土工事、コンクリート工事、基礎工事の事例
土工事
1)切土
2019/11/28
山間部の道路拡幅工事において、切土の施工が完了した直後に法面に小規模な変状が発生した(図1)。法尻の排水溝(U型コンクリート側溝)にずれが生じていたため、周辺地盤を慎重に確認したところ、切土法尻には押出し変形に起因すると思われる小さなクラック(圧縮亀裂)が見つかった。また、法尻付近の頁岩層には、やや風化した薄い泥岩層が挟在しており、雨上がりには少量の湧水が発生していた。さらに切土法面背後の緩い自然斜面を踏査すると、そこにも地すべりの兆候を示すクラック(開口亀裂、段差1~5cm、延長10m程度)が発生していたため、すぐに工事を中断し対策を検討した。
現場の地質は、事前調査によると法面上部の表土(岩塊混じり砂質土)の下は、砂岩、頁岩、砂岩となっており、流れ盤構造ではあったが、いずれも中硬岩で地層傾斜も緩かったので地すべりのリスクは想定していなかった。
まず、応急対策として切土法尻に押え盛土を施工し、並行して法面上方のクラック発生個所には伸縮計を設置し動態観測を開始した(図2)。
そして、押え盛土によって変位の進行が止まっていることを確認した上で、クラックと法肩の中間位置で追加のボーリング調査を実施した(図2)。
調査データは既往のボーリングデータとも対比し、すべり面の特定とすべりの発生要因の検討を行って対策工を選定した。なお、動態観測は対策工の完了後も半年間継続し、斜面の安定が保たれていることを確認した。
追加のボーリング調査によって、以下のような事が判明した。
①法面上部のクラックの位置には小規模な断層が存在する。
②頁岩層は「薄い泥岩層」を挟在しており、その泥岩層は風化が進んでいる。なお、頁岩層の風化は進んでいないが、挟在泥岩層の風化は切土法面でも確認することができた。
③既往のボーリングデータを改めて照査すると、②の「薄い泥岩層」の存在は確認できたが風化が進行しているとは認められず、設計段階ではこの泥岩層は考慮されていなかった。
これらの調査結果から、今回の地すべりの兆候は、断層面を通じて雨水等が供給されて風化の進んだ「薄い泥岩層」(断層との交差部より下側)が弱層(すべり面)となり、断層面と連動して発生したものと判断された(図3)。
対策工としては、上記の調査結果を踏まえた切土法面の安定解析を実施して、グラウンドアンカー工を選定した(図4)。
斜面の切土工事では、今回のように地層傾斜が小さい地質構造であっても、流れ盤構造の場合には細心の注意が必要である。また、20°以下の緩傾斜地では地すべりのリスクが潜んでいることがあるので、事前調査を十分に実施すべきなのは当然のことであるが、風化堆積岩や断層の他にも、崖錐堆積物、膨潤性鉱物、火山灰、湧水といったリスクを予見できる情報を見落とさないように、地質の専門家のアドバイスを受けることが望ましい。
なお、近年頻発している大地震や豪雨による災害では、比較的緩斜面であっても斜面崩壊が発生したという事例が報道されており、今後は一層の注意が必要である。
編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。
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