土工事、コンクリート工事、基礎工事の事例
コンクリート工事
1)打設中(コンクリートの特性とクラック)
2022/10/03
12月、ダムの建設現場のことである。盛土量が240万m3のロックフィルダムであり(図-1,図-2)、その上流側の端部にあるプリンスと呼ばれる監査廊(コンクリート構造物)(図-3)を構築中であった。左岸斜部のプリンスは25のブロックに分かれ、1ブロック当たりの長さは7.5mである。
今回トラブルの起きたコンクリートの打込み箇所はプリンスの一つのブロックの底版であり、高台に設けられたポンプ車を設置するステージとの高低差は40m、配管の長さは60mであった。コンクリートのスランプは8cm、粗骨材の最大寸法は40mmであり、ポンプ圧送する配管の直径は125Aである。配管は、打込み箇所までほぼストレートに伸びた状態で設置されていた。
1台目のミキサー車からコンクリートを打ち込んでいたところ、突然配管が詰まってしまい、コンクリートの圧送を中断した。
10分後に閉塞箇所を発見した。配管の先端にはフレキシブルホースとして8mと5mの長さのものをつないでいたがそのジョイント部の付近である。詰まった付近を木槌で叩くことで流れが回復した。筒先から打込み箇所に排出されたコンクリートはジャンカにならないように入念に振動を与え締め固めた。
閉塞の原因はポンプ車から打込み箇所までの落差が大きいことから配管内のコンクリートの流下速度が速くなり、配管の中央部と内周面で動きが異なることで、材料の分離が生じたためである。つまり、モルタルは配管内面の摩擦を受けて速度が低下する一方、粗骨材は早く落下することで材料が分離したのである。
打込みを再開する前に、ポンプ車のオペレータから「クレーンを貸してくれないか。」という依頼があり、たまたま同じステージから鉄筋を下ろしていたクローラクレーンを使用することができた。「奥のブロックを打ち込むあいだ、ホースの中間をクレーンで少し持ち上げてほしい。」とのことであった。オペレータの経験から、英文字のW部のように中央を吊り上げるイメージでホースを持ち上げることにより、生コンが配管内をストレートに落下するのを防げるという論理である。
奥側の底版コンクリートに続いて、一つ挟んだ手前のブロックの底版コンクリートを打ち込むためにフレキシブルホースを移動した。配管の閉塞を防ぐには、ストレートに伸びた配管(フレキシブルホースを含む)の途中に適当な長さの水平部を設けたり曲げたりすることが有効である。コンクリートの流下速度を制御することで材料分離を防ぐ効果がある。ここではクレーンを使ってフレキシブルホースをねじることで(写真1,2)、残りのコンクリートを無事打ち込むことができた。
配管の閉塞は「下向き配管」ばかりではなく、「高所への圧送(高さが70mを超える)」、「長距離圧送(水平換算距離が300mを超える)」1)で起こりやすい。まず施工計画の段階でこれらの状況を避ける必要があるが、そうできない場合の方が多い。
材料からの対策として、アンケート結果2)によるとスランプが小さいほど圧送負荷が大きくなり、圧送が困難になることが多いようである。現在、土木用コンクリートの標準的なスランプ値は12cmである3)が、閉塞を起こしやすい条件でのコンクリートは高流動コンクリートにするのが良い。
写真3は別の現場の施工状況であり、下向きにコンクリートを打ち込んでいる。このポンプ車の配管(赤色の管)は途中がコの字になっていることがわかる。 このようにコンクリートを打込み箇所までストレートに輸送するのではなく、配管の途中に流下速度を抑制する箇所を設けることで、材料の分離を抑えることが可能になる4)。実際、このポンプ車を指定することで、この現場では配管が閉塞するトラブルは無かった。
このような観点でコンクリートの打込み作業を眺めると、ポンプ圧送業者にポンプ車を手配する際には、要求性能として時間当たりの打込みの能力だけでなく、ブーム形状も指定するのが良い。また、配管の管径は粗骨材の最大寸法に見合ったものにする必要があり、コンクリートの打込み計画の際にはポンプ圧送業者を交えることを勧める。
1) 十河茂幸:圧送ポンプでコンクリートの品質が左右される,JCMマンスリーレポート,Vol.15 No.3,2006年5月
2) 住井次郎ほか:東海地区のコンクリート圧送業者におけるコンクリートの圧送性に関するアンケートの調査報告,日本建築学会大会学術講演概要集(関東),pp287-288,2015年9月
3) 大臣官房技術調査課環境システム管理企画室長:場所打ちの鉄筋コンクリート構造物におけるスランプ値の設定等について,国技建管第13号,平成29年4月21日
4) 現場の失敗と対策,コンクリート工事:地上から立坑内にポンプ圧送した時の配管の閉塞, 2014年6月26日
https://concom.jp/contents/countermeasure/concrete/cat01_vol3.html
編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。
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