土工事、コンクリート工事、基礎工事の事例
土工事
1)切土
2024/09/02
(1)原因の推定
① 地質構成は建設時の調査から新第三紀中新世の泥岩が主体であり、硬岩と軟岩の区分からは軟岩に相当するとされていた。
② 道路詳細設計時における標準のり面勾配は、通常、1:0.5から1.2の範囲が用いられる(軟岩材料の場合)。1)
当該地区は、建設時の調査ボーリングから当該地質のRQDが30%程度の亀裂が発達していたことを確認している。しかし土質試験によるスレーキング率および破砕率が50%以下、吸水増加率が5%以下という結果から風化の影響は少ないと判断した。そのため、のり面勾配は最上部のみ1:1.0として、それ以外は1:0.8勾配で設計した。詳細設計時はのり面保護工として吹付枠工を計画していたが、開通後におけるスレーキングによる風化が少ないと評価して植生工のみで工事を完成させた。
③ 崩落現場を詳細に調査したところ、当該箇所の地質構造は道路に対して流れ盤となる亀裂が存在している。写真-3に示すように特に崩落箇所では流れ盤に直行する亀裂(節理)が存在しており、さらには泥岩の中に砂岩が挟在し、亀裂への浸透水を供給していたと考えられる。当初は新鮮な岩であったが、降雨による水の侵入により風化が進行し、これによりクザビ状の抜け落ちが発生したものと考えられる。
(2)対処方法
① 崩落箇所ののり面全ての植生をはぎ取り、詳細にのり面観察を行った。その結果、1段目のり面は、写真-4に示すように風化による表面の亀裂も少なく、建設時のリッパ跡も確認されており風化の進行は確認されなかった。2~4段目のり面は写真-5に示すように風化が激しく、表面に多くの亀裂と脆弱化が確認され、一部ではあるが土砂化されている部分が確認された。特に崩壊のあった3段目のり面は、亀裂の発達が著しく、小規模な抜け落ちが複数確認された。
② 復旧は応急復旧と本復旧の2段階による対応とした。本復旧については後背地の土地利用状況から、のり面の緩勾配による切り直しも検討されたが、必要な用地買収に係る復旧時間の長期化を考慮し、現況のり面の保護工の補強で対応することとした。
③ 補強対策はのり面観察の結果、流れ盤角度、亀裂の連続性等の調査結果からのり面の危険性をA,B,Cのランクに分類し、対策工法として切土補強土工、吹付枠工、モルタル吹付工を表-1に示すように組み合わせ復旧した。亀裂の発達が著しいのり面を危険性の高いランクAとし、亀裂も少なく風化の進行が少ないのり面をランクCとした。またどちらにも属さないのり面をランクBとした。特に小規模な抜け落ちの危険性の高いランクAは、吹付枠の交点に切土補強土工を施工した。鉄筋径はD19とし、鉄筋長さは亀裂の深さ応じて長さ2m~4.5mを採用した。
本事例については、設計時には切土1:0.8~1.0程度に対するのり面保護工を「吹付枠工」で計画していた。しかし、建設時では将来のスレーキングによる風化が少ないと評価して植生工のみで工事を完成させた。確かに完成された標準のり面勾配の範囲にあるが、結果として余裕のない施工になったものと考えられる。
のり面勾配は、ボーリングによるサンプリングや露頭によって得られた試料のみで決定されることもある。しかし、その場合は必ずしものり面全体を網羅したものとなっていない場合が多いため、施工段階において現場状況に応じた柔軟な対応が必要と考えられる。
当該地区のような切土では以下の点について留意し、工事の途中であっても現場状況から切土勾配を1.0~1.1に変更し、計画通り吹付枠工を施工するべきだったといえる。
① 層理、片理、節理等一定方向に規則性を持った割れ目が発達している場合において、割れ目の傾斜の方向とのり面の傾斜の方向が同じ方向となった流れ盤の場合には崩落しやすくなる。
② 流れ盤か否かの判断は、施工段階による現場確認によって割れ目等の走向・傾斜を正確に測定して、道路のり面の走向(のり尻線の方向と考えてよい)との関係から判断する。
切土のり面の設計は、比較的均質な土砂の場合や、地質構造に問題なくかつ密実性が高い明らかな硬岩は判断に迷うことが少ない。
一方、軟岩と呼ばれる岩には、割れ目が発達しやすい岩、風化の早い岩、蛇紋岩等の破砕や変質をうけて脆弱化した岩等非常に多岐な地質が含まれ、広い範囲で標準のり面勾配が示されている。そのため、のり面勾配の設定やのり面保護工については迷うことが多い。
切土ののり面勾配を計画・設計段階で決定する場合は、ボーリング調査結果だけでなく、周囲の自然地盤の状況や既設ののり面勾配を十分参考にするなど慎重な対応が必要と思われる。また、のり面勾配の選定の目安として、地質毎ののり面勾配と採用頻度や崩壊性要因をもつ地質ののり面の安定検討の資料があるので参考にすると良い2)。
一方、施工段階においては現場において精度の高い情報が得られるため、当初設計の思想と現場が乖離していないか等を常にチェックし、必要に応じてのり面勾配の見直しやのり面保護工の追加検討を行うべきである。
1)日本道路協会:道路土工 切土工・斜面安定工指針(平成21年度版)、p.136
2)東日本高速道路会社他:設計要領第一集 建設編(令和6年7月)、pp.参2-1~2-23
編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。
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