土工事、コンクリート工事、基礎工事の事例
基礎工事
3)既製杭
2023/11/01
ビル新築工事の基礎として、プレボーリング根固め工法によるPHC杭を施工した。杭の仕様は、φ800mm、L=37m(掘削長39.5m、4本継ぎ)である。
地盤の概要は、GL-6.5mまで関東ローム、GL-12.0mまで細砂、GL-14.5mまでシルト、GL-18.3mまで細砂、GL-25.4mまでシルト、GL-38.6mまで砂質シルト、その下に支持層となるN値50以上の砂礫層が分布していた(図-1)。
杭打機の掘削撹拌ロッドを用いて水掘削により所定深度まで掘削を行い、根固め球根を築造し、杭周固定液を注入し混合撹拌後掘削撹拌ロッドを引き上げた。その後、杭の挿入および継ぎ作業を行ったところ、上杭の回転挿入時にオーガの負荷電流値が大きくなり、回転挿入が不能となった。
このため、杭を引上げようと杭打機本体とクローラクレーンによる共吊りを行ったが引き上げ困難であった。当該杭の高さを確認したところ、所定の深度より350mmの高止まりであった(図-2)。
施工場所は、孔壁が崩壊しやすい地層のほとんどない地盤であったため、発生原因を調査するため、杭頭部から先端根固め部までのコアサンプリングを実施するとともに、コア強度の確認を行った。その結果、根固め球根上部のPHC杭中空部に、塊状の砂質シルト(セメントミルクと撹拌されず地山の状態で塊状に残った砂質シルト)とセメントミルクの混合物が固結状になったコアが採取された(図-3)。
杭挿入時に、この混合物が杭中空部に入り閉塞して、杭中空部の杭周固定液および根固め液の流路が遮断され、杭の挿入が困難になったと想定された。
杭の引き上げが困難になったことから、孔壁の緩みにより杭が周辺地盤から締め付けられることによる周面摩擦の増大も複合的な要因となったと思われた。根固め部のコアの圧縮強度は、管理強度(20N/mm2)の倍の40N/mm2であった。
当該杭については、以下の検討を行った結果、支持力上問題ないものと判断し、発注者の了解を得て、そのまま使用することとなった。
①施工管理データより、杭下端部が支持層内に設置されている。
②高止まりによる先端平均N値の変更等を考慮した支持力の計算値が、杭の必要支持力を十分満足し、安全性が確保できる。
③上杭を350mmカットすることで、上杭長が短くなることによる水平耐力の低下が考えられたが、照査の結果問題ないことが分かった。
また、トラブル発生以降の杭の施工における対策として、以下の事項を取り入れた。
①掘削液にベントナイトを混合して地盤の緩みを極力抑えるようにする。
②砂質シルト層掘削時は掘削速度を遅くするとともに、掘削撹拌ビットの上下反復を行って、地山とセメントミルクとを十分に混合撹拌することで、塊状の地山を含んだ固結体ができないようにする。
なお、砂質シルト層の掘削速度の目安は、表-11)を参考に、シルトの掘削速度の範囲のなかで、遅いほうの掘削速度(0.5~1.0m/分)とする。
③掘削撹拌ロッドの引き上げは、孔壁を乱すことがないようゆっくり慎重に行う。
プレボーリング工法による既製杭の施工においては、孔壁の崩壊が予想されない地盤においても、中空部の閉塞や、杭周部の孔壁の緩みによる周面摩擦の増加により、杭が高止まりを起こすことがあるので、施工前の綿密な検討と細心の注意を払った施工管理を行う必要がある。
1) 公益社団法人 日本道路協会:杭基礎施工便覧 p.205 平成27年3月
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