現場の失敗と対策 このコンテンツは現場で働く皆さんの参考としていただきたく、実際の施工でよくある失敗事例と対策を記載したものです。土工事、コンクリート工事、基礎工事の3分野を対象として事例を順次掲載していきますので参考としてください。

現場の失敗と対策

土工事、コンクリート工事、基礎工事の事例

土工事

3)地盤改良

2022/12/01

護岸改良工事での高圧噴射地盤改良のトラブル

本工事は「2019年度九州国土交通研究会」(国土交通省九州地方整備局開催)において発表された論文を基に紹介しております。

工事の概要とトラブルの内容

規模な地震津波、高潮に備えるための護岸改良工事1)において、複数の比較案の中から経済性および施工性に優れた図1の構造が選定された。既設護岸の下には層厚90cm程度の基礎捨石層があり、その下の地盤はN値が10~24の砂層である(図2)。しかし、この既設護岸は築造後50年程度経過しており、老朽化が進み、既設鋼矢板からの土砂吸出しによる不具合も発生していた。そこで、土砂吸出し防止のために既設護岸の下を地盤改良することとし、作業スペースの制約等から高圧噴射撹拌工法が採用された。なお、地盤改良を護岸直下の必要範囲に限定して効率的に行うため、セメント系硬化材の噴射方向を制御して扇型の改良体を造成することができ、かつ捨石層を貫入することが可能な施工方法(FTJ-FAN工法)が選定された(図3、図4)。

高圧噴射撹拌工法の試験施工を行い、施工後に改良体のチェックボーリング①(図3)を実施したところ、地盤改良の下層50cmの範囲に未改良部分が発生していることが分かった。

図1 護岸改良工事の概要図1 護岸改良工事の概要

図2 既設護岸の断面図と地盤条件図2 既設護岸の断面図と地盤条件

図3 既設護岸直下の地盤改良範囲図3 既設護岸直下の地盤改良範囲

図4 揺動式高圧噴射による扇形地盤改良図4 揺動式高圧噴射による扇形地盤改良

原因と対処方法

原因究明のため追加のチェックボーリングを2本行った(図3)。チェックボーリング②では①と同様に地盤改良の下層50cmの範囲に未改良部分が認められた。一方、チェックボーリング③では基礎捨石層が存在せずに、地盤改良の下層50cmの範囲に石混じりの未改良部が認められた(図5)。これらのことから、未改良部発生の原因は、護岸直下の基礎捨石層の「捨石」が高圧噴射地盤改良の施工中に改良範囲の下層に落下したためであると考えられた。撹拌翼付きのケーシングによる削孔中に捨石が改良層の下部に落下して堆積したことで、セメント系硬化材の噴射が所定の距離まで到達できずに未改良部が発生したと推測される(図6)。

対処方法として、捨石を設計改良範囲より下に落とし込むために、以下に示す施工方法を用いることにした(図7)。

1)撹拌翼による削孔を設計改良深度より2m深く余掘りする。

2)捨石を余掘り範囲内に確実に落とし込むためにケーシングを上下動させる(ダブリング施工)。

3)設計改良深度までケーシングを引き上げてから高圧噴射地盤改良の施工を開始する。

上記の施工手順で地盤改良した箇所においてチェックボーリングを行った結果、未改良部は認められず、その後の地盤改良も順調に施工することができた。

図5 チェックボーリング③の結果図5 チェックボーリング③の結果

図6 未改良部の発生原因の推定断面図図6 未改良部の発生原因の推定断面図

図7 余掘りによる捨石対策の概要図7 余掘りによる捨石対策の概要

同様の失敗をしないための事前検討・準備、施工時の留意事項等

高圧噴射撹拌工法はコンパクトな機械によって任意の深さで必要な区間だけを施工することができる。しかし、改良範囲内に転石等の地中障害物があると、固化材スラリーの噴射が遮られて未改良部が発生することがある。したがって、事前の地盤調査は、その点に留意し適切に実施する必要がある。また、特殊な施工条件では事前に試験施工を実施して施工性や改良品質等を確認するのがよい。

最後に、本記事の掲載をご快諾いただいた、九州地方整備局の関係者の皆様に厚く謝意を表する。

参考資料

1) 上田倫大,平野隆幸:大分港海岸地盤改良工事における課題と対応(ダブリング施工)について,2019年度 九州国土交通研究会,Ⅲ部門
(http://www.qsr.mlit.go.jp/useful/n-shiryo/kikaku/kenkyu/r1/03/3_09(52).pdf)

「現場の失敗と対策」編集委員会

編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。

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