土工事、コンクリート工事、基礎工事の事例
コンクリート工事
1)打設中(コンクリートの特性とクラック)
2020/09/29
鉄道用複線PC単純T形桁橋(合成路盤)の建設において、横組スラブおよび張出しスラブに図-1に示すようなひび割れが発生した。支間長は23mであり、ひび割れはスラブ横断方向(橋軸直角方向)に10~15本(約2m間隔)発生しており、断面を貫通するもの、下面のみのもの、上面のみのものなど様々であった。ひび割れの幅は0.1mm程度のものが多く最大でも0.2mmであった。当該工事の場合には、ひび割れ対策のための収縮目地として設計図面に従い橋軸直角方向に5m間隔に深さ10mmの目地を設置していた。しかし、その部分以外の場所にひび割れが発生し、収縮目地部にひび割れを誘発することができなかった。なお、地覆部分には目地は設置されておらず、かつひび割れの発生は認められなかった。
スラブコンクリート(厚さ300mm)の施工手順は図-1に示すとおり(①→④)であり、コンクリートの打込みは1月~8月に行い、配合は「普通-30-8-25-H」(呼び強度30N/mm2、スランプ8cm、粗骨材最大寸法25mm、早強ポルトランドセメント)であった。コンクリート打込み後、養生マットによる湿潤養生を5日間行った。
横組スラブおよび張出しスラブに発生したひび割れは、型枠を取り外した時に既に発生していたものや、打込み後1~2ケ月経過してから発生するものもあった。このようなことから、ひび割れ発生の原因は、スラブコンクリートの収縮(セメント水和熱による温度収縮、環境温度の低下による収縮、乾燥収縮)が既設のPC桁に拘束されたことによるものであると考えられた。
発生しているひび割れの方向が、主鉄筋と同一方向(横断面方向)であるので、構造的安全性に影響を及ぼすことはないと考えられた。しかし、ひび割れを通じて酸素や水分が鉄筋部分まで供給されると鉄筋腐食が生じる可能性があるため、発注者と協議のうえ、けい酸ナトリウムを主成分とする表面含浸材にて補修することとした。これは、コンクリート中の未水和セメントやカルシウム成分と反応して安定した反応物(CSH系結晶)を生成して微細なひび割れ等の空隙を充填するものである。コンクリートの収縮ができるだけ収束してひび割れ幅が大きくなったときに行うのが望ましいため、工期に支障をきたさないできるだけ遅い時期でかつ外気温が低い冬期に行った。
当該スラブのように、既設のコンクリートに新設のコンクリートを打ち継ぐと、コンクリートの収縮が拘束されて収縮ひび割れが発生する場合が多い。設計図面には収縮目地として、橋軸直角方向に5m間隔に深さ10mmの目地を設置するようになっていたが、断面欠損率が3%と小さいためその位置にはひび割れを誘発することができず「ひび割れ誘発目地」としての機能は発揮できなかった。
2007年制定土木学会コンクリート標準示方書によれば、目地部にひび割れを確実に誘発するには、目地部の断面欠損率(目地の深さを部材厚さで除した値)は30~50%を推奨している。また、2012年制定版以降では断面欠損率50%程度以上を推奨しており、止水性が要求される場合には止水板を設置した図-2のような構造を推奨している1)。このように、単に深さ10mm程度の目地材(化粧目地)を設置しただけではひび割れ誘発目地の機能を発揮しないことを示している。したがって、「収縮目地」の「ひび割れ誘発目地」への変更、あるいは膨張材や収縮低減剤などの使用によるひび割れ対策の検討・協議を事前に行うべきであり、発注者・受注者両者の認識不足が悔やまれる事例であった。特に、このようなひび割れの補修を伴う場合には、補修に要した多大な費用は原則として受注者が負担することが慣例のため、施工前の検討と協議が重要である。
1) 2017年制定 土木学会コンクリート標準示方書施工編
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