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2025/07/01

熱中症対策を企業に義務化。
改正労働安全衛生規則(安衛則)が6月1日から施行。

気候変動による猛暑の常態化の影響で、職場における熱中症による労働災害は年々増えつづけています。熱中症を起因とした休業4日以上の死傷災害は、令和6年は全産業で1,195人と、厚生労働省の調査開始以来最多となっています。特に、死亡災害については、3年連続で30人以上となっており、労働災害による死亡者数全体の約4%を占める状況にあるなど、その対策が重要となっています。
こうした現状を踏まえ、これまでは「努力義務」としていた熱中症対策について、労働安全衛生規則(安衛則)を改正し、「罰則付き法的義務」へと引き上げられました。特に、他産業と比較して、業務の多くが屋外作業となる建設業にとっては、この制度改正への対応は喫緊の課題といえます。

熱中症による業種別死傷者数(2020~2024年計)

図1)熱中症による業種別死傷者数/厚生労働省ホームページより

今回の改正のポイントは以下の3点となります。

  • ◎熱中症の恐れがある労働者を早期発見し、社内で報告するための『体制整備』
  • ◎重症化を防ぐための応急処置や医療機関への搬送など『手順の作成』
  • ◎上記の関係者への『周知』

しかも、それぞれのポイントに対して、より具体的かつ詳細な対応が例示されていることも今回の改正の大きな特徴といえます。

【熱中症の恐れがある労働者を早期発見し、社内で報告するための『体制整備』】

これまで、熱中症対策として、主に「気温」を基準にした作業管理を行ってきたと思います。しかし、今回の改正では作業環境に応じたより細かいリスク評価を行うことが必要とされます。特に建設業の現場では、作業内容や現場条件によって熱中症リスクが大きく変動するため、現場ごとの状況に応じた柔軟な対策が求められます。温度管理についても、「気温」だけでなく、『WBGT値』をもとに、作業環境ごとの管理と、体制の整備が義務化されます。

※『WBGT値』とは

暑さ指数(WBGT:Wet Bulb Globe Temperature、湿球黒球温度)は、熱中症を予防することを目的として、1954年にアメリカで提案された指標で、世界中で広く活用されています。単位は気温と同じ摂氏(℃)ですが、その値は気温とは異なります。熱中症の発症に関与するとされている、気温、湿度、日射、気流の4要素を総合的に評価することができるため、人が受ける暑熱環境による熱ストレスを評価し、熱中症を予防するための指標として活用が推進されています。

このWBGT値(暑さ指数)が28度以上、もしくは気温31度以上の環境で連続1時間以上、もしくは1日4時間以上の作業が行われる現場が、熱中症対策を講じるべき対象となります。また、WBGT値は、日射の有無、作業の負荷度合、作業員の服装といった条件ごとに、基準値や補正値が異なりますので、注意が必要です。当然、現場にもWBGT測定器の設置・導入が必要となりますので、本格的な夏を迎える前に準備しておくことも必要です。

身体作業強度(代謝率レベル)の例

表1) 身体作業強度等に応じたWBGT基準値(日射有無)/厚生労働省ホームページより

また、厚生労働省のホームページでは、作業の休止時間及び休憩時間の確保、休憩場所の設置、給水設備の設置、放熱効果の高いファンベストの着用の推奨等、改正に伴い、より具体的な対策例も示されていますので、これらを参考に対策を行うことも必要となります。

【重症化を防ぐための応急処置や医療機関への搬送など『手順の作成』】

熱中症を重症化させない、死亡災害につなげないためのポイントは、早期発見と正しい応急処置といわれています。こうしたことを踏まえ、体調不良者をいち早く発見し、適切な処置と対応が取れるよう、現場の緊急連絡網や緊急搬送先の連絡先を明示した、現場ごとの手順書の作成も義務となります。厚生労働省がホームページで例示している、熱中症を疑わせる症状が現われた場合の手順「熱中症による健康障害発生時の対応計画」を参考に、各現場の状況に合わせて作成すると良いと思います。

身体作業強度(代謝率レベル)の例

図2) 熱中症による健康障害発生時の対応計画

【関係者への『周知』】

熱中症対策の体制を整備し、手順書を作成しても、実際に現場で作業する職員が新たなルールについて理解していなければ、障害を防ぐことはできません。今回の改正では、「関係者への周知」が義務づけられています。具体的には、職員に対して「労働衛生教育」を行うこととされており、作業を行う前に

  • (1)熱中症の症状
  • (2)熱中症の予防方法
  • (3)緊急時の救急処置
  • (4)熱中症の事例

を周知しておかなければなりません。また、上記図2)の「熱中症による健康障害発生時の対応計画」についても、有事に迅速な処置が取れるよう、職員全員への事前周知が必要です。

まとめ

令和6年4月から建設業に適用された「罰則付き時間外労働の上限規制」と同様に、今回の安衛則の改正も「熱中症対策の義務化」により、違反した場合には「6カ月以下の懲役、または、50万円以下の罰金」の罰則が科せられます。しかしながら、熱中症対策の義務化は、現場だけで対応するのは厳しい課題です。気温の高い夏季の作業時間を減らし、春季・秋季に増やすといった工夫も、時間外労働の上限があり、簡単にはいきません。現場管理者にとっては非常に悩ましい改正となりますが、建設業が「きつい・きたない・危険」の3Kから「給与・休暇・希望」の新3Kをめざしている最中、「熱中症増加=危険」のイメージが建設業に定着しないよう、今回の改正を機に、積極的な対策を行う必要があります。

 

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