土木学会が平成12年に設立した認定制度──『土木学会選奨土木遺産』。顕彰を通じて歴史的土木構造物の保存に資することを目的に、500件を超える構造物が認定されています。
コンコムでは、たくさんの土木遺産の中から、最寄り駅から歩いて行ける土木遺産をピックアップし、「土木遺産を訪ねて─歩いて学ぶ歴史的構造物─」を不定期連載します。駅から歴史的土木構造物までの道程、周辺の見どころ等、参考になれば幸いです。
みなさんも旅のついでに少しだけ足を延ばして、日本の土木技術の歴史にふれてみてはいかがでしょうか。
認定年 | 令和4年度(2022年度) |
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所在地 | 愛知県名古屋市 |
竣工 | 昭和5年(1930年)(令和元年(2019年)供用開始(架け替え後)) |
選定理由 | 中川橋は、中川運河とともに竣工したブレーストリブタイドアーチ橋で、平成末に「横取り工法」で改修して次世代へつながれた貴重な土木遺産です。 |
中川橋とは逆方向にはなりますが、港区役所駅2番出口を左に出て、国道154号を北に100mほど進むと、国道154号をくぐる通路と上部に架かる「平和橋」があります。この通路の先に港北公園がありますが、そこは昭和12年(1937年)に、我が国初の国際的博覧会として開催された「名古屋汎太平洋平和博覧会」(以下、「博覧会」という。)の会場になった場所です。博覧会には、海外から29ヶ国が参加し、57のパビリオンが建ち並んで、会期78日間で総入場者数は480万人だったそうです。先ほどくぐった平和橋は、この博覧会のために堀川と中川運河を結ぶ港北運河に架けられたもので、博覧会名にちなんで平和の二文字をとって名付けられています。親柱はアール・デコ調の装飾を持ち、博覧会のシンボルタワーであった「平和の塔」のデザインを模しているとされ、名古屋市港区内で博覧会の跡をとどめる唯一の建造物だそうです。橋の脇には平和橋の説明看板が、港北公園の花壇中央には博覧会の説明看板が、それぞれ設置されています。
いろは橋を渡って左に曲がり、下流(港方向)に少し進み、川の水面に向かって少し降りていくと、水面に近接した歩道が下流方向に設置されています。この歩道は、いろは橋から後述する中川口通船門を経て中川橋に至る区間の、主として右岸側に整備されている中川口緑地の中にありますが、進んでいくと、ところどころに空気の泡が水面から噴き出しているのが見られます。これは、いろは橋から、後述する中川口通船門までの約500mの区間の水中に、右岸サイド5カ所、左岸サイド6カ所に設置された散気装置から、コンプレッサーから送り込まれた空気を鉛直方向に噴き出すことにより、深さ方向の水循環を生み出して水質をきれいにしているものです。名古屋市環境局によると、特に夏場においては、表層が温められることによって上層の温かい層と下層の冷たい層の2層に水の中が分かれ、深さ方向に攪拌が行われにくくなって下層に溶存酸素が運ばれにくくなっていることが水質悪化の大きな要因とされています。この水質浄化施設は、その要因を解消させるためのものと言えます。
そのまま中川運河を下流に進むと、中川運河と名古屋港との水面を隔てる「中川口通船門」に到着します。通船門(水色の門)は運河の右岸側(東側)に設置されていますが、中央には中川運河側の洪水を港側に排水するポンプ所(緑色の大きな建物)、左岸側(西側)には浄化用として活用されている、港側から運河側への取水門7門が設置されています。名古屋港の水位は潮の影響で大きく変動するため、水位差が3m弱にもなることがある港・運河間を船が安全に通過できるよう、パナマ運河と同様の仕組みで閘門を設置したのが、この中川口通船門です。上下流の門は観音開きのマイターゲート方式となっています。なお、中川口通船門及び水路はすぐ真横から見ることができますが、そのためには中川運河の右岸側を進んでいく必要があります。(左岸側からは間近に見ることができません。中川口通船門近くに来た時に、タイミングよく小型タンカー船が通船門から下流に進んでいたのですが、中川運河の左岸側にいたため、うまく撮影できませんでした。)
中川口通船門から500mほど進むと、土木遺産「中川橋」です。アーチを二重にしてトラスで結合している美しい橋で、戦前のアーチ形式の鋼橋のなかでも、万年橋(東京)、枝光橋(福岡)と並ぶ現存最古のブレーストリブタイドアーチ橋として、歴史的にも価値の高い近代土木構造物とされています。このため平成時代の補修時には、名古屋のシンボル的な橋として残すべく、横取り工法が採用されました。平成24年度(2012年度)に下流側に迂回路が設置されて切り替えられ、翌25年度(2013年度)に600tのアーチ桁がジャッキアップされ、上流側に造られた仮設橋脚まで約37mの横取り、仮置きが行われました。その後、下部工が新たに造られた後、補修された上部のアーチが再架設されています。なおこの補修と併せて、北側(上流側)に新しく単純非合成箱桁が設置され、2車線増えました。元のブレーストリブタイドアーチ橋には、片側2車線と広い歩道が供用されています。
今回は中川運河の最下流に架かる土木遺産、中川橋を約1.9km、60分ほど散策しながら訪ねました。中川橋は今年度(2022年度)、土木遺産に選定されましたが、この中川運河自体も令和2年度(2020年度)に土木遺産に選定されています。中川運河の全延長は支線を含めて約8.2km(水域の幅員は約36~91m、水深は約3m)あることから、最下流部を少し訪ねただけの今回では、土木遺産として中川運河を紹介するまでに至りませんでしたが、中川運河においては平成24年(2020年)に名古屋市と名古屋港管理組合(中川運河を港湾施設として管理)とが共同で「中川運河再生計画」を策定し、うるおいや憩い、にぎわいをもたらす運河へと再生する各種取り組みが進められています。また中川運河の北部に位置する東支線には、平成22年度(2010年度)に土木遺産に選定された「松重閘門」もあります。こちらもコンコムで紹介していますので、併せてご一読ください。
「歩いて学ぶ歴史的構造物-土木遺産を訪ねて-File03」
https://concom.jp/contents/heritage/vol03.html
なお、今回紹介した中川口通船門は、1日数隻の小型タンカー船が往来するのが主となっていますが、中川運河を航行するクルーズが運行されていますので、それに乗船すれば、船で中川口通船門の通過を体験することもできます。
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