「現場の失敗と対策」編集委員が現場や研究の中で感じた思いや、
技術者に関わる情報を綴っています。
2022/09/01
「ほんの少しの量の砂糖でもコンクリートは固まらなくなり、その量が増えると急に固まったりする面白い性質がある。」これは山田順治先生が書かれた本1)の一節であり、これに関するエピソードが2つ載っている。一つは米国での例で、コンクリートミキサー車には砂糖の入った袋を持たせておき、道路事情やミキサー車の故障などで運搬している生コンが硬化し始めた時、運搬車に生コンが張り付かぬよう砂糖を混ぜるそうである。もちろんコンクリートは工場へ持ち帰る。もう一つは埠頭の砂糖倉庫と荷受け桟橋の間をコンクリート舗装した時、桟橋と倉庫の間を行き来する作業員のために歩み板を2列渡したのだが、その両側のコンクリートが点々と固まらなかったという。原因は通路を渡る作業員の衣服に着いていた砂糖がこぼれたとのことであった。
文献2)によれば「砂糖が非解離性のカルシウムであるサッカライドを生成し、液中のアルミナの溶解度を高め、アルミナシリカゲルをセメント粒子上に生成するためで、砂糖はわずか0.05%でもセメントは固まらない。」とのことである。
砂糖の混入でコンクリートが固まらないという現象を、土木の工事に携わる我々のなかで、体験する人はほとんどいない。ところが偶然にも、砂糖を荷受けする桟橋のコンクリートが砂糖に侵されている場面に遭遇した。桟橋コンクリートの補修について調査設計を依頼されたのである。もしかして、ここは山田順治先生が紹介した埠頭かもしれないと因縁を感じた。ここではコンクリートに砂糖を混ぜたのではなく、硬化したコンクリート表面に砂糖が付着することで虫歯のように侵され、黒くベトベトになっていた。黒くベトベトしていたものは化学反応したコンクリートではなく砂糖だったのかもしれない。
コアボーリングした結果、劣化したコンクリートの深さは4cmに満たないと判定した。補修はまず劣化したコンクリートをはつり取る。設計上は4cmとしているが、さらに深部に脆弱部があればそれも除去する。次に凹凸のあるはつり面をセルフレベリング効果のあるポリマーセメントモルタルで均し、硬化後、エポキシ系のレジンモルタルを2cmコーティングする方法(図1)を提案した3)。
設計書の作成に当たり、不良コンクリートの除去作業はどのように管理したらよいか悩んだ。はつり作業そのものはピックで行うのだが、「コンクリートの脆弱な部分を除去し」では積算できない。斫り深さ4cmを確保するために、オートレベルとスタッフによる水準測量、水糸を張ってスケールで測定、はつったコンクリートの体積測定・・・と考えたあげく次の方法にたどり着いた。
コンクリート表面を深さ5cm、10cm間隔で碁盤目にカッターを入れ、深さ4cmまではつり除去する(図1)。このやり方は寒冷地の県道の道路橋で、コンクリート舗装した橋面全体を切削する作業でも行われていることがある。
現在、この埠頭では荷卸しされた砂糖は密閉されたベルトコンベアによって倉庫まで運搬されていて、砂糖がこぼれることは無い。(写真1,2)
現場の失敗と対策
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