土工事、コンクリート工事、基礎工事の事例
コンクリート工事
4)打設準備(型枠・鉄筋組立・その他)
2024/04/01
河川の河口付近に位置する護岸工事で、1月下旬の冬季に、水中部から気中部にかけて高さ5mの被覆防食コンクリート(RC構造)を施工した。防食対象は鋼矢板で、コンクリートの厚さは30~50cmであり、延長は8m/スパンであった。
施工計画では、高さ5mのうち、水中部の2.5mは水中不分離性コンクリート(27-50-20BB)を、気中部の2.5mは普通コンクリート(24-12-20BB)を、それぞれ5層に分けて連続して打ち込むことにしていた。なお、普通コンクリートの1層目の打込みは、水中不分離性コンクリートの天端にたまった水をすべて処理してから行う。また、今回の施工では、海上施工の効率化のため、大組みした鋼製型枠を使用していた。施工箇所の断面とトラブル発生時の状況を図-1に示す。
打込みを開始して順調に進んでいたが、普通コンクリートの4層目(水中不分離性コンクリートを含めると9層目)の打込み中に異音がして、型枠下端の2か所のセパレータ周辺で型枠がはらみ出していることが確認されたため、打込みを中断した。なお、水中不分離性コンクリートは凝結が大幅に遅延するため、この時点ではまだ流動性を保った状態である。
コンクリートの硬化後に大組み型枠全体を取り外したところ、最下付近で最大2cm程度、コンクリートがはらみ出していることが確認された。ただし、コンクリートが型枠から漏れ出して断面が欠損しているような状況は認められなかった。
この型枠およびコンクリートのはらみ出しの原因は、水中部で既設の鋼矢板に溶接により固定したセパレータの、溶接部の破断であると考えられた。
今回の型枠については、前述のとおり、大組みした鋼製型枠を使用し、鋼矢板に溶接したブラケット上へ設置した(図-1)。また、水中溶接等の水中作業を極力少なくするため、セパレータを太径(D29)にして本数を少なくすることとした。セパレータは、図-2に示すように、あらかじめ鋼矢板にすみ肉溶接で固定しておいた鋼製プレート(PL-150×200×9)にセパレータを添わせてフレア溶接にて固定した。
型枠計算ではコンクリートの打上り速度は1m/hrとし、水中不分離性コンクリートを使用することから側圧を液圧(気中部も含めて)として、型枠やセパレータの本数等を計画した。その結果、セパレータのピッチは、最下段で最大1,200mmとなっていた。なお、セパレータのフレア溶接は、溶接サイズ10mm、両側溶接で5D以上とし、水中での強度低下を考慮して片側180mm以上として計画した。
このような施工方法により固定したセパレータの溶接部の破断は、鋼矢板とプレートのすみ肉溶接には十分な溶接強度が期待できることから、プレートとセパレータのフレア溶接部で生じた可能性が高いと考えられた。また、その原因は、溶接長の不足や溶接不良(溶込み不良や切欠きなど)のいずれかと思われた。とくに今回の場合、セパレータが太径であったことやセパレータの下側を溶接する必要があったために、とくにルート部(プレートとセパレータが接する部分)の不溶着部が大きくなりやすく、フレア溶接の品質の確実性が低下したと考えられる。
さらには、トラブル発生後のヒアリングにより、溶接されたセパレータと型枠に開けた孔の位置がずれやすく、セパレータの台直し(位置調整)が必要になる場合が多かったことも確認された。台直しの作業によりフレア溶接部に何らかの損傷を与えた可能性も否定できない。また、台直しによりセパレータとプレートが偏心した状態でコンクリートの側圧がかかると、溶接長の不足や溶接不良があった場合に、より破断しやすい状態であったと思われる。
また、今回の施工では工程の進捗が遅れていたために、溶接部の点検・確認が十分に行われていなかったことも確認された。さらには、施工当日がちょうど干満差の大きい大潮のタイミングで、打込みが進むにしたがって潮位が下がっていたため、側圧が大きくなっていた影響も考えられた。
打ち込んだコンクリートに関しては、詳細の目視確認によりコンクリートのひび割れや亀裂といった変状はなく、配筋にも異常がないと想定された。そこで、発注者の了解を得て、コンクリートははらみ出した部分も含めてそのままとし、上部のみ型枠を組み立てなおして、打継ぎ処理(超高圧水によるレイタンス除去)ののちに天端のコンクリート(打込みを中断した箇所)を打ち継いだ。
今回のトラブルの原因として留意すべき点としては、水中作業の効率化を図るために太径のセパレータを用いたことが挙げられる。一般に、フレア溶接は欠陥を生じやすい溶接方法であり、また前述のとおりフレア溶接は太径の鉄筋には適さず、直径16mm以下の細径の鉄筋での使用が推奨される。今回はこれを水中で施工したことで、さらに欠陥を生じるリスクが高くなったと考えられる。さらには、溶接部の点検・確認も不十分であったことで、さらに破断に至るリスクを高めてしまった。このように、施工計画の段階での検討不足(知識不足またはリスク評価の過ち)と、施工時の品質管理の不備は、避けなければならない。
上記を踏まえて、水中部での型枠設置で、とくに通しセパではなく、鋼管杭や鋼矢板などの既設の鋼構造物にセパレータを溶接して型枠を組み立てる場合には、確実な施工計画が重要であり、また溶接部の品質確認を確実に行う必要がある。
施工計画では、セパレータは16mm以下の細径のものを用いて、セパレータの本数を増やし、ピッチを密にする。これにより、溶接不良のリスクだけでなく、台直しによる悪影響やプレートとセパレータの偏心による影響も低減できる。水中溶接については、熟練した技能者による施工が望ましく、あらかじめ技量試験などにより技能者の力量を確認しておくことも望ましい。また、万が一に備えて、型枠のサポートやチェーンによる固縛を十分に計画することが必要である。
施工時の品質管理では、溶接部の目視確認(溶接長や溶接状態の確認)を確実に行うことが重要である。フレア溶接は、目視点検により不良品の発生確率を十分小さくできるとされている。また、今回の施工では実施されていたが、コンクリートの打込み1層ごとに潜水士による目視確認をして、変状の有無を早期に発見することも重要である。
編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。
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