現場の失敗と対策 このコンテンツは現場で働く皆さんの参考としていただきたく、実際の施工でよくある失敗事例と対策を記載したものです。土工事、コンクリート工事、基礎工事の3分野を対象として事例を順次掲載していきますので参考としてください。

現場の失敗と対策

土工事、コンクリート工事、基礎工事の事例

基礎工事

3)既製杭

2023/08/01

プレボーリング根固め工法での既製コンクリート杭の高止まり

工事の概要とトラブルの内容

ンション新築工事の基礎として、プレボーリング根固め工法によるPHC杭を施工した。杭の仕様は、φ800mm、L=21m(掘削長24.8m、2本継ぎ)である。

地盤の概要は、GL-4.3mまで関東ローム、GL-6.4mまでシルト、GL-7.9mまで細砂、GL-9.8mまで砂礫、GL-12.6mまでシルト質砂、GL-21.9mまで細砂、その下に支持層となるN値50以上の砂層が分布していた(図-1)。

所定の掘削深度であるGL-24.8mまで掘削液を使用しながら掘削後、根固め液を注入撹拌した。その後杭を接合しながら掘削孔に挿入したところ、所定の挿入深度より700mmを残して杭が高止まりした。

図-1 杭の仕様および土質柱状図図-1 杭の仕様および土質柱状図

原因と対処方法

施工場所の地盤における中間層および支持層の上部に存在する細砂層は、孔壁崩壊が生じやすいと予想していた。このため、掘削液にベントナイトを混合して施工したが、予想以上に孔壁の崩壊が発生し砂が掘削孔の底付近に沈降したため、杭の挿入が困難になり高止まりが発生したものと想定された(図-2)。

当該杭の施工において、中間砂礫層の掘削時にオーガ―が暴れる現象がみられたことから孔曲がりが発生し、杭の挿入時に孔壁を傷つけ、崩壊を助長した可能性がある。

当該杭については、高止まりが確認された時点で、三点式杭打機での引抜きが可能であったため、杭を引抜いて再施工することとした。

当該杭の再施工およびその後の杭の施工においては、以下の対策を実施した。

①掘削液の練り混ぜを十分に行い、ベントナイトを十分膨潤させて掘削液の粘性を高めるとともに、崩壊する可能性がある砂層を掘削する際には掘削速度を遅くした(0.5~1m/分)。

②孔壁を安定させるため、崩壊の可能性がある地層の掘削撹拌の際には、上下反復作業を実施して孔壁の鉛直性と安定性を高めるとともに、砂の沈降を防止した。

図-2 孔壁の崩壊と砂の沈降図-2 孔壁の崩壊と砂の沈降

同様の失敗をしないための事前検討・準備、施工時の留意事項等

プレボーリング工法による既製杭の施工において、孔壁の崩壊が予想される地盤(粒度が均一な砂層等)では、トラブル防止のため以下のような対策を検討し、実施する必要がある。

①掘削液の比重を大きくし、練り混ぜを十分に行って、粘性を高める。

②掘削時のアースオーガの鉛直性および杭挿入時の鉛直性を確保する。

③崩壊の可能性のある砂層を掘削する際には、掘削速度を遅くする。なお、掘削速度の目安は、下記が参考になる。

表-II.1.23 地質別の掘削速度の目安<sup>1)</sup>表-II.1.23 地質別の掘削速度の目安1)

④掘削完了後の上下反復作業の回数を増やし、孔壁を安定させる。

⑤掘削孔内の砂の状況を施工機械の電流計の電流値の変化などで確認する(孔壁崩壊の直後は、砂の抵抗により一時電流値が増加する)。

今回の施工においては、トラブル発生後において杭打ち機による杭の引抜きが可能であったため、コストや工期への影響は比較的少なかった。場合によっては、引抜きに縁切りのための別の機械を用いる場合や、増し杭による対応、載荷試験による支持力確認を要する場合もあるので、高止まりを起こさないよう十分な注意が必要である。

参考文献

1) 公益社団法人 日本道路協会 杭基礎施工便覧 p.205 平成27年3月

「現場の失敗と対策」編集委員会

編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。

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