現場の失敗と対策 このコンテンツは現場で働く皆さんの参考としていただきたく、実際の施工でよくある失敗事例と対策を記載したものです。土工事、コンクリート工事、基礎工事の3分野を対象として事例を順次掲載していきますので参考としてください。

現場の失敗と対策

土工事、コンクリート工事、基礎工事の事例

基礎工事

3)既製杭

2021/07/29

中掘り杭が先端根固め完了直後に沈下

工事の概要とトラブルの内容

水機場の基礎として、中掘り先端根固め工法によりPHC杭を施工した。PHC杭の仕様は、杭径φ800mm・杭長18m・掘削長22ⅿで、杭の構成は、下杭(A種)12m、上杭(C種)6mであった(図-1)。施工地盤は、GL-6.0mまではN値0~2のシルト層、GL-10.5mまではN値8~12のシルト質砂層、GL-17.5mまではN値2~3のシルト層、GL-20.5mまではN値10~12の粘土層、それ以深はN≧50の支持層(砂層)となっていた。地下水位はGL-3.5mであった(図-1)。基礎杭の打設機械は、全装備重量110tの三点式杭打機であった。

基礎全体の3本目の杭において、杭の沈設完了後、根固め部のセメントミルクの噴出撹拌を終了し、アースオーガの引き上げを開始したところ、杭頭部に設置したヤットコが沈下しはじめ、収まるまでに30cmの沈下(杭体の30cmの沈下)が確認された。

図-1 PHC杭の概要及び土質柱状図図-1 PHC杭の概要及び土質柱状図

原因と対処方法

根固め築造後の杭体の沈下の原因として、以下が想定された。

①当現場は、支持層直上に中位~硬い粘性土が介在しており、その粘性土のスパイラルオーガへの付着が顕著であったため、引き上げ時の吸引現象により杭先端部のソイルセメントが吸い上げられ、それに伴い杭体が沈下した(図-2)。

②アースオーガの引き上げ速度が速すぎたため、杭先端部の負圧が大きくなり、杭体の沈下を助長した。

当該杭については、根固め用セメントミルクの噴出撹拌完了から時間経過が短かったため、杭体を少し引き上げ、再度セメントミルクを噴出して念入りに根固めの築造を行った。その後、杭の高さを確認しながら、アースオーガをゆっくり引き上げたところ、杭の沈下を起こすことなく杭の施工が完了した。

そして、4本目以降の杭の施工に際しては、以下の対策を実施した。

①根固め開始前の中掘り掘削での注水量を増量し、スパイラルオーガへの粘性土の付着を抑制するとともに、杭下端部でのボイリングを防止した。

②根固め用セメントミルク注入後のスパイラルオーガの引き上げ速度を2m/分程度に下げた。

③根固め液注入後は、根固め部の上端以浅から注水を開始し、注水中は根固め部に掘削撹拌ビットを下げないように管理する(根固め部の品質低下を防止するため)とともに、掘削撹拌ビットが杭の中間付近まで引き上げられるまで注水を継続することとした。

以上の対策を講じることで、杭の沈下を防止でき、無事杭打ち工事が完了した。

図-2 スパイラルオーガ引き上げ時の負圧発生のイメージ図図-2 スパイラルオーガ引き上げ時の負圧発生のイメージ図

同様の失敗をしないための事前検討・準備、施工時の留意事項等

本事例では、1本目の試験杭では問題が発生しなかったが、3本目の杭で根固め完了直後に杭体の沈下トラブルが発生した。試験施工時は慎重な施工を行っていたため問題とならなかった事項が、効率を優先して慎重な施工を怠ったことも原因となって発生したものである。事前の土質柱状図を十分に確認し、余裕をもった施工計画を立てておくべきであった。

支持層手前に粘性の高い粘性土が存在する場合は、スパイラルオーガに粘性土が付着して、杭先端部付近でオーガを引き上げた場合に負圧が発生し、吸引現象の発生によるボイリングを引き起こし、支持力の低下につながることもあるので、適切な施工計画の立案とそれに基づく慎重な施工が必要である。

なお、現在の大半の施工機械には、杭沈設補助装置1)が装備されており、スパイラルオーガ引き上げ時に杭体を保持しておく等、これを適切に使うことで杭の過沈下防止に役立てることも考えられる(図-3)。

図-3 杭沈設補助装置1)図-3 杭沈設補助装置1)

参考文献

1) 一般社団法人 コンクリートパイル建設技術協会:既製コンクリート杭工法の施工管理要領(中掘り工法編), P.27 平成28年9月

「現場の失敗と対策」編集委員会

編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。

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