「現場の失敗と対策」編集委員が現場や研究の中で感じた思いや、
技術者に関わる情報を綴っています。
2016/06/28
30年前のことになるが、鉄筋工事でスペーサは専門業者が用意していたため、スペーサのことをあまり考えたことがなかった。ベースの下筋を組み立てるのに、均しコンクリートの上にサイコロと呼ばれるコンクリート製またはモルタル製の立方体のスペーサを並べ、その上に段取り筋aを流し、その上に縦筋bを並べ、その上に横筋cをbと直交するように配筋していた。このとき、段取り筋aは横筋cの一部として扱われていた(図1、図2)。
配筋検査で、発注者から指摘されることもなかったし、鉄筋の組み立てとはこういうものだと思っていた。しかし、耐久性という視点で見ると、大半の鉄筋は所定のかぶり厚さがとれているが、段取り筋aは明らかに鉄筋のかぶり不足である。スペーサのカタログを見ていたら、写真1を見つけた。段取り筋にエポキシ樹脂塗装鉄筋(ブルーの鉄筋)を使用している。なるほど、これなら耐久性の問題は解決できる。ところが、この写真はスラブ型枠の上に組み立てた鉄筋であり、スペーサにサイコロを用いている。私はスラブのスペーサについては金属製のパテントスペーサ(写真2)が優れていると考えていた。プラスチック製より頑丈で、脚部はさびないように塗装されている。(現在では、金属製のスペーサは使用が制限されている。)
あるとき、スラブの鉄筋を組み立てるのに、型枠の上にモルタル製のサイコロを並べている場面に出会った。コンクリートが打ち込まれ、脱型してみるとスラブの下面にサイコロの跡が規則正しくくっきりと表れていた。サイコロの質が悪く、保管状態も悪かったせいか薄茶色に変色していた。補修の方法も無いので、経年で、周囲の色になじむのを祈るだけであった。
国土交通省の土木工事共通仕様書(平成25年3月)によれば「受注者は、型枠に接するスペーサについてはコンクリート製あるいはモルタル製で本体コンクリートと同等以上の品質を有するものを使用しなければならない。」と書かれている。土木学会の2012年制定コンクリート標準示方書[施工編]の解説には「型枠底面に設置するスペーサは鉄筋の荷重を支える必要があり、上床版下面等ではコンクリート表面にスペーサが露出することになる。したがってこの施工標準では、強度、耐久性、外観を考慮してモルタル製あるいはコンクリート製のスペーサを使用することを原則とした。」と材質について書かれているが、形状に関する記述はない。スラブに使用するスペーサは型枠と面で接するサイコロではなく、写真3に示すような型枠に線で接するモルタル製のスペーサを使用すべきであった。
先日、現場を見学する機会があった。そこではスラブの鉄筋の組み立てに段取り筋を用いず、モルタル製のスペーサで直接下筋を受けているようである(写真4)。スペーサの数は増えるが、美観および耐久性の問題をクリアしていた。
土木遺産を訪ねて
2024/10/01
今回の歩いて学ぶ土木遺産は、兵庫県境に位置する岡山県備前市三石にある煉瓦拱渠群です。最寄り駅はJR山陽線の三石駅で、今回の行程は、ここをStartとしますが、煉瓦拱渠群は現在も...
現場の失敗と対策
現場の失敗と対策
今月の一冊
2024/10/01
明治時代の洪水被害を契機として、首都圏を水害から守るべく計画された人工河川「荒川放水路」は、100年の歴史の中で一度も決壊することなく、首都・東京の発展を支えてきた。...
コラム
Copyright © 2013 一般財団法人 建設業技術者センター All rights reserved.