現場の失敗と対策 このコンテンツは現場で働く皆さんの参考としていただきたく、実際の施工でよくある失敗事例と対策を記載したものです。土工事、コンクリート工事、基礎工事の3分野を対象として事例を順次掲載していきますので参考としてください。

現場の失敗と対策

土工事、コンクリート工事、基礎工事の事例

基礎工事

2024/05/01

中掘り拡大根固め工法での根固め部の負圧発生による杭の沈下

工事の概要とトラブルの内容

ビルの基礎として、中堀り拡大根固め工法によるPHC杭を施工した。杭の仕様は、φ600mm、L=32.0m(3本継ぎ)、掘削長35.0mである。

地盤の概要は、GL-5.5mまで埋土、GL-13.6mまでシルト、GL-20.3mまで細砂、GL-27.5mまでシルト、GL-33.0mまで粘土、その下に支持層となるN値50以上の中砂層が分布していた(図-1)。

既製コンクリート杭工法の施工管理要領1)に従って、標準的な杭の埋設・接合および根固め球根の築造を完了し、アースオーガの引き上げを開始したが、ヤットコの沈下には気付かなかった。

アースオーガの引き上げを完了し、杭頭高さを測定したところ、所定の深度より65cmの沈下が確認された。

図-1 杭の仕様および土質柱状図図-1 杭の仕様および土質柱状図

原因と対処方法

杭の沈下の原因としては、以下の2点が想定された。

①アースオーガの引き上げ速度が速すぎたため、杭先端部に負圧が発生し、ボイリング現象により根固め部および杭先端付近のソイルセメントが杭中空部に引き上げられるとともに、杭体が沈下した。

②支持層である中砂層の直上に粘性土層が介在しているため、その粘性土がアースオーガに円筒状に付着した。そのため、内部が気密性の高いピストン状になったため、アースオーガの引き上げ時の吸引現象が顕著になった(図-2)。

沈下した杭に対しては、支持力を確保するため定着位置で根固め球根を築造するとともに、当該の杭を含むフーチングについて、フーチングの構築時に一部を掘り下げて施工し、杭頭補強を実施した。

図-2 負圧の発生状況図-2 負圧の発生状況

以降の杭施工は、以下の2つの対策を行った結果、杭の沈下を防止することができた。

①根固め液注入開始前の掘削において、掘削ヘッド先端からの注水量を増量し、アースオーガへの粘性土の付着を抑制した。

②根固め液注入後のアースオーガ引き上げ速度を遅くして、掘削ビット先端が下杭の中間付近まで引き上げられるまで、注水を継続した。注水は、根固め部の上端より浅い位置から開始し、注水中は根固め部に掘削ビットを降さないように管理した。

同様の失敗をしないための事前検討・準備、施工時の留意事項等

◎今後の対応

・根固め部の支持層の直上に粘土、シルト等の粘性土層がある場合には、アースオーガ引き上げ時に負圧が発生して、杭の沈下や、杭の支持力低下が発生することがあるので、施工サイクルに余裕のある施工計画を立案しておく。施工計画の立案には、前述の工法の施工管理要領のほか杭基礎施工便覧2)を参考にすると良い。

・試験施工や本杭施工時にも、吸引現象が起こらないように、引き上げ速度を遅くすることや、引き上げ時に注水を実施することなど慎重な施工を行う。

参考文献

1) 一般社団法人 コンクリートパイル建設技術協会:既製コンクリート杭の施工管理要領(中掘り工法編) 平成28年9月

2) 公益社団法人 日本道路協会:杭基礎施工便覧 p.197 平成27年3月

「現場の失敗と対策」編集委員会

編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。

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