2024/04/01
日本における少子高齢化は、統計上も今後もさらに加速することが予想されており、これに伴う生産年齢人口の減少も、今後ますます進むことが明らかです。特に建設業界は、少子化に伴う入職者の減少、また他産業と比べて高齢化率が高いこともあり、就業者数は減少をつづけています。令和4年(2022年)の調査では、建設業就業者数は479万人で、ピーク時の平成9年(1997年)の685万人から200万人以上も減少しています。
特に地域のインフラを担う地方の建設業にとっては、入職者の減少は、事業継続の面でも大きな課題であり、新規入職者の確保は最優先で取り組まなければならない問題といえます。
こうした中、公共工事の発注者である行政においても、地域建設業の「担い手確保と育成」を目的に、さまざまな取り組みを進めています。コンコムでも、これまで、秋田県建設部を中心に秋田県内の建設業の担い手確保と育成に取り組んでいる『建設産業担い手確保育成センター』の活動を紹介しました。
https://concom.jp/contents/searching/searching3/vol31.html
今回の「現場探訪/話題の現場」は、島根県で令和4年7月に設置された「建設産業担い手確保・育成支援プロジェクトチーム(通称:担い手確保PT)」の活動、『しまね建設担い手の確保・育成へむけた取組(アクションプラン)』についてご紹介します。
<アクションプラン>
【設立の背景・目的】
・建設業就業者の減少や高齢化により、人手不足や技術承継が大きな課題となっている。
・建設業全体が、『新3K』に転換することが重要。(『新3K』:「給与」が良い、「休暇」が取れる、「希望」が持てる)
・担い手の確保や育成を進めていくため、建設産業の魅力発信やICT導入推進を図る事業を新設するなど、取り組みを強化する。
【特に強化する取り組み】
これまでに業界団体や事業者に対して行ってきた担い手確保・育成につながる事業・取り組みへのさまざまな助成、発注者として行ってきた週休二日制工事の拡大や工事発注の平準化等の対応に加え、以下の取り組みをさらに強化する。
○まず、建設産業を就職先として認識してもらうことが重要であり、将来の担い手である若い世代だけでなく、保護者や学校関係者なども含む幅広い層に対し、見学会や体験行事などの実施に加え、就職後のキャリアイメージや処遇改善の状況、地域の守り手としての建設産業の魅力の発信を推進。
○県としても、業界団体への支援に加え、担当課ホームページのリニューアルや、SNSなどでの情報発信など、業界全体の魅力発信とイメージアップを推進。
○高齢化が深刻化しつつある技能者系の職種では、事業者・業界団体とも小規模で支援施策の活用が進んでいないことから、補助事業の利用要件の緩和など、県としての支援の方法を改善。
○生産性の向上のため、ICTの活用やDXの推進を引き続き支援。
○これらの取り組みの成果を高めていくには、産学官の連携も重要であり、既存の「島根県建設産業人材確保・育成推進協議会」など、引き続き、業界団体や国・県等の関係機関との連携・協力を強化。
○建設担い手確保のイメージマークを制作し、今後、魅力発信活動や、県担当課ホームページ等で活用。
●担い手確保のイメージマーク
「ミライビルダーズ」とは、『未来を創る』と『将来の建設業にかかわる人』をかけた言葉
<担い手確保PT>
アクションプランの作成にあたって特徴的なのが土木部内の各部署から選抜された中堅・若手職員を中心にプラン策定チーム、ホームページチームなどのプロジェクトチーム「担い手確保PT」を編成し、プラン内容検討やホームページの再構築などを実践した点です。
令和5年度からは、アクションプランに基づき、県も主体となり建設産業全体の魅力を伝えるための取り組みを行っています。
<県が実施する令和5年度の魅力発信の取組>
一般の方に広く情報を伝えるために、SNSを活用したPRを行っています。SNS(Facebook、Instagram、X(旧Twitter))は、『建設業魅力発信しまね』という共通の名称で開設し、建設業協会が実施する高校生の現場見学会の様子、島根県河川課が地元の小中学生と河川から流れ込んだ海岸漂流ゴミについて学びながら回収作業を行った様子、松江県土整備事務所が地元の安来市立井尻小学校の児童(16名)を招き、伯太川にかかる峠之内大橋でお絵描きイベントを開催した様子等、精力的に情報発信を行っています。
◎Facebook『建設業魅力発信しまね』
https://www.facebook.com/shimane.no.kensetsu/
◎Instagram『建設業魅力発信しまね』
https://www.instagram.com/kensetsu.shimane/
◎X(旧Twitter)『建設業魅力発信しまね』
https://www.twitter.com/kensetsu_shimane/
また、建設業技能系の職種の魅力をPRする動画「MEET THE みちごと〜キミの未知のお仕事」をYouTube『しまねっこCH(チャンネル)』で発信しています。この動画は、若者に見てもらうことを意識して、スマートフォンに対応した縦型のショート動画(60秒)となっているのが特徴です。現在、鉄筋工をはじめとして5職種について5テーマ「どんな仕事?」「私が選んだ理由」「未知だったこと」「仕事のやりがい」「気になるアレ聞いてみた」の動画が配信されています。
◎YouTube『しまねっこCH(チャンネル)』
https://www.youtube.com/@ShimanePref
・みちごと【鉄筋工編】どんな仕事?
https://youtube.com/shorts/M2T1fPg6xrs
・みちごと【石工編】どんな仕事?
https://youtube.com/shorts/K_u7b_GopKo
・みちごと【特殊運転手編】未知だったこと
https://www.youtube.com/shorts/Q1qRgm0VHdg
・みちごと【舗装工編】気になるアレ聞いてみた
https://www.youtube.com/watch?v=1WFqrMqXiP8
・みちごと【法面工編】私が選んだ理由
https://www.youtube.com/watch?v=0EUDPHIUMbo
◎みちごと「ランディングページ」
(動画で紹介しきれない職務内容等を分かりやすく記載)
https://michigoto.com
さらに、高校生等への情報発信として、建設業の現状や業種毎のキャリアパスイメージを知ってもらうためのガイドブック「島根の建設業キャリアパスガイド」を作成し、県内の全ての高等学校等の2年生に配布しています。
このように、担い手確保と育成へ向けてさまざまな取り組みを行っている島根県ですが、こうした取り組みの中心となっている「担い手確保PT」の発足前から、地域の建設業の人手不足や入職者不足に対して、独自に取り組んできたのが「雲南県土整備事務所」です。
後半は、「担い手確保PT」のメンバーでもあり、雲南地区の担い手確保のための建設業の魅力発信を行っている石倉課長さんと小林主任さん(以下、敬称略)に具体的な取り組みの内容や効果等についてお聞きしました。
小林:きっかけは、雲南管内で甚大な被害をもたらした令和3年(2021年)7月豪雨に係る災害です。今も管内の建設業者総出で復旧工事にあたっていただいている状況ですが、現場監督をする中で、現場に作業員さんが2~3名だけ、しかもこの雲南は特に高齢の方が多いことに気づきました。島根県、特に雲南地区での建設業の入職者が年々減っていることは漠然と理解していましたが、いざ実態を目にすると、同じ規模の災害が5年、10年先に起こった時、同じように工事を受注していただけるのか、この状況を見て見ぬふりをする訳にはいかないのではないかと思い、行政の立場でできることをやってみようと今の取り組みに繋がりました。
小林:現在の主な活動は建設業を知ってもらうための取り組みです。これは就活イベントや学校への聞き取りから、実は多くの方が『建設業』という言葉に聞き覚えがなく、「どのような職業か認識していない」という声を多く聞いたことから、まずは建設業という職業を知ってもらうための広報活動を行う必要があると感じたからです。その手始めとして、学と連携して将来の担い手となる小学生に『建設業』を知ってもらおうと、職員手づくりの『建設業こども新聞(ミライ★ビルダーズ新聞)』を作成し、教育委員会を通じて地域のすべての小学校6年生を対象に配布していただいています。その他、オリジナルポスターやPRロゴの作成、名刺や事務所封筒を活用したPRなど、日々思いついたことを、できることから少しずつ実践しています。また、雲南地区・仁多地区建設業協会にも取り組みの賛同をいただき、会員企業の皆様の社用車に貼れるステッカーも各社2枚ずつ購入していただきました。「建設業の人材募集」を表したこのステッカーは、街のいたるところで住民の方々の目にとまっているようで、「道の駅」の駅長さんからも、駐車場に止まっている地元の建設会社の社用車を見て、『ステッカー観たよ。目立つね』と連絡が入ったこともあります。
小林:こども新聞の読者からは「マンガみたいで読みやすい」「勉強になった」などの嬉しい声をいただいています。アニメ風の絵柄は表情や色づかいで、明るく元気なイメージを伝えるのに役立っているのかもしれません。また、地域の秋祭り「コスモス祭」「さくらおろち湖祭」で子ども向けに実施したはたらく車釣りやガチャガチャなども好評でした。世代によってニーズも変化するので、どのような企画だと興味を持っていただけるか、日々模索しています。
石倉:新聞やステッカーに使用しているイラストは、もともと小林が描いていたのですが、属人化してしまうと、彼女の異動等によって雲南地区の広報活動が止まってしまうことを避けるため、今は、彼女の作ったキャラクターのイメージを引き継いでもらって、外部のデザイナーに業務委託しています。
小林:部会では主に「こども新聞」の企画・制作を行っており、メンバーの中心は入庁3年目以内の若手職員です。技術系の職員だけでなく、用地・契約事務などを担当する事務系の職員にも参加してもらっています。色々な視点があることで、企画も多種多様なものになりますし、またマニアックすぎないか、専門用語を使用していないかなどを多角的にチェックする面でも効果的です。
石倉:入庁3年目以内の若手を抜擢しているのは、もうひとつ理由があります。県庁に入庁しても、初めから大きなプロジェクトにかかわることができるわけではありません。せっかく、意欲を持って入庁したのに、なかなかやりがいが見いだせず、数年で転職してしまう職員もいるのが現状です。彼らに少しでもやりがいを感じてもらうことと、県の職員として県全体の取り組みに携わっていることを目に見えるカタチで残すことで、業務に対する充実感を感じてもらいたいという狙いがあります。また、雲南県土整備事務所では、事務分掌規程を改訂し、メンバーの職務内容に「広報に関すること」を追加しました。こうすることによって、これまでは勤務時間外にボランティア的に行っていた広報に関わる作業も、業務として勤務時間内に行うことができるため、より責任感を持って業務にあたってもらえていると思います。
小林:工事現場での巨大看板や社用車を使った広告など、建設業者の皆さんのご協力も後押しとなり、一般の方から「最近建設業という文字を色々なところで見かけるね」と声をかけていただく機会も増えてきました。まだ道半ばではありますが、少しずつ建設業という言葉や職業が地域に浸透してきたように感じています。
小林:今後建設業体験イベントや学校授業など、建設業の魅力を直接伝える取り組みも企画していきたいですが、まずは建設業を知ってもらうための取組みを根気強く継続していくことが大事かなと思っています。ポスターや職業紹介冊子など、既存のものをうまく活用しながら、市報・町報やケーブルテレビ広告など、建設業協会の意見も取り入れた新たな取り組みにも挑戦していきたいです。建設業が地元で働く選択肢の1つとなるよう、今後も官民学で協働しながら、地域の担い手確保に取り組んでいきたいと思います。
石倉:建設業は特に「広報」が遅れていることが、間違ったイメージの浸透や勘違いにつながっていると思います。今回、北陸地方を襲った地震災害でも、自衛隊や警察の救助活動ばかりPRされている感が否めません。地震で通行不可になった道路を、危険を顧みずに啓開し、緊急車両が通行できるようにしたのは、間違いなく地元の建設会社の皆さんです。それでもTVニュースやメディアは、自衛隊の救助活動を真っ先に報道する。救助活動を行うための道路啓開作業についてはあまり触れられることがありません。自衛隊や警察のように組織に広報部門を置くことはできませんが、地域の守り手としての建設業をもっともっとアピールしていくこと、広報活動に注力することは、建設業の正しいイメージを伝えていく上で大切なことだと思います。
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