36%短縮されたとしている9)

  • 図-6 AIによる推定結果9)

    図-6 AIによる推定結果9)

このように品質の確保と作業効率や生産性の向上にAIが利用されている。

4.メンテナンスにおけるAI活用

4.1点検の効率化

AI を利用したひび割れ検知技術は様々なものが開発されているが,比較的高精度なものとしてCANONは、AIによりひび割れを検知しそのひび割れの幅を判定する技術を開発した10)。AIは、ディープラーニングによってコンクリート壁面のひび割れを学習し、汚れや継ぎ目などを誤検知することなく、正確にひび割れを検知する(図-7)。実証実験では、99.5%という高精度な検知を実現している。土木技術者が、画像から約500本のひび割れを抽出し点検結果データを作成する作業に、720分を要していたところ、90分で点検結果を作成することができる。作業工数を8分の1にまで短縮し、人間の判断ではばらつく傾向にある点検結果を、常に一定の品質で作成できるとしている。

図-7 ひび割れ検知結果9)

図-7 ひび割れ検知結果9)

4.2劣化の評価と診断

ショーボンド建設等はAIを活用して写真データと橋梁諸元データから劣化診断を総合判定できるシステム(図-8)を開発した11)。対象となる損傷種類は、中性化、塩害、ASR、凍害、疲労、乾燥収縮、その他の7分類について,画像単独でAIにより劣化要因判定を行うものとデータ単独でAIにより劣化要因判定を行うもの、各々の判定を総合した正答率は90%程度に達するとしている。また、判定によって特定された損傷種類に応じてAIが対策工法を示すこともできる。

図-8 AIによる診断11)

図-8 AIによる診断11)

首都高速道路ではさらに包括的に、インフラの効率的な維持管理をトータルに支援・実現するスマートインフラマネジメントシステム「i-DREAMs(アイドリームス)®」12)を開発し、運用している。ICT(情報通信技術)、AI(人工知能)、IoT、ロボット技術などを積極的に活用したシステム(図-9)で業務の効率化が図られている。

図-9 i-DREAMs12)

図-9 i-DREAMs12)

5.その他の活用状況

その他のコンクリート分野における活用状況としては、設計支援ツールや工事安全の確保、環境配慮のためのツールとしてAIが開発活用されている。設計支援ツールとしては、複雑なコンクリート構造の設計を効率的に行ったり、最適な材料抽出などをAIが得意としている。工事安全についてはコンクリート工事に限らず、危険な作業者や立ち入り禁止区域への立ち入り者などを動画等からAIがリアルタイムで解析して警告するような使用方法がされている。さらに、環境負荷低減のため、Metaはイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の研究者らと共同で、AIアルゴリズムを活用し、CO2排出量を低減する新たなコンクリート製造法を考案しているという。このようにAIの活用はコンクリート分野においても広がるばかりである。

6.AI活用の利点と課題

ここまで雑駁にコンクリート分野におけるAIの活用開発状況を見てきた。基本的には、コンクリートの品質向上、各種の人的作業の効率化や省人化、コスト削減を主として、データ駆動型意思決定すなわち、大量のデータを処理し、その結果に基づいて意思決定を行うことで、経験則に頼ることなく、データに基づいた正確な判断ができるなどが利点となる。今後さらに、AIを活用した機械化や自動化、監視システム、シミュレーションによるリスク抽出などの工事の安全性向上、またリサイクル材の最適な使用、環境に優しい材料や配合の提案、エネルギー消費の最適化、CO2排出量削減など環境面でも利点がでてくると想定される。

AI活用による今後の課題としては、①AIシステムや関連技術の導入の高額な初期投資、②センサーやカメラが収集するデータの個人情報や企業機密情報等に関するデータプライバシーとセキュリティの問題、③データの偏りや誤った学習による不正確不適切なAIの判断が生じるリスク、④AIの決定が正しいか等の法的倫理的なリスク、⑤AI技術を使用することでシステムの管理技術の過度な複雑化、⑥AIへの依存度が高まりこれに伴い予期せぬシステムの問題等に柔軟に対応する能力の欠如、⑦AIの導入による職業の喪失と労働市場への影響、⑧AI技術を導入できる企業と導入できない企業との格差等、色々と考えられる。これらの課題も想定し、AIを活用した技術の導入に際してはまだまだ慎重な検討が必要な部分もあり、社会的にも労働者の再教育や法的規制の整備等が必要と考えられる。

ここまで見てきたとおり、現在まさにAI技術開発の真っただ中にあり、社会もAI活用に順応する過渡期にある。コンクリート分野においてこれらの課題に上手く対応して生産性向上の他、AI活用の利点を十分に取り込んでいく必要があると考えられる。

参考文献

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